File117 惑星デューモアからの避難引っ越し⑤ 転落の瞬間はあまりにもあっけないもの
視点変換 ◇ロニエ・ヒルランド◇
解除作業を始めてから約8時間。
爆発の時間は刻々と迫っている。
私は焦る気持ちを押さえながら、解除作業を見守っていた。
最初はシステムをハッキングして解除しようとしたらしいが、下手に介入すると隔壁の開閉システム自体がダウンし、二度と開けられなくなる事がわかってからは、アタックは止めさせた。
ならばと解除パスワードの解析に挑んだものの、解除パスワードは5文字から31文字に変更されていた。
この手の解析をするソフトウェアを走らせてはいるが、未だに正解は出てない。
それと同時に、物理的に隔壁を取り外す方法も進めているが、やはりシステムによるロックが邪魔をしているらしい。
本来なら頼りになる強固な対テロリストのシステムが、今は恨めしい。
こういう事に適正の無い自分がもどかしいが、手を出しても邪魔になるだけなのでぐっと我慢をする。
幸い人間だけなら宇宙港の外に出れるルートはあったが、救出に来てくれている軍が到着し、さらには隔壁の除去に失敗した場合にのみ使用されるだろう。
それにしても、まさかザグストス・アマント評議員があそこまで愚かだとはおもわなかった。
恒星ヴォーネの爆発の可能性が発表された翌日に、家族と全財産を自家用船に詰め込んでデューモアから脱出したあげく、今日まで1度も戻って来なかった。
公式にはなんども戻って来ていることになっているが、全て外見を似せただけのアンドロイドがやってきていた。
他の惑星の評議員に、相手の惑星に出向いて住民の移住をお願いするときには、まるでバカンス気分だった。
そして今回、ようやく全ての住人が脱出できるというタイミングで生身でやって来て、住民やスタッフや船乗り達の命を平気で危険にさらす事をやらかした。
無事脱出した暁には、たとえ母の病気の治療費を出してくれた恩があったとしても、評議員を告発するしかない。
そんな覚悟を決めていた時、またブザー音が鳴った。
「またハズレか…」
「入力回数が制限されてなくてよかったですね」
「だな」
「それにしてもあのクソオヤジ、どんな解除パスワードにしたんだ?」
スタッフが解除パスワードを試してみたらしい。
そして既に、評議員に対して尊敬の念などは無くなっているらしい。
まあ当然だろう。
技術者達が頭を抱えている状況をみながら、私は評議員が普段から口にしていた言葉の数々を、なぜか思い出していた。
『私は実に偉大な政治家だと思わんかね?』
『私のような有能な評議員は長きに渡って称えられるべきだ!』
『銀河共和国評議会永世評議長ザグストス・アマント!実にいい響きだ!』
母の治療費を出してもらった直後は、そうなればいいと思っていた。
しかし今なら、評議員がどれだけ矮小かがよくわかる。
本当に相応しい人間はそんなことは言う必要はない。
その矮小な男が自尊心を満足させ、私や他のもの達に言わせようとするなら…
私はものは試しとこう入力した。
『いだいなるこのわたしザグストスアマントをみらいえいごうたたえよ』
その瞬間、ピピッ!という解除音が響き渡った。
「開いた…」
「やった!解除されたぞ!」
「やったぜ!」
「流石です補佐官!」
「隔壁をこじ開けに行った連中を呼び戻せ!」
「艦隊にも引き返すように連絡を!」
解除されると、スタッフ達は迅速にやるべきことをやり始めた。
私は解除できた事に驚き、少し呆然としてしまった。
しかしすぐにやるべき事を思い出し、
「今から開放の放送をする!振り分けに入っているスタッフはすぐに振り分けられた船に乗り込みにいけ!それ以外のスタッフは船舶の脱出を確認したらすぐに脱出用の船に乗り込むように!隔壁を開けたままにしておくので、乗り込むための宇宙服を着ていくように」
的確だと思った指示をだす。
「では補佐官殿は船へ」
「私は管制塔に残って最後の船が脱出したのを見てから船に乗る。人数分の宇宙服を用意して置いてくれ」
