第7話 作戦会議
「ふぅ~……やっと終わった……」
大掃除を終えてラウンジに戻ってくる頃には、すっかり夕方になっていた。家事ってこんなに大変なんだ。幽閉されていた身とはいえ、使用人さんに囲まれていた生活って贅沢だったんだな。
「ましろんお疲れ様〜。晴ちんに相当こき使われたでしょ〜」
「いえ、自分で言い出したことですから……」
一体どのくらい役に立てたかはわからないけど。
風兎香さんはパソコンの前で、大きな椅子に腰掛けていた。ラウンジの一角の壁全体が巨大なモニターになっていて、よくわからない数字やら、街中の監視カメラの映像やらが一目じゃ把握しきれないほど映し出されている。刑事ドラマで見る司令室みたいだ。
「昨日から思ってたんですけど……凄いですね、ここ」
「でしょでしょ〜? 私、外研のデジタル担当だからさ〜。こうやっていつもネットで情報収集してるんだよね〜」
そう言いながら、キャスター付きの椅子をリクライニングさせてくつろいでいる。
「どこで外異が出そうだとかモニターして、現場担当の晴ちんとあだっちーに指示を出すのが仕事ってわけ」
へぇ、と素直に感心しながらも何か見過ごせない違和感を覚える。
「……もしかして、昨日の私の戦いもここで見てました?」
「うん、見てたよ。街頭の防犯カメラ越しにね」
「それってもしかして、政府とかにも把握されてるんじゃ……」
私達の情報は厳密に管理されている。所属が確かな安達屋さんはともかく、戸籍すらない私がいきなり街中で異能を使って大暴れしたら、それだけでお尋ね者になりかねない。
「あぁ、そこは平気平気。私が映像をハッキングしてうまい具合に差し替えといたからね〜」
「そんなことできるんですか!?」
凄い。まるで魔法だ。ちなみに私は生まれてこの方パソコンに触れた機会すらほぼない。
「ふっふ~ん、風兎香様を敬いたまえ〜……っと」
風兎香さんがモニターの一角に目をやる。そこに車の位置情報が示されていることくらいは私にもわかった。
「あだっちーが帰ってきたみたい。作戦会議の時間だね~」
◯
「くたびれたぜ……朝からこんな時間まで拘束しやがって。これじゃ化物退治してた方がまだ楽ってもんだ」
戻ってきた安達屋さんが額の汗を拭いながら言う。仕事帰りのお父さんってこんな感じなんだろうな。これもテレビドラマで見たイメージでしかないけれど。
「まーた見回りの範囲が拡がりやがる。風兎香、データ送っとくぞ。晴人もこっち来い」
そう言って三人で集まり、担当の割り振りや今後の動き方を話し合っている。その様子を遠巻きに眺めながら、私は一つ決意を固めた。
「あの……私の家、どうなりましたか」
今日の会議の本題は失踪した七夜家についてだったはずなのだ。安達屋さんは優しいから、私の前では口に出さなかったのかも知れないけど。
いつまでも現実から逃げ続けるわけにもいかない。きっとそれが、私のやるべき事だから。
「……真白が聞きたがるなら、話すべきだと思う」
ためらっている安達屋さんの様子を見て晴人が言った。
「そうだな……嬢ちゃんには辛い話になるかもしれねぇが」
「覚悟の上です。お願いします」
皆は改めて私の方に向き直り、輪に加わるよう手招きをしてから続けた。
「結論から言うと、嬢ちゃんの親父さんはまだ見つかってない。七夜家の関係者も全員だ。嬢ちゃんが家から逃げ出してきたあの日、本部の部隊が敷地に突入して戦闘になった。家の中には外異どもが溢れてやがって、かなり激しい戦いになったそうだ。そして制圧が済んだ頃には、もう家の人間は全員ドロンしてたってわけだ」
自分の目でも見た事とはいえ、改めて聞くと感情の行き場がなくなる。何の兆候にも気付かずに暮らしていた自分が腹立たしい。
「屋敷中を捜索しても手がかりは一切なし。とりあえず今は、またいつ嬢ちゃんの親父さんが現れてもいいように警戒するしかねぇな……」
語り終えた安立屋さんの代わりに、口を開いたのは晴人だった。
「……真白、家に行ってみるか?」
「いいの? ……いや、そうだよね。行かなきゃ。私が行って、確かめなきゃ」
きっと私にしかわからない痕跡があるはずだ。それを見つけて、消えた父親の居場所を突き止めなければ。
じゃなきゃこんなに大勢の人に迷惑をかけて、どうしてのうのうと生きていけるっていうんだ。
「……まぁ、多分今なら自由に出入りできるはずだ。嬢ちゃんがそう言うなら連れて行ってやってもいいが……」
「すみません、ありがとうございます。でも、私が本部の人に見つかったら皆さんに迷惑がかかるんじゃ……」
「それなら私のフリをして行けばいいよ。私の顔は本部にあんまり知られてないし、身分証も偽造してあげるから」
ありがたいことに風兎香さんが助け舟を出してくれる。これで、調査に行く準備は整った。
「ただし! あだっちーと晴ちん! ましろんに何かあったら、絶対に許さないからね!」




