第24話 ー 『日本一の道楽』
第24話 ー 『日本一の道楽』
2026年4月27日(月)——午前8時0分。
恵比寿のマンション。
樹が朝食を終えたばかりの時だった。ご飯と味噌汁、シンプルな玉子焼き。その時、ウィンドウが彼の前に現れた。
【QUEST 07 —— 発生】
【二十億円を利益目的なしで使用してください。】
【リワード: 百億円】
樹は無表情でその数字を見つめた。
「……二十億か。」
【はい。二十億円を利益目的なしで使用してください。】
樹は長い息を吐いた。彼はもうマンションを持っている。箱根の旅館。青山のビル。神田の建物。あと何を買えばいいというのか。
「……別の物件だ。」
樹はスマホで不動産アプリを開き、日本全国の物件リストを検索した。多くの選択肢があった。東京のオフィスビル、京都のホテル、沖縄のリゾート、大阪の工場。
そして樹の目を引く物件があった。
横浜市西区·みなとみらい。
海辺に位置する廃墟となった複合施設。横浜港の壮観な眺望が楽しめる。価格は十八億円。
樹はさらに説明を読んだ。この複合施設はかつて高級ショッピングモールと展示スペースだったが、五年前にオーナーが倒産した。建物は何年も空き家のままで、莫大な改修費用のため投資家の関心を集めていなかった。
「……ここは完璧だ。」
彼はその複合施設を扱う不動産会社のリストを開き、メッセージを送った。
「みなとみらいの物件を見たい。」
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午前9時30分——横浜駅。
樹はロールス・ロイスを駅近くの駐車場に停め、みなとみらいへ向かって歩いた。道すがら、美しい横浜の景色が広がる。巨大な船が停泊する港、そびえ立つ高層ビル群、そして遠くにはランドマークタワーが聳えている。
彼は廃墟となった複合施設の前に到着した。大きな建物だ。三階建てで、モダンでエレガントな建築様式だが、今はくすんで荒廃している。窓はほとんどが割れ、壁には苔が生え始めている。
不動産業者——西村という中年の男性——が既に正面玄関で待っていた。
「如月様ですか?おはようございます。横浜の不動産会社の西村と申します。」
「おはようございます、西村さん。」
「この物件は五年間空き家となっております。以前は高級ショッピングモールと展示スペースとして使用されていました。前のオーナーが倒産し、現在は銀行が所有しております。」
樹は周囲を見渡した。荒れてはいるが、建物の構造はまだしっかりしている。そしてその立地——海辺で湾に面している——は本当に壮観だった。
「……内部を見てもいいですか?」
「もちろんです。こちらへどうぞ。」
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午前10時0分——複合施設の中。
西村は大きな鍵で正面のドアを開け、彼らは中へ入った。内部は広いメインルームで、天井が高く、海に面したガラス張りの壁がある。埃っぽく汚れてはいるが、樹は改装すればどれほど美しくなるか想像できた。
「一階はかつて展示スペースと商業エリアとして使われていました。二階と三階はオフィスと多目的スペースです。裏手には専用の桟橋へのアクセスもあります。」
樹は大きな窓へ歩いていった。外では、横浜港が晴れた空の下で青く広がっている。小さな船がゆっくりと航行し、遠くにはフェリーが横切っている。
「……眺めが素晴らしいですね。」
「ええ、お客様。この立地は横浜でも最高のものの一つです。残念ながら、改修費用が莫大なため、投資家の関心を集めていません。」
「改修費用はどのくらいですか?」
「使用可能な状態に戻すには約八億円と見込まれています。」
樹は頭の中で計算した。物件価格十八億円+改修八億円=二十六億円。二十億円の目標を少し超えるが、まだ予算内だ。
「買います。」
西村が瞬いた。「……お客様、もう少しご内覧なさいますか?」
「必要ありません。買います。」
「……かしこまりました。書類の手続きをいたします。」
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午前11時30分——不動産会社の事務所。
購入手続きには約一時間かかった。樹は全ての書類に署名した。物件代金十八億円、さらに改修用に八億円を計上した。
樹は総支出を確認した。
みなとみらい物件:十八億円
改修(見積もり):八億円
合計:二十六億円
【QUEST 07 —— 達成】
【二十億円が使用されました。】
【リワード計算中...】
【百億円が追加されました。】
