第10話 本部とスーツと取り調べ
「それで? どうして外研さんは総出で七夜の屋敷をうろついてたんだよ?」
三人揃って同じ長机の前に座らされると、なんだか自分が悪いことをしてしまったような気がしてくる。ただでさえ高圧的な取り調べに参ってしまいそうなのに。
結局、屋敷での戦闘の痕跡をバッチリと見られてしまった私たちは、労いの言葉をかけてもらえるでもなくそのまま本部へと連行されてしまった。
改めて整理しておくと、外異と戦う組織のうち、政府直轄のものを便宜上「本部」と皆は呼んでいる。
異能を扱うための増血剤を製造して他の組織に配ったり、海外の政府組織と情報交換をしたりするので、規模も大きいし人数も多い。
「どうしても何も、お前ら本部が七夜史登を探せって騒ぐから調査してただけだっつーの」
安達屋さんが気怠げに返答する。今しがた奥のオフィスから私達の前に顔を出してきたこの南川という人とは、どうやら旧知の仲らしい。
「はーん、わざわざこんな夜中にねぇ」
南川さんは天を仰ぎながら首を振ってみせる。いちいち大袈裟なリアクションを取る人だ。
「安達屋、お前匂うぜ。何か隠してんじゃねーのか?」
「汗臭さと加齢臭ならお互い様だろ。同い年なんだからよ」
「おいおい、同じ四十五でも俺は本部務めのナイスミドルだぜ。オヤジまっしぐらのお前と一緒にすんなよな」
確かに南川さんのスーツはかなり上等なものだし、整髪料でピシッと整えられた髪は決まってると思うけど……ちょっと香水臭いかも。
というかこの人、なんでこんな時間までオフィスにいたんだろう。もう日付変わってるんだけどな。それを思うと、なんだか少し可哀想になってきたな。
「だいたいお前、本部を辞めて何してんのかと思えば、こんなチンケな組織でやってんのかよ。メンバーもこれで全員なのか?」
南川さんが私と晴人を一瞥して言う。
「ガキしかいねぇじゃねぇか。お守りでもしてんのか? それとも今から教師にでもなるつもりかよ」
「うるせぇな、ほっとけよ」
つくづく悪態の絶えない人だ。これまで私の周囲には全くいなかったタイプなので、正直どうやってコミュニケーションを取ったらいいのかわからない。
「おい、お前。名前は」
唐突に晴人が声をかけられる。
「雨後晴人」
「手帳見せろ」
身分証の入った手帳が晴人から差し出されると、南川さんはそれをひったくるようにして手に取った。
「スカしたガキだぜ。……そっちのお前は」
「はっ、はい! 私は三月風兎香です!」
私は別に要求もされていないのに、自分から手帳を差し出してしまう。南川さんは少し面食らったようになりながらもその中身を改めた。
風兎香さんが名前を偽装してくれているから心配はいらないはずだけど、それでも心臓に悪い。
「十八歳に、十七歳ねぇ……こんな歳で化け物退治かよ。一応血も採っとくか」
「おい! 俺達は何かやらかしてここに来てる訳じゃねぇんだ。むしろいきなり外異に絡まれてうんざりしてるんだぜ。取り調べみてぇな真似はやめろ」
安達屋さんが語気を強めて牽制すると、南川さんは肩を竦めながら私達に手帳を返した。
「はん、わかったわかった。別に俺だって暇じゃねぇんだ。うかうかしてると他の奴らに七夜史登を見つけられちまうからな」
これだけ多くの人が父を探し回っている。当然とは思いながらも、どこかショックだった。例え父が見つかったとしても、私の家は決して元通りにはならないのだろう。
「こんなこと前代未聞だぜ。関西の鷹見家みたいに政府に反抗的な一族はあっても、公然と弓を引いた奴は初めてだからな。今や七夜家は外異と同じ人類の敵ってわけだ。じゃあな安達屋。せいぜいガキどもと探偵ごっこでもしてろ」
最後まで憎まれ口のまま南川さんは去っていく。もしかして、これからまだ働く気なのだろうか。なんというか、大人って大変なんだな。
「……ったく、相変わらずムカつく野郎だぜ。嬢ちゃん、大丈夫か?」
「あっ、はい、私は別に大丈夫、で……す……?」
あ、まずい。ちょっと気を抜いたら疲れが一気に押し寄せてきた。
先の戦闘で失われた私の血は、元通りの量まで急速に回復しているはずだ。きっとその際に体力をたくさん使っているのだろう、多分。
私の体は普通の人と違うから、解剖でもされなきゃよくわからないけど。
などと難しいことを考えていたらいよいよ限界が来た。目の前の机に突っ伏すように倒れ込む。寝てはいけないとわかっていながらも、私の意識はそこでぷつりと途切れてしまった。




