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会社をクビになった俺、金を使うほど資産が増える神システムで人生をやり直す  作者: MagnusOps


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第35話 ー『法律事務所の女』

第35話 ー『法律事務所の女』


2026年5月7日(木)——午後5時30分。


丸の内·キサラギ・アセット・マネジメント本社ビル——十階。


樹が澪との会合を終えて机を片付け終えた時、スマホが震えた。志織からのメッセージだ。


「如月さん、明日の朝、企業法務の弁護士との面会を手配しました。神崎彩芽弁護士。神崎・パートナーズ法律事務所、丸の内です。」


樹はそのメッセージを読み、返信した。


「わかった。何時だ?」


「九時です。今夜のうちに簡単な事前資料をお送りします。」


「ありがとう、志織さん。」


樹はスマホを机の上に置き、軽く伸びをしてから、夕日で色が変わり始めた東京の街並みを眺めた。今日は会社を買い、冷徹なテクノロジー系CEOに会い、ほぼ偶然に戦略的パートナーシップを始めたところだ。


「……忙しい一日だった。」


予告なくウィンドウが彼の前に現れた。


【ホスト、明日の相手は、法律の専門家です。】


【株式会社神崎・パートナーズ法律事務所 —— 代表弁護士 神崎綾芽。】


【経歴: 東京大学法学部卒業。司法試験合格後、大手法律事務所で5年間勤務。その後独立。企業法務、M&A、不動産、コンプライアンスを専門とする。】


【性格: 非常に鋭い。法律に厳しい。ゴマカシが通じない。】


【ホストへのアドバイス:】


【無理に賢いふりをしないこと。】


【法律を知らないことは恥ではない。知らないことを隠すことが最大のリスクです。】


【ホストは今のホストで十分です。】


【会社をクビになったホスト。】


【システムを得たホスト。】


【人生をやり直しているホスト。】


【それで十分です。】


【あとは、ただ正直に話せばいい。】


樹は無表情でそのウィンドウを見つめた。


「……本当にカウンセラーになったな、お前。」


【システムはホストのサポートツールです。すべての側面をサポートします。】


【ただし、法律相談はしません。】


樹は小さく笑った。


「……頼んでないよ。」


【確認しました。明日の準備をしてください。】


ウィンドウが消えた。


樹は椅子に座り、システムの言葉を反芻していた。「ホストは今のホストで十分です。」


彼は昔の自分を思い出した。従順なサラリーマン。常に他人の期待に応えようとしていた。今の自分は違う。法律にもビジネスにも詳しくない。しかし自分が誰なのかは分かっている。


そしてそれで十分だった。


---


2026年5月8日(金)——午前8時30分。


東京都千代田区丸の内·神崎・パートナーズ法律事務所。


神崎・パートナーズのオフィスは、丸の内の小さいながらもエレガントなビルにあった。周囲の高層ビルほど高くはないが、クラシックな建築様式が堅実で信頼できる印象を与えている。入口の真鍮製の看板にはこう刻まれている。


"Kanzaki & Partners Law Office —— 神崎・パートナーズ法律事務所"


樹はロールス・ロイスをビル近くの駐車場に停め、入口へ向かった。ロビーには、革張りのソファとコーヒーテーブルを備えた小さな待合室があり、受付の後ろでは中年の女性がプロフェッショナルな笑顔を浮かべている。


「おはようございます、お客様。何かお手伝いできますか?」


「如月樹です。神崎さんとの約束があります。」


「ああ、如月様。少々お待ちください。神崎様にお伝えいたします。」


樹はソファに座り、静かに待った。目の前のコーヒーテーブルには法律雑誌が置かれている。樹は手に取らなかった。ただ、壁に飾られた証明書や神崎彩芽が様々なクライアントと写った写真を見つめていた。


数分後、部屋の奥の扉が開いた。一人の女性が現れた。長い黒髪、濃い色のブレザー、ペンシルスカート。鋭い目は素早く的確に樹を観察した。


神崎彩芽。


「如月さん。お越しいただきありがとうございます。」


樹は立ち上がり、軽く一礼した。「お会いいただきありがとうございます、神崎さん。」


「どうぞお入りください。」


---


午前9時0分——彩芽の事務室。


広く整頓された部屋だ。大きな濃い色の木製の机、法律書や参考資料で埋まった本棚、そして椅子の背後には丸の内の街並みを見渡す大きな窓。


彩芽は椅子に座り、樹は机の向かいに座った。志織は樹の隣に座り、膝の上にタブレットを置いている。


「それでは。」彩芽は目の前の書類を開きながら言った。「キサラギ・アセット・マネジメント株式会社。新設の会社で、資産が……興味深いですね。」


樹は眉をひそめた。「……興味深い?」


彩芽は鋭い目で樹を見た。「初期報告書を調査しました。丸の内のビル、箱根、青山、神田、横浜の物件をお持ちです。デジタルブリッジを買収されたばかりで、非常に大きな流動資産もあります。」彼女は一旦止め、じっくりと樹を見つめた。「全て一ヶ月足らずの間に。」


