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第19話 晴人の抱える謎

 

晴人はルルのことを安達屋さんに話さなかった。代わりに、新種の外異が父に擬態していたのだろうと説明した。

 そして安達屋さんが本部へと連絡し、現場の検証が行われた後、家の関係者は皆本部の息がかかった病院へと収容される運びとなった。


 父の罪が晴れるかどうかはわからない。安達屋さんいわく、外異が人の意識を奪って成り代わるなどといった事例は今までに聞いたことがないそうだ。


 私達の活動や外異の存在は、表向きには存在しないことになっている。故に、私達を公正に裁くべき法律はどこにも存在しない。

 私達が見聞きしてきた事実を信じてもらえるか、そして、七夜家が今後どういう処罰を受けるかは、完全に本部の重役のお沙汰次第なのだ。


 そこにルルの話を持ち出したとしても状況は何も変わらないだろう。そういう名前の真犯人がいるというのは、現状では晴人が一人で語っているだけのことであって、証拠は一切ない。


 だから私も黙っていることにした。動くのは、ルルの存在を確かめてからだ。



◯



「ん? 晴人か? 確かにあいつは増血剤使わねぇな」


 翌日の晩、寮のラウンジ。晴人がいない隙を見計らって、カーレースの中継を見ていた安達家さんに尋ねてみる。


「やっぱりそうですよね? なんで……」


「まぁ、『使わねぇ』って本部に言うと面倒だから『使う』ってことにしてんだけどな。嬢ちゃんはまだわからねぇだろうが、アレ使うにも捨てるにもいちいち書類書かねぇといけねぇから面倒くさくてな……。しかも一本でとんでもねぇ額の経費持っていかれるし……最近はバンバン使っちまってるから……」


 安達家さんの話が財政面に傾くに連れて、スキンヘッドの下の眉間にシワが寄り始める。大丈夫なのだろうか、外研《ウチ》の経済状況は。


「あ~、つまりアレでしょ? ましろんが聞きたいのは、ズバリ晴ちんが何者なのかってことだよね?」


 隣で聞いていた風兎香さんが会話の流れを修正してくれる。


「ん、そっちか。晴人……晴人はなぁ」


 安達家さんの目線が少し遠くを見つめた。


「悪い、実は俺もあんまり詳しいことは知らねぇんだ」


「え、そうなんですか?」


「私もあだっちーに同じ~。晴ちんってミステリアスな男だからさ~。出生も経歴もほとんど謎なんだよね~」


「あいつ、自分のこと何も話さねぇからなぁ……良いやつなのは確かなんだけどよ」


 意外だった。皆はお互いのことを何でも知っているものだと思っていたから。


「まぁ、増血剤を使わねぇってことは嬢ちゃんと同じでどこかしらの一族の末裔なんだろうけどな。一族の人間がウチみてぇな末端の組織で働いてるなんて中々ねぇだろうよ。嬢ちゃんの七夜家が東京を管轄してたように、それぞれの一族には守るべき領土があんだから」


 それで、本部に悟られるとしつこい質問責めにあうから、増血剤を使っているということにしているわけか。


「でも、今まで一緒にいたんですよね? 事情を聞いてみたりしなかったんですか?」


「そりゃあまぁ、気になることは気になるが……」


 安達家さんが風兎香さんに視線を投げると、風兎香さんが言葉の続きを引き取った。


「自分から言わないってことは、話したくないことなのかも知れないじゃん? だから、こっちも無理に聞いたりするのはやめようって。一緒に戦ってくれるなら、私達はそれで充分だよ」


「うーん……そういうものですか……」


 二人とも、大人だなぁ。年上の包容力というものを感じる。


 確かに、自分から事情を語らないことには何かしらの意味があるのだろう。だからルルの話も私にしかしなかったのかな。そう思うと、いくら安達家さんと風兎香さんだからって、軽率にルルのことを相談するのはやめておくべきか。


「ていうか、急にどうしちゃったのましろん? そんなに晴ちんのことが気になるなんて……あっ、もしかして~!」


 風兎香さんがニヤニヤと私の顔を見つめてくる。


「え? ……あっ、違いますから! 別に全然そういうのじゃないですから! ただ疑問に思ったから聞いてみただけですから! それだけですっ!」


 いくら対人関係の経験値が乏しい私だって、風兎香さんが何を言わんとしているのかはわかる。

 これは晴人が謎めいたことばかり言うから調べているだけのことであって、決して異性として気になっているなどというわけではない。

 そもそも、恋、だなんて、私にとってはどこか遠い世界の出来事であって、それが自分の人生と結びつくイメージなど全く持てる気がしない。


「あはは、ごめんごめん。ちゃんとわかってるよ。からかいすぎちゃったね~……もう、ましろんは可愛いなぁ~」


 風兎香さんに頭を撫でられる。自分の顔が赤くなっているような気がして恥ずかしい。何やら話の腰が折れてしまったような気がするけど、でも、やっぱり晴人のことはもっと知らないと。


 そのためにはやはり、あの作戦を実行するしかないか。


「あの、風兎香さん。一つお願いがあるんですが……」


「え~、なになに? 私への依頼は高いよ……って普通は言うんだけど、ましろんなら何でも聞いてあげるよ~?」


「実は、えっと……」

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