第13話 郊外にある教会
ダッシュボードに表示される時刻が二十一時を迎えようとしている。決戦前の晩餐で英気を養った私達は、父が待つと告げた教会へと車を走らせていた。
「風兎香、仕掛けてきたカメラの映像はどうだ?」
安達屋さんが昼間に一人で偵察に行ってくれた際には、父の姿はどこにも見当たらなかったらしい。それどころか人の気配が全くなく、監視カメラを設置してくる余裕すらあったようだ。
『いや、未だ変化無し〜。やっぱり誰も映らないよ』
「ったく、本当に出てくるんだろうな?」
父が何を考えているのかはわからない。今はただ信じて向かう他ない。
首都である東京も、西へ向かって進めば山林地帯が広がっている。都心に比べればすれ違う対向車の数もだいぶ減り、車窓からは木々が立ち並ぶ様が見える。
風兎香さんは今回も寮に残って、通信越しにサポートしてくれる。それは風兎香さんがバックアップ担当だからという理由もあるし、私達三人が帰ってこなかった時に、本部に状況を引き継ぐ人間が必要だからという理由もある。
本当は本部の人達と協力して事に当たらなければいけないのかもしれない。ただ、あの取り調べの印象から言えば、私が七夜家の娘だと知って自由にさせてくれる人達ではないだろう。もう家が元通りにならないとしても、せめて最後に親子として自由に会話がしたい。この私のわがままのせいで父を取り逃がせば、大勢の罪のない人達を危険に晒すことになる。
だから決着は今日必ず、私が……。
「見えてきたぜ。嬢ちゃん、あそこで間違いねえな」
「はい、確かに父が指定した教会です」
車の進行方向に、荘厳な造りの屋根が姿を現した。既に日が落ちた中でも存在感を放つその建物は、遠目からでも綺麗に手入れされているのがわかる。
「真白、いつ戦闘になるかわからない。気を抜くなよ」
「うん、わかってる」
晴人の言葉に気を引き締め直す。なんだか私、意外と冷静な心持ちでいるな。荒事だって何度も経験していけば案外慣れてしまうものなのかもしれない。それとも、一緒に戦ってくれる人が傍にいるからだろうか。
「昼間も思ったが、ずいぶんとでけぇ教会だな」
敷地内に車を停めて降りると、安達家さんが呟いた。
「千人以上は入れるはずです。普段は地域の行事だとかボランティア活動に使っているはずなんですけど、大勢の人が来てもすっぽり入っちゃいますから」
私も何度かここに連れられては、周辺住民の集会や、子供達への教育活動の手伝いをさせられることがあった。家の活動で得た資金は、積極的に社会貢献に使うというのが父の掲げる理念だった。私が事ここに至って未だに父のことを憎みきれないのは、幼い頃からすぐ近くでその真面目な姿を見てきたせいなのかもしれない。
「今から中に入る。風兎香、音声のテスト頼む」
今回は私達全員がインカムを片耳に付けている。これで、戦闘の最中でもお互いの声を拾うことができる。
『あだっちーオッケーだよ〜。晴ちんも黙ってないでなんか喋って〜』
「ん」
『ん。じゃないでしょ! ちゃんと喋る! ましろんも言ってやって!』
「え? えーと……ちゃんと話そうね、晴人」
家事とかはマメにやるくせに、こういうとこはものぐさなんだよな。
「ったく、ウチもいつの間にか騒がしくなったもんだ」
『えへへ、なんかチームっぽくなってきたね〜』
などと言い合いながら装備を点検していく。幸い、周辺に民家は無いので人の目を気にする必要はない。
「嬢ちゃん、平気か?」
「はい。行きましょう」
頷きあい、父が待つであろう教会へと歩き出した。




