第4話 強敵
俺は今、とてつもない強敵と対峙している
その敵の名前は「風呂」だ
正確には風呂自体が敵なのではないが、詳しくは言いたくないので風呂ということにしておいてほしい
そして今、俺は目を瞑って自分の体を洗っていた
これが中々に難しい
十数年共にしてきた前までの体なら、目を瞑っていても問題なく洗うことができただろう
だが、今の体は今日がはじめましてだ
いつもと何もかもが違う
なのに目を瞑って洗うのは至難の業である
...などと二回も同じようなことを言いながら体を洗うことの難しさを説明したが、実は洗うこと自体はそこまで難しくはない
女の子の体に触れるのが怖いだけである
そもそも、俺は今までの人生で彼女がいたことがなく、女子と関わる機会もそこまで多かったわけではない
黒江?あれは女子とは別な気がするからノーカンで
何故か悪寒を感じたが気の所為だろう
話を戻して、女性経験皆無と言っても過言ではない俺にいきなり「女の子の体を洗え」は難易度が高すぎるのである
なにより、自分のこの体に欲情したくない
今まで長々と言い訳をしてきたが、俺が今風呂に苦戦している理由の7割は「自分の体に欲情したくない」だ
あまり自分を信頼できていないので、自分の体だとわかっていても欲情しそうで怖いのだ
そう思考を巡らせていると、風呂場のドアが開いた
「夕飯の準備が終わったのに、風呂から出てこなかったから見に来てみれば...その感じだと髪だけ洗ったね?お兄」
「だ、だって怖くてまだ触れなくて...」
「はぁ、自分の体なんだから...ってのは流石に難しいか」
少し間をおいて、黒江が諦めたように言ってくる
「仕方ない、私が洗ってあげるよ
ご飯が冷めちゃうしね」
「ほんとか!?助かる!!ほんとにありがとな!!」
「明日からはお兄が自分で洗ってね」
「わ、わかった。できるだけ頑張るよ」
その後はあっという間だった
気づけばドライヤーすら終わっており、俺は理解できないまま食卓についていた
長い間悩んでいたから風呂を早く終えられてあっという間だと思うのはわかる。だが気づいた時にはドライヤーも終わっているのは一体なんだというんだ
やはり俺の妹は特殊能力でもあるのではなかろうか
そう考えながら黒江が準備してくれたカレーを口に入れる
「にっっっっっっっっっっが!?!?!?!?!?!??!」
とてつもなく苦かった
困惑しながら黒江の方を見ると必死に笑いを堪えているようだった
確信犯だ
苦味から察するに恐らくゴーヤーを入れたのだろう。それも苦いのをかなり多めに
しかしなんで...
疑問が顔に出ていたのか、それとも思考を読んだのかはわからないが、黒江が答える
「お兄お風呂に入りながら私のことちょっと貶したでしょ?だから報復
一応体は洗ってあげたんだから優しいと思ってよね」
「お前はエスパーか!?」や「限度ってもんがあるだろ!!」など色々言いたいことはあったが、言ってしまうとさらに良くないことが起きる気がしたので我慢し、なんとか激苦カレーを完食した
途中でラー油を入れていなかったら食べ切れていなかっただろう
食べるのに時間がかかったのか、風呂で時間を浪費しすぎたのか、はたまた両方かはわからないが、時計を見ると22:37だった
少し瞼が重くなり出しているのに気づいた俺は、布団に吸い込まれるように倒れ、ものの数秒で眠りについた




