第22話 ささやかな祝勝会
「ふぅ~、お腹いっぱい……」
祝勝会という名目でついつい注文しすぎちゃったな。
危なげなく外異を倒しきった私達三人は、本部への報告を終えた後、近くのファミリーレストランに集まっていた。
「なるほど……ソースの隠し味に味噌を使ってるのか」
隣に座る晴人は自分の舌で料理のレシピを分析して、スマートフォンにメモしている。
「ねぇ、晴人って料理人にでもなる気なの?」
「ん……いや、そういうわけじゃないけど」
「まぁいいけど。作ったら食べさせてね」
「わかった」
そんな私達のやり取りを聞いていた折原さんが向かいの席で歓声を上げた。
「手料理なんて羨ましいっス~! お二人サン仲良すぎっスよ~!」
あぁ、やはり何か重大なことを勘違いされている気がする。
「折原さん、一応言っておきますけど、私達付き合ってるとかでは全くないので……」
「え、そうだったんスか!? すみません、アタシ今までめっちゃ失礼なことを……! 申し訳ないっス!!」
驚愕した後、テーブルに頭を擦りつけるような勢いで謝る折原さんを慌てて止める。
「いやっ、別にそんな気にしないでください! 晴人とは仲良いですし、ただ、恋人とかじゃなくて、その……」
恋人とかじゃなくて、えっと、なんだろう。
何か私の気持ちをピッタリと言い表せる言葉があるような気がしたのだけれど、少し考えても出てこなかった。
「……とにかく、料理とかも寮で一緒に住んでいるので食べてるだけですから!」
「一緒に住んでるんスか!?」
「俺達、メンバー全員でも四人しかいないので。寮生活のほうが連携を取りやすいっていうのもありますし」
晴人が事情を説明する。そうだよね。改めて考えてみると、職場の人と一緒に住んでいる方が珍しいんだ。
「はぁ~、外研サンって本当に仲が良いんスね~……」
「本部の人達はどうなんですか?」
「う~ん、別にアタシのチームは仲が悪いとか無いと思うっスけど……まぁ、上の方の派閥争い? とかはバチバチみたいなんで、正直あんまり関わり合いになりたくないっスね~……」
折原さんが遠い目をする。政府の後ろ盾を得て、法の陰で巨額の予算を動かしている組織なのだ。利権の奪い合いが壮絶であろうことは、私みたいな新入りにも想像がついた。
「そういえば、折原さんってどうして本部で働いているんですか? 他の人は私達よりだいぶ年上だったりするのに……あっ」
と、口に出してしまってから軽率だったことに気がつく。誰もが望んでこの仕事に就いているわけじゃない。もしかしたら深い事情があるかも知れないのに。
「すみません、私変なこと聞いちゃって! 無かったことにしてください!」
「いやいや、別に大丈夫っスよ! むしろちょっと変な話になっちゃうんスけど……聞きたいっスか?」
「俺も興味あります。ぜひ聞かせてください」
予想外に晴人が食いついてきたので、折原さんはゆっくりと語り始めた。
「えっと……アタシ、元々オカルトとかが好きで、廃墟や心霊スポットを巡ったりしてたんスよ。で、大学三年の時だったんスけど、一人で山奥を探索してたら偶然にも本部が外異と戦ってるところに出くわしちゃって」
その時点でだいぶアクティブな人だな、折原さん。
「自分でもおかしいと思うんスけど、幽霊とか怪物を探してたくせに、いざ本物に出くわしたら心底パニックになっちゃって。無我夢中で本部の物資から増血剤をひったくって、戦ってた人達の見よう見まねで自分に打って。まぁ仮に何万分の一の適性が無かったらその場で死んでたんスけど」
「ええ……」
笑い話なのかもしれないけど、笑っていいのかかなり際どい。
「普通なら一般人が外異を見ちゃった時点で記憶消されちゃうんスけど、もう増血剤打ったら効かないじゃないっスか。それで、その現場の責任者だった南川サンがこっぴどく上から怒られて。責任取る形でアタシの面倒を見ることになって、今に至るって感じっスねぇ」
