File116 惑星デューモアからの避難引っ越し④ 爆発ギリギリに脱出は特殊部隊の人達なんかの専売特許
ニュートリノバーストが観測されてから3時間。
スタッフとその積み荷の全ての分配が完了した。
スタッフは、受け入れる事ができる人数の多いところから入れていき、俺のところに来るまでに全員が受けいれられたらしく、俺の船が請け負ったのは、バラけた荷物を入れた1tほどのボックスだけだった。
勝手に受け入れたことで、避難者の人達に文句を言われるかと思ったが、意外にもあっさりと受け入れてくれた。
あとは、対テロリスト用防衛システムが解除され、隔壁が開くだけだ。
最低でも爆発の20時間前までにはここを離れないと、本気でヤバイ。
おそらく、超空間にはいったとしても、何らかの影響はあるだろうし、放射線はそこも突き抜けて来るかもしれないから、その範囲外には出ておかないといけない。
そのために、隔壁を1秒でも早く開けるべく、一部の作業員や輸送業者や避難者のなかのエンジニアがシステムに侵入しているらしいが、なかなか上手く行かないらしい。
この情報はダナークズにも伝わったらしく、隔壁を破壊するために、宙域の封鎖をしていた艦隊の一部がこっちに向かっているらしいが、30時間はかかるらしい。
過去の記録には、ニュートリノバーストから120時間も余裕があったはずなのに、50時間も早く爆発が起こったというのもあるらしいから、多少時間に余裕があるとはいえ、生きた心地はしない。
たくましい避難者の人達も、さすがに不安を感じ始めているらしい。
システム関係以外のスタッフ達は、隔壁を手動で開ける手段や、人間が通れる扉から脱出するルートを模索したらしいが、隔壁は人力では開かず、宇宙服のバーニアでは絶対に脱出できないので、どちらも却下になったらしい。
そのかわり、軍艦が到着し、隔壁の破壊に失敗した際の脱出口にはなるだろう。
ともかく、しばらくは動けないし、不安もある。
ちょうど昼前なので、料理をすることにした。
選んだメニューはショートブレッド。
脱出できたとしたら、2日近く液状食品ばかりになるわけだから、歯ごたえのあるものの方がいいだろうと思ったからだ。
材料はバター・薄力粉・砂糖の3つ。
作り方は、
①バターを1cm角に切って冷蔵庫で冷やす。
②ボウルにバター、薄力粉、砂糖をいれ、手で揉み込むようにして全体を混ぜ込み、ポロポロのパン粉状にする。
③パン粉状になったら全体を押しつけて圧力をかけながらひとつの生地にまとめる。
④打ち粉をしたまな板の上に生地を置いて、厚さ2cmほどに麺棒で平らにのばす。
⑤包丁で2cm幅、5cm長さにカットし、フォークや楊枝などで穴を開ける。
⑥冷蔵庫で15分休ませる。
その間にオーブンを170度に温めておく。
⑦170度で20分ほど焼く。
オーブンから出してそのまま置いて冷まし、粗熱が取れたら網の上で冷ます。
これを手際よく繰り返し、婆ちゃん達にも手伝ってもらって、乗っている人達全員に行き渡る数を作るのに2時間近くかかった。
それからショートブレッドを全員に配り、俺自身も交換の時期に来ていた非常用の液状食品とショートブレッドの昼食をとった。
その昼食が終わった後は、またショートブレッド作りを開始した。
生地を混ぜたり、麺棒でのばしたりしていると、いい感じに雑念が飛ぶので、この緊張した時間を過ごすのにいいだろうと思ったからだ。
そうしてつい夢中で製作していたら、いつの間にか3時間も立っていた。
とにかく今作りかけにしてあるやつが終わったら終了しようと思っていると、不意に放送が鳴り響いた。
『ただいま対テロリスト用防衛システムの解除に成功しました!5分後に全隔壁を解放しますので、全ての船舶は停泊地からの脱出をお願いします!そして、その場に停止し、管制塔からの指示があるまで待機してください!繰り返します!ただいま対テロ…』
俺は、ショートブレッドの作業を即座に中断し、いそいで操縦室に向かった。
その途中の船内には、歓喜と驚きの声が囁かれていた。
船を停泊地の外に出すのは、システムが復旧したとはいえ、今まで閉じ込められていたストレスや、またシステムが誤作動したらヤバいと考えての処置だろう。
そして、何時間にも感じるような5分が過ぎ、
『ただ今より隔壁を開放します。宇宙服を着ずに、停泊地で作業中の者は、即座に退去して下さい』
隔壁開放開始のアナウンスが流れ、
『…全ての停泊地からの生身の人間の撤退確認。空気の排出を開始…排出完了。人工重力停止します。無重力状態確認。隔壁開放開始します』
今まで脱出を阻んでいた隔壁が開き始めた。
普段から見慣れた光景だが、今は希望の光景だ。
『全隔壁の完全開放確認。固定具を解除します。解除後は任意に停泊地内部からの、速やかな脱出をお願いいたします。脱出後には、その場から動かず、こちらの指示に従って、順番に脱出を行ってください。そのまま勝手に出発されると事故が起こりかねませんので。待ち時間は最初のとおりですが、少しは早くなると思います。ですが、緊急時には即座に脱出して下さい』
アナウンスが終了すると、俺は船のエンジンを点火し、ゆっくりと前進させる。
船はゆっくりと停泊地を離れていき、船の全体が外に出て、他の船とぶつからないように完全停止させた瞬間、
「よしっ!」
と、思わず声がでた。
それは他の船も同じで、通信からは歓喜の声が響いてきた。
それにしても、脱出した全ての船舶が綺麗に並んで停止している様は、壮大に感じると共に、これが全部勝手に動いたら大変な事になるという実感もあった。
「では今から脱出を開始します!大型の船から出発をお願いします!まずは…」
そしてついに脱出が開始された。
安全を考えながらも、ちょっとしたミスで大事故になりそうな間隔で、船は次々と超空間に消えていく。
そんなスピードで脱出が進んでいても、やはり安全な脱出には時間がかかる。
そしてついに、俺の船の番が近づいてきた。
最初の予定だった1時間半から15分も短縮されていた。
『次、No.339。『ホワイトカーゴⅢ』出発してください』
「了解。エンジン点火。高速前進!」
俺も先の連中に倣い、超空間跳躍可能な宙域までかなりの速度で移動しながらエネルギーチャージをし、
「超空間跳躍の座標軸固定。目標惑星ダナークズ。エネルギーチャージは…完了。超空間跳躍開始!」
チャージがたまったらすぐに超空間跳躍を実行した。
多分今までで最速の超空間跳躍までの流れだったと思う。
様々な計器をチェックし、速度は時速3光年で巡航中。問題はなさそうだ。
「無事に超空間に侵入。これより自動航行装置に移行する」
船内にそう放送した瞬間、船内に歓喜の声が鳴り響いた。
ニュートリノバーストが確認されてから9時間50分。
爆発まで62時間10分を残して、恒星ヴォーネを中心とした星系の第14惑星・デューモアからの脱出に成功した。
俺はほっとため息をつくと、シートにぐったりと身体を預けた。
とりあえず一休みしたあとは、ショートブレッド作りの続きをするかな。
ショートブレッドというのは、カロリーメイトのブロックみたいな奴のことです
ついに脱出です
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