File137 惑星リーシオ経由惑星ヤルマド行き貨物輸送⑥ 疑うのが必要とはいえ、心苦しいものがある
視点変換 ◇サラフィニア・ドラッケン◇
私はアディルの手を引き、人気のない廊下に連れてきた。
私は祖父母や両親や妹2人と違い、アディルを疑っている。
ショウンが店舗でアディルを買ったのなら問題はなかったのだけど、拾ったも同然というのが問題ね。
何故ならあまりにもタイミングが良すぎるから。
何故、売れなかったとはいえ、簡単な処置で売れ筋商品に変化させることが出来たのにしなかったのか?
何故、惑星デューモアからの脱出時に数多くあった船のなかからショウンの船に乗せられたのか?
何故、ショウンが引き取る事になったのか?
その辺りを今部下に調査させている。
ショウンをパーティーに招待したのはその時間稼ぎのためでもあったわ。
私がアディルを疑うのは、ショウンを通してのドラッケングループへのスパイ行為や妨害行為、場合によってはショウンを人質に、ドラッケングループを脅迫するという可能性があるから。
「あの、私にどのようなご用件でしょう?」
アディルは不安そうな表情で私に話しかけてくる。
その様子に悪意や害意のようなものは少しも見られない。
しかしそれならそれで別の可能性が浮上する。
一つは、アディル自身に、スパイ行為や妨害やショウンを人質にする意思はなく、アディルの行動を監視している何者かが、タイミングを見計らってアディルを操作して行動を起こす可能性。
もう一つは、いま表面に出て行動しているのとは、別の意思があり、秘密裏に行動している可能性。
今現在のアディルの言動や行動から考えて、別の可能性の方が高いかしらね。
それならこうして私自身を囮にすれば、何かしら行動を起こしてくるに違いない。
もし監視の方法なら、なんとしてでも元を押さえてアディルの主導権をこちらが握らないといけない。
別のプログラムならヤバイ方を消去すればいいわ。
アディルの今現在の思考プログラムがすごくいい子なのは間違いないから、もしそうなら解放してあげたいもの。
とはいえ、このまま話しかけないのは怪しまれるので、ショウンをよろしくという話と、アディルの服装に関しての話をしようとしたところ、アディルがいきなり私を引き寄せて身体をいれかえた。
ついに来たかと思い、バッグに入った気絶銃を取り出そうとしたところ、辺りに肉の焼ける臭いが漂い、
「くっくそっ…」
という男の声が響いた。
声のした方向を見れば、コック服を着た男が必死の形相でこちらを睨んでいた。
アディルは私を死角に向けて軽く押すと、
直ぐに振り返ってコック服の男の顔面に渾身のパンチを食らわせた。
「げほぉっ!」
コック服の男は壁に激突し、そのまま気を失った。
するとアディルはすぐにコック服の男を拘束し、
「通報をお願いします!」
と、言ってきたので、私はすぐに警備に連絡をした。
その時アディルの脇腹に、ビームナイフが刺さっていたのが見えた。
それが、先程辺りに漂った肉の焼ける臭いの原因だと理解したわ。
私はすぐにアディルに駆け寄った。
「ちょっと!動いて大丈夫なの!?」
「私は体内に生体再生ナノマシンを搭載してありますので、これくらいならすぐに再生します」
アディルはそう言いながらビームナイフを引き抜いた。
ビームが傷口を焼いているために、循環液は出ていなかった。
するとその傷口がゆっくりとではあるけれど、塞がって行くのが見えた。
そこに大勢の足音がやってきて、
「サラ姉!大丈夫か?!」
「アディル!サラ姉ちゃん!」
ティナが部下達を引き連れてやってきた。
その中にはショウンもいた。
「私は大丈夫。それよりアディルちゃんが!」
その私の言葉に、ショウンは直ぐ様アディルの方に向かった。
「大丈夫かアディル?!傷は?!」
「これぐらい大丈夫です。耐久試験で何回もやってますから!」
ショウンは慌てた様子でアディルの心配をし、アディルは無事なのをショウンにアピールしている。
刺された傷はゆっくりと塞がりつつあり、穴の開いた服は、ここで何があったかを物語っていた。
