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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第64話 お疲れ様、打ち上げよ!


 王立学院祭が閉幕した。


 祭りの熱狂はまだ学院の隅々に残っていたが、僕たちノルディアス家の一行は、クレアが予約してくれた少し離れた大通りの裏手にあるレストラン『銀の翼亭』へと向かっていた。


「さあ、みんな! 今日はノルディアス家の新しい門出、そして学院祭の大成功を祝した打ち上げよ! 予算のことは気にせず、存分に食べて飲んで!」


 珍しく上機嫌なクレアが、景気よく店の扉を開ける。


 店内は落ち着いた木目調の装飾で、暖炉の火が暖かく僕たちを迎えてくれた。貸切とまではいかないが、奥の広い円卓が確保されており、今日一日を全力で駆け抜けた僕たちにとって、そこは最高の聖域のように見えた。


「お兄ちゃん、すごかったよ! みんなお兄ちゃんのこと見てて、わたし、妹であることが誇らしかった!」


 妹のユナが僕の腕に抱きつきながら、今日の感想を何度も何度も話し始める。


「ユナこそ、お店の手伝い、よく頑張っていたよ」


 僕は、彼女の頭をポンと撫でる。ユナは表情を綻ばせる。


「ああ、本当に。ミト・・・・・・お前が、あんなに堂々と人前で、沢山の人を救うなんて。父さんは、涙が止まらなかったよ」


 父様がハンカチで目頭を押さえ、母様も隣で優しく微笑んでいる。かつて「不浄」「ゴミ箱」と呼ばれ、王都の隅で肩を寄せ合っていた家族が、今こうして誇りを持って笑い合っている。それだけで、僕は幸福感で満たされそうだった。


「リサ、シエラ。二人も今日は大活躍だったわね」


 クレアに振られ、リサは眼鏡をクイッと押し上げた。


「・・・・・・私の計算通りよ。ミトの吸収率が理論値上回ったのは、唯一の想定外だったかしら・・・・・・でも、面白いデータが取れたからそれでいいわね」

「私はもう、最高の気分よ!今日だけで、いったいどれだけの創薬のアイデアが思いついたことか・・・・・・猛毒と白銀の混成マナ・・・・・・また、新しい劇薬が作れそうだわ!」


 シエラがぶつぶつと不穏な発言を繰り返し、隣に座っていたエマが「それは許可できないわよ」と苦笑しながら、僕の隣にピッタリと腰を下ろした。


「ミト・・・・・・本当にお疲れ様。あんたは、私の自慢のパートナーよ」


 エマがテーブルの下で、そっと僕の手を握った。その手の温かさが、戦いの緊張を完全に溶かしてくれた。


 料理が運ばれ、賑やかな宴が始まった頃。

 店の入り口のベルが鳴り、ドアから一人の女性が姿を現した。


「あら・・・・・・。賑やかだと思ったら、貴方たちでしたのね」


 そこに立っていたのは、ローゼンベルク公爵令嬢のカトレアだった。祭りが終わり、私服に着替えているが、その気品は隠しようもない。


「カトレア様!? なぜここに・・・・・・」


 驚くエマに、カトレアは少しだけ恥ずかしそうに視線をらした。


「・・・・・・いえ、祭りの後の静かな夕食を楽しもうと立ち寄っただけですわ・・・・・・ですが、今日のミト・ノルディアスさんの活躍を思えば、ここで会ったのも何かの縁かもしれませんわね」

「ローゼンベルク様! よろしければ、ご一緒にいかがですか?」


 母様の明るい誘いに、カトレアが「よろしいのですか?」と微笑んだ瞬間。僕の隣にいたエマの空気が、ピリッと引き締まった。


「・・・・・・へぇ。カトレア様。あなたのような貴族が、こんな庶民的な店に来るなんて珍しいこともあるものね・・・・・・ミトに、何か御用かしら?」


 エマが少しだけ目を細め、カトレアを見据える。警戒心か、それとも別の感情か。


 カトレアはエマの視線を真っ向から受け止め、優雅に頭を下げた。


「エマ・シアン・スプレンディアスさん。貴方あなたの今日のミトさんを支えた献身、お見事でしたわ。・・・・・・私はただ、同じ学院の生徒として、今日の奇跡を見せてくれた彼に、一言お礼が言いたいだけです」


 二人の間に、目に見えない火花が散る。


 だが、カトレアがユナの差し出した椅子に腰を下ろし、運ばれてきたジュースを一口飲むと、その緊張感は不思議と和らいでいった。


「・・・・・・ミト様。あなたが私をあの忌々しい病から救ってくれるまで、恥ずかしながら、あなたのことを何一つ知りませんでした。ノルディアスという家名が、これほどまでに我が国に貢献しているなんて・・・・・・そして今日の学院祭でのご活躍で、改めて、その尊さを思い知った気分です」


 カトレアの言葉は、真っ直ぐで、迷いがなかった。

 エマはそれを聞き、ふっと力を抜いて笑った。


「・・・・・・そうね。ミトの良さに気づくのが、ちょっと遅かったんじゃない? でも・・・・・・まあ、認めてくれるなら、今日は一緒に祝いましょう。カトレア様」

「ええ、喜んで。エマさん」


 二人の少女が、グラスをカチンと合わせた。


 それからの時間は、まるで夢のように過ぎていった。


 ユナがカトレアに懐いて学院の話を聞き、リサとシエラが学問的な論争を始め、さらにカトレアもそれに加わり、父様と母様は幸せそうにワインを傾けている。


 僕は、そんな賑やかな光景を眺めながら、運ばれてきた温かいスープを口にした。


(・・・・・・ああ。最高の学院祭だったな)


 かつて、「ゴミ箱」とさげすまれていた頃の自分に、教えてあげたい。


 お前は、いつかこんなにもたくさんの人の笑顔と、温かなマナで満たされるんだよ、と。「ミト、何をボーッとしてるの? ほら、このお肉美味しいわよ」


 エマが自分の皿から、美味しそうな肉料理を僕の口に運んでくれる。


「あ、ありがとう、エマ・・・・・・本当に、みんなのおかげだよ」

「何言ってるの。あんたが頑張ったから、みんながここにいるんでしょ」


 エマの言葉に、テーブルを囲む全員が頷いた。

 

 打ち上げは、夜が更けるまで続き、その笑い声は王都の夜空にも響かんばかりだった。


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