File129 惑星オルランゲアでの休日② 誠実な人柄の人物には味方が多い
翌朝。
俺は目が覚めると、身体が女になっていた。
どうやら『月のもの』が来たらしい。
着替えをして部屋からでて厨房に向かうと、
「マスター。どうして女性の姿になっているのですか?」
厨房にいたアディルが、俺が朝から女の姿になっていることに不思議そうに質問してきた。
「俺がシュメール人だってのは話しただろう。これが『月のもの』だよ。ちょうど周期だったんだ」
「たしか種族維持機能の劣化・退化を防ぐための生理現象でしたね」
「まあそう言うことだ。明日か明後日には元に戻るから安心するように」
「はい。わかりました」
アディルの明るい返事を聞きつつ、コーヒー・トースト・プレーンオムレツ・ベーコン・トマト・コーンポタージュの朝食を用意する。
しかし、食事をする前に話しておかないといけないことがある。
「今日はお前のメンテナンスカプセルを買いにいくからな」
「メンテナンスベッドじゃないんですか?」
「お前が普通のベッドを気に入ってるみたいだからな。それにカプセルの方が若干安いし、メンテナンスのレベルも高いから安心だろう」
アディルには身長のことも考え、この船を買った時についてきたキングサイズのダブルベッドを使わせているのだが、どうやらそのベッドを随分気に入っているらしいので、どうせならそのまま使わせてやろうと思ったわけだ。
「ありがとうございます!」
アディルは嬉しそうにお礼をいったあと、嬉しそうにトーストにかじりついた。
朝食をすませたあと、俺達は、アンドロイド・バイオロイド用品の様々なメーカーがテナントに入っていて、自社ブランドも多数揃えてある大型店『レプリカントフォレスト』にむかった。
そのテナントのなかには、パートナードールズ社も名前を連ねている。
以前の事を考えるとあまり乗り気はしないが、まずは純正品かなと考えてそこに向かった。
「いらっしゃいませ。どの様なものをお探しでしょうか?」
接客をしてくれたのは、まさに中間管理職といった感じのおじさんだったが、名札をみる限りここの店長らしい。
「この子のメンテナンス用のカプセルが欲しいんだけど」
「左様でこざいますか。ではこの子の型番を…君は!」
店長は、アディルの姿を見ると不意に声をあげた。
「あ。あの時の社員さん…」
そしてアディルも、この店長を知っていたらしい。
「どういうことだ?」
さっぱりわからないので店長に尋ねてみた。
すると店長は、しみじみと語りはじめた。
「実は私は、10年前まで惑星デューモア支部で勤務しておりまして、その時返品されてきたこの子の『載せかえ』を担当する予定でした。
ですがその前に転勤が決まってしまい、『載せかえ』は残った社員にまかせました。
報告では販売されたと聞いていたのでてっきり『載せかえ』てからだと思っていたのに…。
まさかファーストロットのままご購入していただき、今日まで大切にしていただいているなんて!」
どうやら店長は、俺(正確には俺の親)が10年前にアディルを購入して俺に与えたと判断し、アディルの様子をみて、俺が大切に扱っているものとも判断したらしい。
なので、俺がアディルを手にいれた経緯を説明してやると、
「なっ…なんてことだ!あの生意気新人め!
専務の甥だからと偉そうな口を叩いた結果が小遣い作りに不法投棄だと!
しかもあのゴミ部長はそれを容認したのか!
許せん!社長に報告してやるっ!」
顔色がみるみる変わっていき、最後には激怒して真っ赤になっていた。
後から聞いた話によると、パートナードールズ社社長が掲げた会社のスローガンは、
『アンドロイドは我が子。愛情持って扱い、愛情を持って扱ってくれるお客様にお預けする』
というものであり、この店長さんは社長に直接教えをうけていた人だったらしい。
その怒りは十分に理解は出来るのだが、社内制裁の話は後にしてもらいたいものだ。
まあ絶対に実行はしてほしいが。
「あの…メンテナンスカプセルが欲しいんですが…」
「あ!申し訳ございません!今回はこの子を助けていただいたお礼も兼ねまして、たっぷりとサービスをさせていただきますよ!」
俺の言葉に我に返った店長は気合いの入った表情に代わり、大量のカタログを用意して検索をしまくり、俺やアディルの要望や予算なんかをしっかり考慮した結果。
最新型メンテナンスカプセル一式185万クレジットを160万クレジットにまで値下げし。
お届け・設置は無料。
バイオロイド本人・メンテナンスカプセル両方の10年無料保証なんかをつけてくれた。
ちなみにアディルを「返品」と呼んでいたのは、名前を付けるのは購入者の権利なのでそう呼ばざるを得なかったかららしい。
ちなみに、アディルを叱責したり不良在庫と呼んでいたのは、専務の甥とかいう生意気新人や無能ゴミ上司だったらしい。
配達は翌日の午後にお願いした。
そのあとは大型のホームセンターに向かい、重力板と給水器、その為の水の入ったボトルタンクをダースで購入し、カプセル同様に翌日の午後に配達をお願いした。
そこで丁度昼近くになったので、貨物配達受付にアディルの登録証明書を受け取りにいった。
応対してくれたササラは、登録証明書の情報の書き込まれたクリスタルプレートを乗せたトレイをカウンターに置く。
「はいこれ。あー『月のもの』?」
「そうだよ。プリンはいずれな」
さすがに付き合いが長いと、俺が女の姿でいるのが『月のもの』ということを一発で理解した。
クリスタルプレートの写真部分で、虹彩とDNAと生体パターンをチェックすると、専用リーダーが表示されたので、俺とアディルの腕輪型端末を近づけると、登録証明書が表示された。
その登録証明書を嬉しそうに眺めているアディルを見つめながら、
「それにしても、今までパートナーは取らなかったのにどうしてその子を?」
ササラが、おそらく昨日の時点では詳しく聞かなかったことを、改めて尋ねてきた。
なので事情を説明してやると、
「それはグッジョブだったね」
と、親指を立ててきた。
その話を聞いていた他の受付嬢のなかには、同情を寄せてくれるもの、憤慨しているものまでいた。
ササラは不意にアディルに視線を向けると、
「アディルちゃん。昨日もいったけど、もし何かあったら遠慮なく貨物配達受付嬢を頼ってね」
と、笑顔で宣言した。
「はっはい!よろしくお願いいたします!」
アディルは慌てて登録証明書を眺めるのをやめ、ササラに丁寧にお辞儀をする。
どうやらササラをはじめとしたオルランゲアの貨物配達受付の受付嬢達は、相当にアディルを気に入ってくれたらしい。
「メーカーはいい感じの性格設定したよね。今まで流行った無表情だのツンデレだのなんかよりは絶対良いよ」
「その点はメーカーに感謝だな」
アディルの設定性格から考えると、嫌われる可能性は低かったが、気に入られるならありがたい話だ。
まあ、何らかの思惑も見え隠れするのはスルーしておいてやろう。
受付嬢たちには受け入れてもらえました。
次は同業者です
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