コック服の男はティナの部下が確保し、凶器のビームナイフも回収された。
警察も直ぐに来てくれるらしい。
そこに、白の鱗に金髪碧眼で、社会人と言うよりはアルバイトの女子高生にも見える童顔の、私の秘書のミリンダ・ルティネスがやってきた。
「サラフィニア様。調査が終了致しました」
「結果は?」
「彼女がどこかの企業の手の者だったり、遠隔モニターされていたり、隠しプログラムが存在する様子もありませんでした」
「本当に?」
私に近寄って耳打ちした彼女からの報告に、私は思わず声を上げた。
「はい。彼女は間違いなく10年前に製作された、パートナードールズ社製の『シールダーシリーズ』のファーストロットに間違いありません。
倉庫で眠っていたのは、当時の販売担当者が仕様変更せずに費用を着服、売れたということにして、架空の売り上げに計上していたようです。
現在パートナードールズ社では、そのことが発覚して社内粛清と意識改革の最中のようです。
同時に彼女からは通信の送受信の痕跡は一切ありませんでした。ライアット様の船からも。
ですので、私の個人的な見解としても、彼女は他企業からの工作員ではありえませんね」
「そう、ありがとう。杞憂に終わって良かったわ」
その彼女の報告を聞いて、私は安堵と同時に自分の未熟さを痛感した。
調査の必要があるのは間違いなかったけれど、お婆様と母さんはアディルをまったく疑っていなかった。
逆に私は疑いしか持たなかった。
私はアディルに謝らないといけないわね。
『魔眼の女帝』なんて大層なあだ名がある癖に、それぐらい見抜けないなんて聞いて呆れるわ。
しかし、何故ショウンのボディーガードでもある彼女が、主人ではない私をかばったのかしら?
ショウンから指示があったのかしら?
そう思って尋ねたところ、
「ねえ。どうして私を暴漢から守ってくれたの?ショウンの指示?」
「マスターからの指示はありませんでしたが、マスターのご家族なら私にとっても大切な方ですから」
驚きの答えが帰ってきた。
アディルの思考プログラムの製作者はどんな意図があって、起動して間もないのにこのように表情豊かで、人間のような思考をするように設計したのか?
そんな疑問が浮かんでしまった。
でもそれ以上に、私はアディルが愛おしくなり、思わず抱き締めた。
「ありがとうアディルちゃん!疑っちゃってごめんなさいね…」
「はあ…」
疑っているという内容に、アディルはわかってなかったけど、ティナとショウンはやれやれという顔をしていた。
「お洋服は弁償させてね。ショウン。アディルちゃんの服の替えはあるんでしょうね?」
「サイズ的にメンズが多いけどね」
彼女の身長やスタイルから考えると、それは仕方のない事。
既製品ではなかなか着れるものは少ないはず。
それもあってアディルを連れ出したのも事実だもの。
「じゃあ、こっち方面の仕事が一段落したら絶対連絡しなさい。色々用意しておくから。いいわね?」
「はいはい…」
ショウンは気のない返事をするけれど、間違いなく戻ってきてくれるわね。
そして、その時の為にどうしてもやっておかないといけないことがあるわ。
「というわけで、アディルちゃんを呼び出した用件を済ましちゃいましょう。ミリンダ!メジャーと記録用の汎用端末を用意して!」
「既に御用意してあります!」
流石は私の自慢の秘書ね!手際がいいわ!
「はーい!じゃあこっちね~♪」
私はアディルの手を握り、自室へと案内する。
「マ、マスター!」
アディルは身の危険を感じたのか、さっき以上に不安そうな表情を浮かべ、ショウンに助けを求めていた。
これは貴女へのお詫びでもあるのだから、ちゃんと受け取ってもらいたいわ。
視点終了
サラフィニアの立場としては疑わないといけない(調査の必用がある)のですが、そこまで怪しんだのは、最近ショウンに色々あったために警戒していました。
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