File140 惑星リーシオ経由惑星ヤルマド行き貨物輸送⑨ 到着直後のトラブルは勘弁してほしい
昼食が済めば、夕食の時間まではまた退屈な時間になる。
大型の豪華客船なんかは、船の中に様々なアミューズメントを用意し、乗客を飽きさせないようにするものだが、貨物メインの貨客船にそんなものはない。
せいぜいが書籍やボードゲーム。パッケージのゲームにテレビぐらいだ。
見方を変えれば、俺の家に招待しているようなものだから、アミューズメントを期待されても困る訳だが。
だが、この評議員閣下御一行は実に扱いやすかった。
評議員閣下は寝室で昼寝を。
補佐官は大型端末でなにやらお仕事。
サイア嬢はアディルとなんかのゲームに興じていた。
俺はコクピットに座り、読みかけの小説を読むことにした。
それからしばらくして夕食の時間が近づいてきたので厨房に向かうと、アディルは当然だが、やっぱりヴルヴィアさんもついてきて準備を手伝わせてくれと言ってきた。
そうして作り上げた夕食は、白米・煮卵・卵焼き(プレーン)・春雨のスープ(白菜・人参・筍・木耳・溶き卵の鶏ガラスープ)・乾焼蝦仁=海老のチリソース煮という、リクエストをいれつつのリーシオ風の献立にしてみた。
「ほほっ!これが『黄金煉瓦』か!今年の新華祭ではこいつもいただきたいもんじゃな」
フッキネス評議員は『黄金煉瓦』を口に運び、
「これが噂の『宝珠煮卵』…。美味しい…」
サイア嬢は『宝珠煮卵』をもきゅもきゅしながら、時おり春雨のスープに箸をつけ、
「やっぱりショウンさんのお料理は美味しいです…」
そしてヴルヴィアさんは、以前の様に口いっぱいにすることはなく、なかなかのハイペースで口に運んでいた。
その光景を見てアディルが、
「マスターのお料理はドラコニアル人の方々を簡単にろう絡させるのですね」
と、言ってきた。
その一言に、何故かオルランゲアの受付嬢達の姿が浮かんできた。
あれか、また末端価格がどうこう言われる事になるのか?勘弁してくれ…。
ちなみに酒は、評議員が缶ビール(500ml)を5本空けただけで、女性2人は食後にソフトドリンクを楽しんでいた。
翌朝の朝食の準備中に、フッキネス評議員の専用艇『クリムゾンラビット』から通信がはいったので繋げたところ、
『やっと繋がった!閣下!何とぞ私を後継者に!』
『なにをいうか!それは私だ!閣下!是非とも私を!』
『サイア様!私の事を是非ともお祖父様に!』
『私こそが!私だけが次期評議員を任せられる人材です!』
『閣下。出来れば2人でお話ししたいのですが…♥️』
フッキネス評議員が嫌がった、自称・次期評議員候補達が猛アピールを仕掛けてきたのだ。
どうやら評議員が先に出発した事が発覚したので、評議員にアピールしようとするも評議員側が彼等をブロックしていたため繋がらず、ならばと絶対にブロックされない専用艇に押し掛けたらしい。
この事実を目の当たりにしたコーウェン・フッキネス惑星リーシオ代表評議員は、
「儂は推薦状など書くつもりはない!よしんば書くとしても、貴様らのような連中に書くつもりはない!」
と一喝し、
「すまんな朝飯前だというのに。まったく非常識な連中だ」
そのまま俺に頭を下げてきた。
ちなみに朝食は、リーシオ式朝食の定番といえる、豆乳(砂糖入りのホット)・具なしの包子(饅頭の皮だけの蒸しパンみたいな奴)・具入りのお粥・漬物という献立だ。
それからの1日半、惑星ヤルマドへの到着までは、なんのトラブルもなく平穏に過ぎていった。
「いやいやすまんのお。土産まで貰うてしもうて」
惑星ヤルマドの宇宙港内部の停泊地内で、コーウェン・フッキネス評議員が両手に荷物を山と抱えていた。
その荷物の内容は、『宝珠煮卵』と『黄金煉瓦』だ。
昨晩のフッキネス評議員にねだられて製作したものだ。
「評議員であるお祖父様があれだけ露骨に要求したらショウンさん達は作らざるをえないじゃないですか!」
「そうですよ!リーシオの評議員はパワハラをする人物だって噂が立ちますよ!」