樹は答えなかった。


「……これらの物件の法務構造を理解していますか?」


樹は正直に首を振った。「……完全には。」


彩芽は眉を上げた。「……完全には?」


「物件があることは分かっています。会社があることも。でも……法務の詳細は分かりません。」


彩芽はしばらく樹を見つめた。そして別の書類を開いた。


「わかりました。最初から始めましょう。現在の法務構造を説明します。」


---


午前9時30分——彩芽の事務室。


彩芽は素早く的確に話し、樹の資産の法務構造を一つ一つ説明した。樹は注意深く聞き、時々頷いたが、ほとんどは沈黙していた。


「……お分かりになりましたか?」と彩芽が最後に尋ねた。


樹は正直に首を振った。「……一部は。」


彩芽は息を吐いた。「どの部分がお分かりになりませんか?」


「ほとんど全部です。」樹は正直な目で彩芽を見た。「法律用語には慣れていません。元サラリーマンですから。ただ……正しいと感じたから物件を買っただけです。」


彩芽は読み解くのが難しい表情で樹を見つめた。「……数十億円の物件を、正しいと感じたから買ったのですか?」


「……はい。」


彩芽は沈黙した。


そして、先ほどよりも柔らかな声で言った。「……あなたは面白い方ですね、如月さん。」


樹はかすかに微笑んだ。「よく言われます。」


彩芽は書類を閉じた。「わかりました。全ての法務構造を再構築します。日本の法規に適合するよう整えます。ただし、あなたの協力が必要です。」


「……何をすればいいですか?」


「私の質問に正直に答えてください。答えが分からなくても、『分かりません』と言ってください。知ったかぶりをして後々問題を起こすよりはましです。」


樹は頷いた。「……わかりました。そうします。」


彩芽は敵意のない鋭い目で樹を見た。


「……一緒にやっていけそうですね。」


---


午前11時0分——彩芽の事務所の前。


樹と志織は神崎・パートナーズのビルの前に立っていた。志織はタブレットのメモを確認している。


「神崎彩芽。二十七歳。東京大学法学部卒業。大手法律事務所を経て、三年前に独立。法律に厳しく、富裕なクライアントに怯まないことで知られています。」


樹は頷いた。「……印象的だった。」


「ええ。そして彼女はあなたの全資産が法律に適合するよう徹底するでしょう。」


「……それが俺に必要なことだ。」


志織は樹を見た。「……緊張しているように見えませんね。」


樹はしばらく考えた。「……昔は彼女のような人に会うと緊張した。今は……緊張する必要を感じない。」


「なぜですか?」


樹は小さく微笑んだ。「……誰かに何かを証明する必要がもうないからだ。」


---


午後0時0分——丸の内仲通り。


樹と志織は丸の内仲通りを歩き、昼の日差しを楽しんでいた。樹は周囲の店々を見渡し、心は彩芽との会合にあった。


「……志織さん。」


「はい?」


「俺は本当に良い会社を築けると思うか?」


志織は優しい眼差しで樹を見た。「……もう始めていると思います。」


樹は眉を上げた。「……どういう意味だ?」


「デジタルブリッジです。倒産寸前の会社を買い、全社員を維持した。それはビジネスの決断ではありません。人間としての決断です。」志織は小さく微笑んだ。「……良い会社は、そういう決断から始まります。」


樹は沈黙した。


「……ありがとう、志織さん。」


「お礼には及びません。ただ事実を言ったまでです。」


---


午後2時0分——丸の内のビルへ戻る。


樹と志織はオフィスに戻った。十階で、志織は彩芽との会合の報告書をまとめ始めた。樹は社長椅子に座り、目の前に広がる東京の街並みを見つめた。


彼はこの一日に起きた全てのことを考えていた。デジタルブリッジの買収。澪との会合。彩芽との会合。そして心の中で繰り返されるシステムのアドバイス。


「ホストは今のホストで十分です。」


樹は小さく微笑んだ。


「……たぶん、俺はもう十分なんだ。」


---


【次話 第36話——『九時』】


翌朝、ウェルスイベント09が始動する。システムは三百億円の目標と四十八時間の制限を提示する。樹はその日を決断と共に始める。今回は、金を浪費するのではなく、会社の基盤を築くために使うのだ。そして初めて、彼は一人でそれを行うのではない。


【第36話へ続く……】

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