「わかりました!」
私は評議員のような真似はしたくない。
離れるなら一番最後だ。
そう思いながら、管制官の放送を聞いていた。
「ただいま対テロリスト用防衛システムの解除に成功しました!5分後に全隔壁を開放しますので、全ての船舶は停泊地からの脱出をお願いします!そして、その場に停止し、管制塔からの指示があるまで待機してください!繰り返します!ただいま対テロ…』
これで希望は繋いだ。
あとは全員が脱出に成功するだけだ。
視点変換 ◇ザグストス・アマント◇
「超空間から通常空間への帰還完了。惑星ダナークズまでは所要時間5分です」
「うむ」
やれやれようやく到着か。
まったくスタッフ用の船など乗るものではないな。
このような船にこの私を乗せたのに、20時間ほどの恐怖で許してやるなど、私は慈悲深いな。感謝して欲しいものだ。
到着すれば、私は全住民を無事に避難させた英雄として歓迎されるだろうな。
やれやれ、忙しくなりそうだ。
ウィスキーかなにかで前祝いといきたいが、マスコミの前にでるのに酒の臭いは良くないからな。
「ダナークズ宇宙港内部に侵入。停泊シークエンス開始」
どれ、英雄の出迎えを堪能するとするか。
「船体固定完了。お疲れ様でした」
「うむ」
船が停止し外にでると、マスコミが1列に並んでカメラの砲列を作っていた。
フラッシュが焚かれ、私の一言をもらうべく大量のマイクが向けられていた。
その光景に、私は実に満足した。
私は笑顔を浮かべ、悠然と片手を上げて挨拶をしようとした。
しかしそれを遮った者がいた。
「お待ちしておりましたよ。ザグストス・アマント評議員」
それは評議会から派遣されたらしい役員で、その後ろには同じような役員や、地元警察の警官が何人か控えていた。
これはあれだな。評議会からの表彰だな。警官はSPか。
うんうん。英雄たる私には相応しい扱いだ。
「出迎えご苦労。それで、私になに用かな?」
次の瞬間には私は最高の栄誉をうけとることが約束される。
そう考えると実に気分がいい。
しかし役員から発せられたのは、到底信じられない言葉だった。
「ザグストス・アマント評議員。貴方に対して、職務放棄による給与の不正受給・脱税・恐喝・脅迫・殺人罪における教唆の罪。そしてなにより、脱出しようとしている人達を脱出させないように工作した監禁罪及び殺人未遂により逮捕状が出ています。同時に評議会からの評議員資格の剥奪・評議会からの完全除名の通告があります」
この役員風情がなにを言っているんだ?
逮捕状?完全除名?まさか!?
私は惑星の全住民を救った英雄だぞ?
その私が何故逮捕などされなければならん!
そう怒鳴り付けようとしたとき、役員の男が前にでてきた。
「ずいぶん信じられないといった表情ですが、御自分が何をしてきたかはご存知でしょう?」
役員の男は、眼鏡の位置をなおしながらこの私を睨み付けてきおった。
「もちろんだ!英雄たるこの私の名誉を傷つけたのだ!それ相応の罰を与えてやる!」
私がそういった瞬間、警官が私の腕を拘束した。
私の護衛は何をしてる?
「貴様等!どうして私を護らない?!」
私が怒りの視線を向けると、護衛共はなにもせずに平然とそこにたっているだけだった。
するとそこに、眼鏡の役員が眼鏡の位置をなおしながら私に言いはなった。
「さて。ザグストス・アマント元評議員。貴方は首都ヴォルダルにて裁判を受けていただくことになる。非常に厳しい裁決が下る事になります。お覚悟を」
眼鏡の役員がそう言うと、私の腕が後ろに回され、手錠がはめられた。
なぜだ?
私の隠蔽工作は完璧だった筈なのに。
補佐官か!補佐官が裏切ったのか!
そうだ!全て補佐官のしわざにすればいい!
そうすれば私の永世評議長への道は残されるのだ!
視点終了
主人公の出番がないという事態に…
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