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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第50話 薬師ギルド連合からの嫌がらせ、そして決戦


 ノルディアス商会の開店から数日。


「ミト・・・・・・開店前から行列よ。隣の通りまで並んでるわ」

 

 エマが嬉しそうに報告してくれる。父様と母様も、忙しそうに、けれど今まで見たこともないような晴れやかな顔で接客をこなしていた。


 しかし、気がかりなことがある。既得権益の塊――薬師ギルド連合だ。正々堂々、脅迫状まで送りつけてきたのだ。そろそろ、何かを起こしてきてもおかしくない。


 彼らにとって、良心的な価格で高品質な薬を売る僕たちは、自分たちの暴利を脅かす存在でしかないのだろう。


「・・・・・・ミト。薬師ギルド連合のいやがらせに、そろそろ気をつけておくのね」


 カウンターで帳簿をつけていたクレアが、冷たく目を細めた。


「覚悟はしといてね。奴らは、私たちを社会的に抹殺しに来るわよ」


 そうして間もなく、ギルド連合の執拗かつ卑劣な嫌がらせが始まった。


 まずは、デマを広められた。

「ノルディアスの薬には、遅効性の魔毒が含まれている。数年後に恐ろしい後遺症が発生する」という根も葉もない噂が、金で雇った大量のサクラにばらまかれた。


 やはり「不浄の家」として長年(さげす)まれてきたノルディアス家、大多数の人々の意識はまだそう変わっていない。「ノルディアス家は、私たちに復讐を試みているのか・・・・・・」と一部では騒ぎになっている。

 

 或いは、ギルドと癒着した役人を抱き込み、開店直後の最も忙しい時間に、言い掛かりに等しい衛生基準を持ち出して営業停止を迫ったり。


「汚いわね。自分たちの腕で勝負できないからって、権力を使うなんて」


 シエラが、店の奥で調合中のフラスコを叩きつけるように置いた。


 そこへ、リサが現れた。


「ミト君、大丈夫かしら?」

「あ、リサ・・・・・・!」

「魔毒を通して吸収した記憶、ちゃんと読めている? それさえしっかりしていれば、薬師ギルド連合への致命的な一撃を与えられるはずよ」

「うん・・・・・・ありがとう。リサ。恩に切るよ」


 今の僕の能力を、ここまで向上させてくれた一人はリサだ。感謝してもしきれない。


 リサは、不敵な笑みをその顔にたたえる。


「盛大にやることよ。大体、この王国は誰のおかげで、魔毒を処理してもらえていると思っているのかしら? 薬師ギルド連合だって、その例外ではないはず。ミト、どんとやっちゃいなさい」


♢ ♢ ♢


 決戦は、ほどなくしてギルド側から仕掛けられた。


 王都でも最も大きい中央広場。ギルド会長のバルガスが、大勢の聴衆を集め、大々的な公開討論会を開催したのだ。


「市民の皆さん! 我々は、ノルディアス商会という呪われた一族が、偽りの安薬で皆さんの健康をむしばんでいることを黙って見てはいられません!」


 肥え太った体躯たいくを揺らし、バルガスが叫ぶ。その傍らには、いかにも


「ノルディアスの薬を飲んで体調を崩した」と言わんばかりの、顔色の悪いサクラたちが並んでいた。

「ミト・ノルディアス! 出てくるがいい!貴様のペテンを、我らギルドが科学的に、そして倫理的に断罪してやろう!」


 広場に集まった人々が、不安げに僕を見つめる。


 僕は、エマとクレア、そして父様を伴って、静かにステージへと上がった。観衆の中には、リサとシエラもいて、何かあったときに出て行けるように、最前列で待機している。


「・・・・・・バルガスさん。僕たちの薬が毒だと言うなら、その証拠を見せてください」

「証拠だと? この被害者たちの顔色を見れば十分だろう! 貴様らの薬には、依存性を高めるための怪しい物質が含まれている! ギルドの鑑定士が、それを証明しているのだ!」


