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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第54話 学院祭前日!!


 王立学院は、今や熱い期待感の坩堝るつぼと化していた。

 空中浮遊する魔導式足場の上では、建築学科の生徒が複雑な装飾を施し、中庭では属性魔法科の生徒たちが、夜をいろどるための光の種を植えている。どこを歩いても、浮き足立った学生たちの笑い声と、準備に追われる焦燥が混じり合っていた。


 そして――そんなにぎわいの中でも、学院内のある一点だけは異常なほど高い熱量を放っていた。


「ミト様! 今年の学院祭、私どものクラスの喫茶店にぜひ一度お越しいただけませんか?」

「ミト君、こっち! 剣術科の演舞の特別ゲスト、まだ空いてるんだけど・・・・・・!」

「あの、ミト様・・・・・・これ、私が焼いたクッキーです。お口に合えば・・・・・・っ!」

「あ、はは・・・・・・。ありがとう。でも、今は準備の途中で・・・・・・」


 僕は、差し出される無数の招待状や包みを抱えながら、冷や汗を流していた。


 かつて「ゴミ箱」と蔑まれ、石を投げられていた僕が、今や歩くたびに黄色い声を浴びている。この急激な環境の変化に、僕の精神は、ちょっとついていけなくなっていた。


 ノルディアス家、そして僕に対する偏見はまだまだ根強い。それは間違いない。だけれどそれが真っ先に崩れているのは間違いなくこの学院だ。


 王国の守護者であるロザリア女王の暗殺未遂事件を未然に防ぎ、クーデターも阻止したこと。それから、エリュシオンからもたらされそうになったテロも未然に防いだこと。それらの僕の功績は、またたくまに学院内に広まり続けて、いまこういう状態になっている。


「・・・・・・すごいわね。好感度ゲージがもう天井を突き抜けて計測不能になってるわよ」


 物陰からその光景を見ていたリサが、魔導タブレットを叩きながら感心したように呟く。また妙な解析装置を開発したみたいだ。


「当然よ。すでに何度も国難を救った若き英雄なんだから。しかも、かつて虐げられていた孤独な少年が、隠された真の力で巨悪を討つ・・・・・・女子生徒たちにとっては、これ以上ない最高級のロマンスよ」


 隣で腕を組むクレアの分析は相変わらず冷静だ。


 そして、その背後で――。


 一滴も漏らさぬほどの、鋭い冷気を放っている少女がいた。


「・・・・・・・・・・・・」


 エマだ。彼女は愛剣の鞘を強く握りしめ、僕にクッキーを渡そうとした少女たちの背中に、無言の圧力を送り続けている。


「エマ、そんなに怖い顔をしないの。ミトの魅力が広まるのは、私たちの計画にとってもプラスよ」


 クレアの言葉に、エマは絞り出すような声で反論した。


「分かっているわよ、そんなこと・・・・・・! ミトが、他の女性と・・・・・・その、深い仲になればなるほど、スキルが拡張されて、能力値が跳ね上がるっていうのは・・・・・・」


 そう、これが僕たちの抱える最大の問題でもあった。


「ミトが強くなれば、これから来るもっと大きな災厄から彼を守れる。・・・・・・それは頭では理解している。でも・・・・・・でも、やっぱりあんなにデレデレされるのは、面白くない!」


 エマの気持ちは痛いほど分かる。彼女にとって僕は守るべきパートナーであると同時に、独占したい愛しい人でもあるのだ。


「エマ、大丈夫? あのさ、エマ。何度も繰り返しているけれど、僕はエマが一番だから」

「分かっているから! もうその話は、これでおしまい。・・・・・・ところでそのクッキー、美味しそうね」


 エマはそう言うと、僕が手にしたひとつのクッキー箱を見る。


「あ、これ? 僕はエマの作ったご飯が一番好きだよ。でも、やっぱり断るのも失礼かと思って受け取っただけで・・・・・・」


 僕は慌ててつくろう。


「ミト。あなたはそう言うけれど、あなたの細胞は嘘をつかないわよ」


 クレアが僕の胸元に指を突き立てた。


「今、君が女子生徒たちに囲まれているだけで、心拍数とマナの循環効率が12パーセント上昇しているわね・・・・・・意識していなくても、体内の『器』は常に、より多くの『愛』という名のエネルギーを求めているの」

「ちょっとミト! ほら、やっぱりっ!!」


 エマが涙目になる。


 言葉に詰まる。確かに、彼女たちに感謝されたり、好意を向けられたりすると、僕の体の奥底にあるマナが心地よくなるのを感じる。 それは僕自身の浮気心というよりは、抗いがたい本能とでも呼ぶべきなのだろうか。


 エマは僕の服の裾をぎゅっと掴んだ。


「・・・・・・ミト。ミトが強くなるために、他の女の子が必要なんだとしたら、私は・・・・・・。私は、それを止める権利はないのかもしれないわ。でも、それでも・・・・・・私のことだけ、特別だって・・・・・・一番だって、ちゃんと思っててくれないと・・・・・・私、怒るから」

「エマ・・・・・・」


 僕は抱えていた荷物をクレアに押し付けると、エマを強く抱きしめた。


「当たり前だよ。僕にとって、エマは他の誰とも違う。たとえ他の人と関係することがあったとしても、僕の心の一番深い場所にあるのは、エマだけだ。・・・・・・約束するよ」

「・・・・・・バカ。・・・・・すぐそうやって、かっこいいこと言うんだから」


 エマは僕の胸に顔を埋め、ようやく少しだけ表情を和らげた。


「あーあ。ごちそうさま。学院祭の準備より先に、こっちでお腹いっぱいになっちゃったわね」


 クレアが呆れたように肩をすくめる。


「さ、切り替えていきましょ。色々とお偉方さんたちが来るからね。準備はいい?」

「ああ」

「どんと来なさいよ。ミトを悪く言うなら、どんな偉い人だろうと、私がこの剣で分からせてあげるわ」


 エマが、闘志を燃やして剣を鳴らす。

 その横顔は、恋する乙女であり、愛する男を世界の不条理から守り抜く決意を固めた、気高き騎士のそれだった。


 慌ただしく、けれどどこか温かい学院祭の準備期間。


 僕たちは、近づく波乱の足音を感じながらも、今この瞬間の絆を確かめ合うように、再び喧騒の中へと歩き出した。


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