「凄いですね……そんな人初めて聞きました」
晴人も驚いている。確かに、こんな経歴の持ち主は中々いないだろう。
「知らない間に大学には退学届出されてるし、親にも説明できないからいきなり無断で公務員になった謎の娘だと思われてるし、もう人生散々っスよ……まぁ皆さんにもそれぞれ事情はあると思うっスけど……」
当たり前だけど、みんなそれぞれの人生があるんだ。私の人生だけが特別なわけじゃない。それを思ったら、折原さんに打ち明けないといけないことがある気がした。
「……あの、折原さん。実は私、三月風兎香じゃないんです」
「いいのか?」
晴人が目配せしてくるのを制して、ゆっくりと続ける。
「うん。私の本当の名前は、七夜真白っていいます。七夜史登の一人娘なんです。今まで隠していてごめんなさい」
私が七夜家の人間だと公言すれば、匿ってくれた外研の皆にも迷惑が及ぶかもしれない。それでも、周りの人々が私に誠実に接してくれるのなら、自分も周りに嘘をついてはいけないような気がしたのだ。
「……そうっスか、七夜サン。正直に話してくれてありがとう、その気持ちが嬉しいっス」
折原さんは優しく笑った。その仕草に温かな包容力を感じる。
「それに、謝らなきゃいけないのはむしろこっちの方なんス。実は私、ずっと七夜サンの名前知ってたんスから」
「えっ? それってどういう……」
「この間、教会に突入する前に、皆さんの話し声が聞こえちゃったんスよ。だから、あの時戦ってたメンバーは皆知ってるんス」
「そう、だったんですか……」
じゃあ、南川さんもとっくに私が七夜家の娘だって気づいていたんだ。
「大丈夫っス、南川サンも上に報告したりはしてないみたいっスから。鬼上司っスけど、恩人へ不義理をするような人じゃないんで」
本部が本気で私を捕まえようとしたら、今こうして自由に過ごせてはいないだろう。知らない間に南川さんに助けられていたみたいだな。
「でも、今改めて打ち明けてくれたのが凄く嬉しいっス! ありがとうっス、七夜サン!」
「いや、えっと、こちらこそありがとうございますというか、すみませんというか……」
妙に恥ずかしいような照れくさいような気がして困っていた所に、店員さんが食後のデザートを運んできてくれた。
「まだ食べるのか? 真白……」
「い、いいじゃん! デザートは別腹なの!」
「今日は庭でパーティーやるって風兎香さんが言ってたんだから、お腹空かせておいたほうがいいんじゃないか?」
「あ、そっか。そうだった……」
今日は都内で大規模な花火大会が開かれる。その花火が寮からも少し見えるらしいので、今夜は庭でご飯を食べようと言われていたのだった。
「パーティーっスかぁ、本当に外研サンは仲良さそうで羨ましいっスねぇ~」
「そうだ、もし良かったら折原さんも来ませんか?」
「え、アタシも行っていいんスか?」
「はい、人数は多いほうが楽しいと思いますし……あっ、もちろん折原さんに時間があればですが!」
相手の都合も聞かずに強引だっただろうか。人を何かに誘うなんて初めてのことだけれど、新しい知り合いができて舞い上がってしまっていたのかもしれない。
「いや、アタシは全然暇なんスけど、急に部外者がお邪魔しちゃっても大丈夫なのかな~って……」
「それは大丈夫ですよ。むしろたまには色んな人と話せた方が、他のメンバーも喜ぶと思いますし」
私に代わって晴人が答えてくれる。私の独断で誘っちゃってマズかったかと思ったけど、皆も受け入れてくれそうで良かった。
「ん~、それじゃ、せっかくのお誘いなんで参加させて貰うっス! 花火なんてキラキラした青春っぽいイベント、いつぶりかわからなくて緊張するっスけど!」
良かった。助け舟を出してくれた晴人に、後でお礼を言っておかなくちゃ。




