第8話 最低だけれど・・・・・・
謁見の間に、かつて満ちていた傲岸不遜な熱気は微塵も残っていなかった。
膝をつき、肩を震わせるリリアニアの姿に、周囲の役人や魔導士たちもなす術なく立ち尽くしている。
僕の脳裏に、これまで彼女たちから受けてきた数々の仕打ちが、よぎっては消えていく。毎日毎日、ゴミ箱とさげすまされてきて、規格外の魔毒を飲まされてきた。同じ目に遭わせようかな。僕の体内に蓄積している魔毒を際限なく聖女リリアニアに流し込もうかな。そしたら、ほぼ間違いなく死んでしまうだろう。
僕を長年ゴミのように扱い、家族を危険に晒した彼女たちに、ふさわしい報いを受けさせる権利が僕にはある。
「・・・・・・ミト」
復讐の念に駆られている僕の服の裾をエマがそっと引っ張る。
「ん?・・・・・・」
「ミト。外を見て」
僕は言われるままに、窓の外を見た。
そこには、魔法の恩恵を信じ、聖女の祈りに明日への希望を託して生きている多くのの市民たちの姿がった。彼らは皆、聖女リリアニアたちを信じて、魔毒を彼女たちに浄化してもらっている。実際には、僕に押しつけられているんだけれど。それでも、その無辜の市民たちには、何の罪もない。
僕は改めて、聖女に向き直る。
「・・・・・・リリアニア。君たちのやり方は最低だ。僕は決して許しはしないだろう。けれど、君たちの存在が、この国の病を癒やし、多くの民たちにとって救いとなってきたのもまた事実だ」
リリアニアが顔を上げ、震える瞳で僕を見つめた。
「ここで君たちを全員葬れば、この国のインフラは崩壊するだろう。魔毒があふれかえり、大混乱が起き、罪のない人々が真っ先に犠牲になるだろう。・・・・・・僕は、そんなことは望まない」
「な・・・・・・なら、許してくれるの? また、今まで通りに・・・・・・」
リリアニアの目に、浅ましい期待が灯る。僕はそれを、冷徹な一言で遮った。
「勘違いしないで。条件がある」
僕は周囲に集まった高位の者たち全員を見渡した。
「一つ、これまで通り、君たちの魔毒は僕が引き受けよう。ただし、その事実に感謝し、ノルディアス家に対する『ゴミ箱』という不当な待遇と名称を今すぐ撤廃すること。そして、ノルディアスの名を王都の最高位の功労者として正式に登録し、国民が抱く差別的な感情を払拭するために、君たちが責任を持って啓蒙活動を行うこと」
リリアニアは息を呑んだ。それは彼女たちにとって、自分たちの無能を認め、蔑んでいた対象に頭を下げるという、死よりも辛い屈辱かもしれない。
「拒むなら、今すぐ魔吸石をすべて元の『黒』に戻してもいい。・・・・・・どうする?」
「・・・・・・あ・・・・・・ええ、分かったわ・・・・・・分かった、従うわ・・・・・・。だから、お願い・・・・・・その力で、また私たちを・・・・・・」
誇りを失い、ただ保身のために首を垂れる聖女。
彼女がかつて僕に見せたあの美しく邪悪な笑みは、もうどこにもなかった。けれど、これでいい。不当な差別の上に成り立つ偽りのユートピアは終わり、新しい世界がここから始まるんだ。