 バルガスが掲げたのは、捏造ねつぞうされた鑑定書。

 聴衆がざわめき始める。


「やっぱり、そうだったのか・・・・・・」

「変だと思ったのよね。あの不浄の家が、急に商売を始めるなんて・・・・・・」


 けれど、僕はゆっくりと首を振った。


「・・・・・・逆ですよ。依存性のある『毒』を混ぜていたのは、あなたたちの方だ」

「な、何を馬鹿な・・・・・・っ!言い掛かりもたいがいにしとけ!」


 バルガス氏は、怒りに顔を真っ赤にする。

 しかし、そんな怒気にひるむ僕ではない。


「リサ、お願い」

「ええ、任せて」


 リサが巨大な魔導投影機を起動する。


 広場の中空に、映像が投影される。バルガスが闇組織の人間と取引している様子。そして、依存性の物質を混ぜた上で『希少薬品』としていつわって作成されている薬たち。そして、それらを書いた秘密の契約書。


「なっ・・・・・・なんだ、それは!? そんなものはデッチ上げだ!」

「いいえ、バルガス。その書類に記されたシリアルナンバーは、あなたが今朝、ギルドの倉庫に運び込ませた積荷と完全に一致しています」


 クレアが、涼しい顔で追撃を加える。彼女は事前に、ギルドの物流ルートを完全に把握し、証拠の現物を押さえていた。


 さらに、シエラがステージに上がり、ギルドが製の薬の小瓶を手に取った。


「これ、私が鑑定したけど……中身はただの下剤に、幻覚性の魔薬を微量に混ぜただけのゴミよ。みんなが『効いた』と思っていたのは、ただの錯覚。長期的に飲めば、マナ回路がボロボロになる代物ね」

「市民の皆さん、よく見てください」


 僕はバルガスの顔を指差した。


「金のために、自分の国の民を売る。これこそが、本当の毒ではないでしょうか」


 広場を支配していたのは、もはや僕たちに対する疑惑ではなく、ギルドに対する激怒だった。


「ふざけるな! 俺の母親がずっと買っていた薬が、ただの毒だったのか!?」

「ど、毒ではありません・・・・・・決して、単に何の効果もないだけで・・・・・・」

「じゃあ俺たちにそんなものを売りつけていたのか!?」

「金を返せ! ギルドなんて解体しろ!」


 怒れる群衆の波に、バルガスは顔を真っ青にして後退あとずさり、最後には腰を抜かして座り込んだ。

 

「・・・・・・終わったわね、ミト」


 エマが、僕の肩をポンと叩いた。


「ああ・・・・・・でも、これは終わりじゃない。本当の商売は、これからだよ」


 父様と母様は、群衆の一人ひとりに大丈夫ですよ、これからは私たちが、本当の薬を届けますと、静かに、けれど誇らしく語りかけていた。



 数日後。薬師ギルド連合は正式に解体が決定した。


 実は、バルガス率いる現体制に不満を持つ薬屋は少なくなかったようだ。あまりにも不当な暴利をむさぼるやり方に、良心的な薬屋たちは心を痛めていたが、ギルドの勢力の強さにどうしようもなかった。しかし、広場での僕たちの告発を受けて、バルガスの権威が失墜したら、その勢力基盤は急速に揺らいだ。所属の薬屋が相次いでギルドから離反して、結果、解体することになった。おまけに、これまで不当な利益をかすめ取っていた悪徳薬屋も、タイミング良く王国警備隊からの摘発を受けていった。残った薬屋たちで、また新しくギルドを作り直そうという話になっているみたいだ。


 ノルディアス商会も、かつてギルドに虐げられていた誠実な薬師たちを雇用していこうという話になっている。


「ミト君、お疲れ様。これで君たちの商売も安泰ね」


 リサが研究室で、成功報酬の茶菓子を頬張りながら笑う。


「リサとシエラのおかげだよ・・・・・・でも本当にありがとう」

「なに、良いってことよ。今後もまた、よろしくねミト」


 リサとシエラが、僕に握手を求めてくる。

 僕はしっかりと彼女たちの右手を握りしめた。


「それにしても、あんたは底知れないわよね・・・・・・あ、そうだ。毒霧の谷の他にも、結構な危険度を誇る毒草地帯があるのよ・・・・・・今度、行ってない?」


 シエラが地図を取り出して、目を輝かせて解説してくる。

 毒と薬。いずれにせよ、僕はこのメンバーたちで、当分はやっていかないみたいだ。


 でも、それはそれで楽しそうだな。そう思う僕だった。


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