【新しい残高: 百四十五億六千四百八十万円】
樹はその数字を見つめた。
百四十五億六千四百八十万円。
「……百四十五億か。」
彼はスマホをポケットにしまい、事務所を出た。
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午後0時30分——みなとみらい、海辺。
樹は買ったばかりの複合施設の裏手にある桟橋の端に立っていた。潮風が吹き、塩と水の香りを運んでくる。遠くには横浜の地平線が見える。ビル群、橋、そして果てしない青い空。
「……ここは完璧だ。」
彼はこの複合施設で何ができるか想像した。アートとクリエイティビティのための展示スペースかもしれない。パフォーマンスや展示会のためのイベントスペースかもしれない。あるいは……人々が集まり、横浜の美しさを楽しむ場所。
スマホが震えた。冴からのメッセージだ。
「如月さん、みなとみらいの物件を購入されたと聞きました。本当ですか?」
樹は小さく微笑んだ。冴はいつも自分が思うより早く情報を掴む。
「はい。買ったばかりです。」
冴からの返信がすぐに来た。
「……十八億円の物件を、また調査もせずに?」
「はい。」
「如月さん……あなたは本当に予想外の方ですね。」
樹は微笑み、返信した。
「ありがとうございます、久遠さん。」
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午後1時30分——複合施設の中、三階。
樹は三階を歩いていた。ここからは横浜港の最高の眺めが楽しめる。広くて空っぽの部屋には、海に面した大きなガラス窓がある。
彼はこの部屋に快適な椅子や木製のテーブル、生花を置くことを想像した。人々が座り、コーヒーを飲み、景色を楽しむ場所。
「……カフェにするのもいいかもしれない。」
樹はこの場所をどうするか正確には分からなかった。しかし、この場所には可能性があると感じていた。何か美しいものになる可能性が。
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午後3時0分——桟橋の端。
樹は桟橋の端に座り、足を水の上に垂らしていた。潮風が吹き、爽やかな新鮮な空気を運んでくる。
スマホが震えた。今度は知らない番号からの着信だ。
樹は電話に出た。
「もしもし?」
「如月樹様ですか?」
電話の向こうの中年男性の声。落ち着いているが、威厳のある声だ。
「……はい。どちら様ですか?」
「小川不動産グループの小川と申します。みなとみらいの物件を購入されたと伺いました。協力の可能性についてお話ししたく、お電話いたしました。」
樹は眉をひそめた。「……協力?」
「ええ。当社はそのエリアの開発に関心を持っております。あなたの物件は戦略的な立地にあり、協力の提案をさせていただきたく。」
「……開発には興味がありません。」
小川は一瞬沈黙した。「……すみません?」
「開発には興味がありません。この物件は個人的な使用のために購入しました。」
「……個人的な使用?しかし、これは数十億円の商業複合施設ですよ——」
「分かっています。ただ静かな場所が欲しかっただけです。」
電話の向こうで沈黙が流れた。
「……あなたは面白い方ですね、如月さん。」
樹はかすかに微笑んだ。「よく言われます。」
「……お気が変わりましたら、ご連絡ください。」
電話が切れた。
樹はスマホをポケットにしまい、目の前の海を見つめた。
大手企業が彼に注目し始めている。
これはまだ始まりに過ぎない。
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午後4時30分——東京へ帰路。
樹は奇妙な感覚を抱えながら東京へ車を走らせた。ロールス・ロイスの中で、彼はこの数週間で成し遂げた全てのことを考えていた。
四つの物件。二台の車。百四十五億円の資産。そして彼を気にかけ始めた二人の女性。
「……こんなこと、想像もしていなかった。」
彼は前方の道を見つめた。夕暮れの訪れとともに、街の灯りが一つまた一つと点り始めている。
「たぶん……これは、もっと大きな何かの始まりなんだ。」
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【次話 第25話——『誰が如月樹なのか』】
ビジネスメディアが樹の調査を始める。疑問が浮上する。如月樹とは一体誰なのか?突然数十億円の資産を手に入れた二十三歳の元サラリーマン。あるビジネス誌が「謎の若き億万長者」に関する記事を掲載し、樹の名前が一般に知られ始める。
【第25話へ続く……】




