File122 惑星ダナークズでの待機時間③ 最初の晩餐は記憶にこびりつくもの
船内を見回していた全員の尻を叩き、ピンボール台は大きさのせいで最初の予定とちがい貨物室に降りるハッチの真横に。
そこにあったパンチングボールは階段の側に。
カプセルは2階の広い方の部屋に設置することができた。
特にカプセルはかなりの重量があったのでなかなかに大変だった。
重力板がなければ、貨物室に設置するしかなかっただろう。
これを機に、重力板の購入を考えた方がいいかもしれない。
「カーゴシャトルと重力板は助かったよ。おまけに人手も」
気前良く無料で貸し出してくれたのは、間違いなくさっきのリリーナの行動のお詫びの一部なのだろうが、実際に助かったのも間違いない。
「なに。こちらこそリリーナが失礼したその詫びの一部と思えば安いものだ。それと、ここを出発するまでには、きちんとした謝罪をさせてもらいたい」
ヴィオラ・ザバルは深々と頭をさげる。
こうやって頭を下げられるあたり、ヴィオラ・ザバルが慕われる理由の一つなんだろう。
「わかった。謝罪の機会は受け入れるよ」
とりあえずヴィオラ・ザバルの采配に期待することにしよう。
こうしてピンボール台の現物を納入したので、チャーリーにピンボール台の代金を現金で支払い、領収書を受け取った。
「さてと。代金もいただいたし、俺はそろそろホテルに帰る。ザバルさんよ、悪いが宇宙港まで乗っけてってくれ」
「ああ、かまわないぞ」
チャーリーは現金を懐にしまいながら、ヴィオラ・ザバル達の船に向かった。
「では失礼する。謝罪は明日にでも出頭しよう」
そしてヴィオラ・ザバル達も退船しようとしたので、俺は待ったをかけた。
「そうだ。これ持ってってくれ」
そうして俺が厨房からもってきたのは、食品用中型の収納箱一杯に入ったショートブレッドだ。
それも2箱。
「これは?」
「ショートブレッドだ。避難民の人達と一緒に作ったやつなんだが…量がな。本気でヤバいんだ。消費に協力してくれると助かる」
避難民のばあちゃん達に手伝ってもらった上に、俺自身が不安を払拭しようと無心に製作していたため、バカみたいな量になってしまったのだ。
これは本当に反省している。
「わかった…。ありがたくいただこう」
「「やった!ショウンさんのスイーツ!」」
ヴィオラ・ザバルはその量に軽く引いていたが、後ろの2人は嬉しそうにハイタッチをしていた。
そうして4人が船を後にすると、俺とアディルだけの空間になる。
「さてと。遅くなったが、ここが俺の家であり仕事場にもなる船『ホワイトカーゴⅢ』だ。今日からは君の家にもなる」
「はい!よろしくお願いいたします!」
アディルは、作業が終わってからずっと、壁際で直立不動の状態だった。
護衛用のバイオロイドとしての行動なのだろうが、今度はリラックスして欲しいものだ。
ともかく、まずは船内を案内することにした。
「ここはラウンジだ。停泊している時や、航行時でもここに居る事が多いかな」
「ここが客室。お客がいる時は掃除とかに入らなくていいから」
「ここが厨房だ。俺の趣味で無駄に設備が揃ってる」
「こっちは洗濯場でそこはトイレ」
「ここが風呂。晋蓬皇国風なんだよ」
「で、ここが日用品の倉庫で、こっちは食糧庫だ」
「そしてここが君の部屋になる。いまは保存用のカプセルだけど、オルランゲアについたら、船のメンテナンスのついでに、メンテナンスベッドに切り替えるからな」
「有り難うございます!」
アディルは嬉しそうに部屋の中を見回すと、カプセルではなく、備え付けのベッドに腰をおろし、スプリングの感触を確かめていた。
「とはいえ、超新星爆発が終了して、24時間経たないと移動できないけどな」
「安全のためにはしかたありませんね」
まあ、実際の超新星爆発は24時間どころか、万年単位の影響があるが、この場合は『ダナークズから爆心地とは逆の方向への宇宙船の航行に支障がないことが確認されるまで』になる。
爆心地方向にいたっては、観測用の無人探査機以外は、中性子星が確認されるまでは半永久的に立ち入り禁止だ。
まあ、死にに行くようなものだから行く奴もいないだろうけど。
「じゃあ夕食の準備をするか。手伝ってくれ」
「はいっ!」
そうしてアディルに教えながら作った夕食は、爺さんが俺に最初に作ってくれたチリコンカルネだ。
それに、コーヒー・バターロール・コールスローサラダを加え、デザートは、避難民の子供達に出したのとおんなじプリンにした。
アディルは、生まれて初めての食事を美味しそうに食べてくれた。
視点変換 ◇ヴィオラ・ザバル◇
私は『天使の宅配便』の旗艦である『ミカエル』に帰ると、すぐにリリーナを船長室に呼び出した。
同時に、配下の8隻あるそれぞれの船の船長も、通信画面で呼び出した。
「さてリリーナ。先程言ったお前への処罰だが、副団長からの解任・平乗組員への降格・特殊な事情を除いての下船・接客の禁止。期限は未定。個人の汎用端末の没収だ」
全員で議論をしたわけではないが、リリーナの今までの態度や行動を考えると、こうなるのは仕方がない。
