File142 惑星ヤルマドでの短い休日 名物になるものは美味しいが、似たものが意外とある
「これで一件落着じゃな。地元警察がマトモでよかったわい」
首謀者であるオビサ・カエジスとその秘書が警官隊に連行されていくのを見ながら、フッキネス評議員がコーヒーのおかわりを自分で注いでいた。
「お祖父様。もしかしてウゴサ・カエジス議員に辞職を命じたのですか?」
孫娘のサイア嬢が砂糖壺を差し出しながら、とんでもない質問を祖父に投げ掛けていた。
「いやいや。『お前の息子が私に失礼を働いたのだが、それはお主の指示か?』と、通信で尋ねただけじゃよ?」
「わかってておっしゃっていますよね?」
「まだ若いリーシオの議員がヤルマドの警察にコネは作りづらい。ヤルマド出身で若い頃にヤルマドで議員を勤めたあやつの父親なら話は別じゃろうがな」
孫娘であるサイア嬢の質問にも、フッキネス評議員はそしらぬ顔でコーヒーをすすっている。
これ以上は聞かない方がいい話だな。
「ありがとうございました。また冤罪で捕まるところでした」
以前の時は地元警察が最悪だったから、ヤルマドの住人が羨ましく思える。
「いやいや。今回の事はこちらの落ち度じゃからな。詫びをいれねばならんのはこちらじゃ。その詫びといってはなんじゃが、もし今後何かあったら、フィナ・ヴルヴィアに遠慮なく連絡をしてくれたまえ。儂に確実に繋がるからのう」
フッキネス評議員の言葉に合わせてヴルヴィア補佐官が連絡先を渡してくる。
はっきりいって受け取りたくないが、受け取らないわけにはいかないだろう。
腕輪型端末で連絡先を受け取ると、アディルが俺の服をつんつんと引っ張ってきた。
「あの…マスター。これはいつまで着ていればいいのでしょう?」
見ると、アディルがちょっと恥ずかしそうにしていた。
「ああ、そうだな。着替えて暇をするか」
俺もこれ以上メイド服は嫌なので、さっさと着替えて帰ることにしよう。
「あ、そのメイド服はそのままお持ち帰りください」
「お返しします」
フィナ・ヴルヴィア補佐官の戯れ言は無視することにした。
まずはそのまま貨物配達受付にいって依頼を受けると、買い出しに向かう事にした。
ドラコニアル人3人というのは、かなりの量になるため補充しないと大変な事になる。
「きて早々偉い目にあったな」
「こんなことがよくあるんですか?」
「あってたまるもんか…」
アディルには、こういう体験は出来ればしてほしく無かったが、出来れば激減することを祈るだけだ。
「ところでマスター。時折通路に目立つように張ってあるポスターにある『化粧餅』というのはなんなのですか?」
アディルが指差したのは、惑星ヤルマドの銘菓『化粧餅』の販促ポスターだった。
「ああ。あれはこの惑星ヤルマドを代表する銘菓だ。連邦や帝国でも有名なんだぞ」
『化粧餅。惑星ヤルマドで産まれた、生地そのものに甘い味付けをした柔らかい餅菓子で、大きさは板状・縦6㎝横4㎝厚さ5㎜。
白・赤・緑の3色があり、おめでたい事の贈答品や返礼品に使われる』
軽く調べれば直ぐにでてくる『化粧餅』の情報だ。
「マスターの製菓とどちらが美味しいのですか?」
「それは向こうだな。俺の一生涯以上の年月を『化粧餅』作りに捧げてるんだぞ?とても敵わないよ。贈答品や手土産によくつかわれるから、量から考えるとちょっと高いけどな…」
アディルはわくわくした表情で俺を見つめてくるが、プロの菓子職人。しかもドラコニアル人ともなればヒューマンの一生以上の時間を費やしてる訳だから敵うはずはない。
ちなみにこのポスターに載っている『燐光堂』は『化粧餅』発祥の店だ。
そしてその『燐光堂』の宇宙港店がたまたま近くにあったので、
「すみません。『化粧餅』の三色の36個入りを一つ」
「ありがとうございます!1800クレジットになります!」
三色の奴を買って、アディルに手渡した。
「はいこれ。食べてみたかったんだろ」
「申し訳ありませんマスター!物欲しそうな表情になってしまっていたでしょうか?」
「俺も久しぶりに食べたかったんだよ」
俺は手を伸ばし、恥ずかしそうに謝罪するアディルの頭を撫でてやった。
それから買い出しを済ませてからフードコートに向かって、洗龍茶のアイスを買い、そこで『化粧餅』を食べる事にした。
よく見れば同じことをしている観光客や同業者が何人もいた。
「おいひいですマふター…」
アディルはさっそく『化粧餅』を口に運ぶと、相当美味しかったのか顔がにやけている。
これだけで買ってあげた事が嬉しくなってしまう。
バイオロイドの特徴の1つに、食事をするというのがあるが、これがある事でバイオロイドはより人間らしく見える。
それを嫌がる人もいるが、使用人や子守りや介護役として購入する人が多いのも事実だ。
しかしアディルの人工頭脳は新品同然の筈なのに、どうしてこんなに感情豊かなのだろうか?
ホーゼスのおっさんの所のエプラはかなり表情豊かだが、あれは最初の持ち主から換算して10年以上稼働して学習した結果だ。
確かにアディルも最初の稼働から10年たってはいるが、実際に稼働した時間は1ヶ月もたってない。
人間の脳が搭載されてるのかと疑ったが、メーカーで調べた時には純正品オンリーだった。
メーカーぐるみということはないだろうし、アディルが感情豊かで困ることは無いわけだし、心配したり怪しんだりする必要はないだろう。
するとそこに、
「ねえ、君達観光客?俺達は観光なんだけどさー」
と、大学生らしい男達が明らかにナンパを仕掛けてきた。
その行動に、アディルが立ち上がろうとしたので取り敢えず止めておいた。
しかし何でこいつら男女連れに声かけるんだ?
「あの…マスター。そういえばいつまで女性の姿をしているんですか?」
「あ」
早いとこフッキネス評議員のとこから退出したくて慌てて出てきたので、男にもどるのを忘れてた。
「ねえねえ。俺達とどっか一緒に周ろうよ」
大学生はまだ食い下がってくるか。
「悪いが仕事の途中なんでな。それと俺はシュメール人で基本性別は男だ」
取り敢えず男に戻って、大学生の誘いを断った。
「あーすみません。失礼しました…」
すると大学生の表情はみるみる内に萎えていき、そそくさとその場を立ち去っていった。
その大学生達の後ろ姿を、アディルが不思議そうに見つめていた。
「マスター。あの人達は何がしたかったのですか?」
「ナンパだよ。要は女の子と仲良くなって、あわよくば恋人になりたいから声をかけてきたんだ。あれはまだ善良なほうかな。あっさり帰っていったからな。一番タチの悪い奴だと、問答無用で強引に連れていこうとするからな」
「それは犯罪ではないですか!」
「世の中には、自分だけは犯罪を犯しても絶対に逮捕されないと思い込んでる奴がいるんだよ」
実際にそういう奴がいるし、被害を受けた事もあるから覚えておいて欲しいものだ。
「そういう人達は絶対にマスターに近寄らせませんからね!」
アディルは拳を握りしめ、決意に燃えた表情をしていた。
「頼りにしてるよ。その為にはしっかり食べるようにな」
「はい!」
そういってアディルは、嬉しそうに化粧餅を口にいれた。
『化粧餅』は羽二重餅をイメージしています
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