「そういうお前さん達も土産を貰っておるようじゃが?」
荷物をかかえたフッキネス評議員に、サイア嬢とヴルヴィアさんが抗議するも、自分達も土産の荷物を抱えていては説得力は皆無だ。
「ともかく世話になった。お前さんの商売が円満に巡るのを祈っとるよ」
コーウェン・フッキネス評議員達は、好好爺の笑みを浮かべながら停泊地を後にした。
それから配達の貨物を受け渡し、受付で終了証明と報酬を受け取り、停泊地に帰ってきたところで、
「ちょっとすみません。お話よろしいですか?」
何故か警官に話しかけられた。
視点変換 ◇オビサ・カエジス◇
銀河正史歴1383年1月24日・午前7時29分。
今私は、秘書をつれて意気揚々とあるホテルの一室に向かっていた。
その理由は、これで私の未来が約束されるからに他ならない。
何せ私は、コーウェン・フッキネス評議員閣下を誘拐し、リーシオ政府に身代金15億クレジットを要求した誘拐犯に対し、その交渉役を買って出て、身代金を全て立て替え、評議員閣下・補佐官・閣下の孫娘の3人もの命を救ったのだからな!
犯人は既に逮捕したものの、リーシオへの護送中に逃亡したので仕方なく射殺したと報告があった。
この事実を知れば、評議員閣下は私を次期評議員として推薦してくれるだろう。
最初の計画が全て無駄になった時は焦ったが、これで軌道修正はできるだろう。
評議員閣下を運んだ輸送業者はヒューマンの男女らしいが、この私の栄光の礎になれるのだから感謝するのは当然だな。
さあ、この私の輝かしい人生をつかみ取りにいくか!
銀河正史歴1383年1月24日・午前7時30分。
コーウェン・フッキネス評議員閣下の部屋の前に到着すると、服の襟を正してからドアをノックをする。
「おはようございますコーウェン・フッキネス評議員閣下。お目覚めでしょうか?」
「誰かね?こんな朝の時間に」
少しばかり不機嫌な声だが、朝の時間なのだからそれは仕方ないだろう。
だが私の報告を聞けば、その機嫌もよくなるはずだ。
「リーシオ惑星議会議員、ウゴサ・カエジスの息子で、おなじくリーシオ惑星議会議員のオビサ・カエジスです。ご報告があって参上いたしました」
「ふむ…。まあ入りたまえ」
「失礼いたします」
部屋の中には、評議員閣下の他に、孫娘のサイア嬢。補佐官でヴルヴィア家令嬢のフィナ・ヴルヴィア。それとヒューマンのメイドが2人控えていた。
「それで報告というのは?」
評議員閣下とサイア嬢と補佐官は、朝食を取りながら私に視線を向けてきた。
「はい。実は閣下がチャーターなさった貨客船の船長及び乗務員がリーシオ議会に対し、『評議員閣下を人質にした。補佐官と孫娘も一緒だ。身代金を15億用意しろ』と連絡をしてきました。私はたまたまその場に居合わせ、マスコミに知られる訳にはいかないと考えて、電話をとった職員以外には漏らさないようにし、彼等と交渉しました。そして皆様の身代金計15億クレジットをデータマネーで私が支払い、誘拐犯に皆様を解放させた後、犯人を捕縛してその船を回収。犯人はリーシオへと護送しようとしたのですが、途中で抵抗・逃亡したのでやむなく射殺したそうです。ご報告と安否確認が遅くなりましたのは申し訳ございません」
私の説明を聞き、3人は呆然としていた。無理もない。知らないうちに危機に陥り、知らないうちに救われたのだ。
見ろ!サイア嬢とフィナ補佐官は恐怖で震えているじゃないか!
「恐ろしい体験をなさいましたね。大丈夫。私がそばについていますからご安心ください」
私は2人を慰めるべく近づいた。
もしサイア嬢が私に惚れでもしたら、更に磐石な物になるだろう。
しかし次の瞬間、評議員閣下・サイア嬢・フィナ補佐官・ヒューマンのメイドの2人が大笑いを始めた。
視点終了
ショウンの船の食料保管庫には、卵・砂糖・牛乳はかなり多めに入っています
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