汎用端末の没収は、ネットワークを利用しての誹謗中傷の発信をさせないためだ。
もちろんリリーナは反論をしてくる。
「どうしてですか!?私は団長のために」
「団長のためじゃなくて、自分の願望のためだろうが!」
しかしそれを遮ったものがいた。
彼女は船長ではないが、私がこの場に生身で呼んでいた人物だ。
「今後、副団長は彼女、エリザベス・ディディアーに務めて貰うことにする」
彼女、エリザベス・ディディアーは、リリーナと同時期に入ってきた団員で、当初から優秀な人材だった。
彼女の登場に、リリーナは不機嫌なのを露にし、反論を再開した。
「どうして彼女なんですか?!私の方が団長のお役に立つのに!」
「あんたのどこが役に立ってるのよ?依頼主が男性だとわかると、団長の居ないところで、威嚇するわ。脅しをかけるわ。暴言を吐くわ。そのせいで指名依頼も減ってきたし、仕事仲間内でも煙たがられてるのよ。私達全員がね!」
しかし、エリザベスに事実を突き付けられると、それなりに自覚があるらしく、押し黙ってしまった。
なので私は、リリーナに自分の思いを語ることにした。
「私は今まで、お前に何度も注意をしてきた。それを理解し、改善してくれる。私の選んだ仲間だ。わかってくれると信じていた。でも、お前はそれを裏切った。入ったばかりの時はそうでも無かったのに、おかしくなったのは…。多分、遭難してショウン・ライアットに救助されたころからだな」
「あいつが悪いのよ!私や団長や皆を騙したのはあいつなのよ!」
ショウン・ライアットの名前がでたとたんに、リリーナは癇癪を起こしたように声を荒げる。
「私はその場に居なかったから聞いた話になるけど。あんた、ショウンさんの女の姿見て惚けてたらしいわね?それで彼が自分はシュメール人だって言ったのを聞いてなかったんでしょう?それを自分や団長を騙したとかいって噛みつくって…あんた馬鹿にも程があるわ」
エリザベスに指摘を受けると、リリーナは押し黙ってしまった。
つまりそれは真実ということだ。
はっきり言って、ショウン・ライアットはリリーナに対してなんの失礼もしていない。
なのにどうして彼をそこまで嫌うのか?
私は気になってしまい、ふと訪ねた。
「ショウン・ライアットをそこまで嫌う理由はなんなんだ?」
するとリリーナは、長い沈黙の後、その理由を語り始めた。
「以前…本当に好きになった女の子がいたんです。
告白もしました。
でも、『私は女の子を恋愛対象には見れない』って言われて諦めたんです。でもそれから3ヶ月後、彼女は男の姿で女の子と付き合ってたんです!
シュメール人だってことも隠してたんです!
シュメール人だったら男女どちらにでも恋愛感情はもてるはずなのに!」
そう語り終ると、リリーナは悔しそうな顔をしていた。
話を聞いて理解はした。
確かにトラウマにはなるだろう。
だからといって…、
「なるほど。それでショウンさんもおんなじ手合いだと考えた訳ね。トラウマが引き起こされたわけだ。まあ分からなくはないわ。でもだからと言ってなんの関係もない上に、騙したりもしていないショウンさんを攻撃したり、男が嫌いだからって、仕事の依頼をしてきただけの男性や、今回の様に避難する人達にまで噛みつくのはやりすぎよ!」
エリザベスが私の言いたいことを全部いってしまった…。
なのでともかくリリーナへの処罰を改めて言い渡す。
「ともかく。リリーナ・フレマックス。お前には副団長からの解任・平乗組員への降格・特殊な事情を除いての下船・接客の禁止。期限は未定。個人の汎用端末の没収。以上の罰を言い渡す!
超新星爆発終了後に、ショウン・ライアットに謝罪をする機会は与えてやる。
それ以降は、きちんと反省・改心するまでは、私の船から絶対に出ることは許さない!覚悟することだな」
天使の宅配便から追放しないなど、甘い処分と思われてもしかたないが、リリーナを放置するとショウン・ライアットを逆恨みして何をするか分からない。
その為にリリーナは手元に置いておく処分にさせてもらった。
これでリリーナが甘いと侮り、また繰り返すようなら、今度は本当に厳しい罰を下さないといけなくなる。
きっちりと反省してもらいたいものだ。
そこにリリーナが声をかけてきた。
「分かりました…。あのっ!でもっ!」
「なんだ?」
「団長を…ヴィオラ様をお慕いする事は許されますか?」
「今後のお前の反省次第だな…」
もしかするとリリーナの反省期間は長くなるかもしれない…
視点終了
リリーナについに鉄槌です。
2度と出ないなんてことはありません
リリーナの告白したシュメール人について。
基本性別は女性。リリーナに告白された時点では、女性に興味はなく、リリーナの告白を断りました
この時リリーナは、彼女がシュメール人とは知りませんでした。
リリーナの告白を断ってからの3か月の間に何かがあって、その女の子が好きになり、男性になることを選びました。
リリーナが、彼女がシュメール人だとわかったのは、3ヶ月後のこのタイミングでした。
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