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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第48話 脅迫? そんなものには屈しないさ


 とりあえず、なんやかんやと準備で時間はあっという間に過ぎていき、僕たちのお店・ノルディアス商会の新装開店を明日に控えた。一応、今後は薬以外も取り扱うかもということで、お店の名前はこうなった。


 王都の繁華街から少し離れた場所に構えたその場所で、僕たちは深夜まで準備に追われていた。棚には僕が解析し、シエラさんと父様が精製した薬の瓶が整然と並び、微かなマナの香りが心地よく漂っている。


「よし、これで明日の準備は完璧だね」


 僕が最後の一瓶を並べ終えたその時だった。 店の扉の隙間から、一枚の黒い封筒が滑り込んできた。


「・・・・・・何かしら、こんな時間に」


 エマが警戒して剣の柄に手をかける。僕が封筒を拾い上げると、そこには血のような赤いインクで、禍々しい紋章が刻印されていた。


「これ……『薬師ギルド連合』の紋章ね」


 シエラさんが顔を顰め、封筒の中身を覗き込んだ。そこには短く、冷徹な脅迫文が記されていた。


「不浄の器、ノルディアスよ。身の程をわきまえよ。

我らが定めたマーケットのことわりを乱す者は、明日の朝日を見ることはできない。

 店を焼き払われたくなければ、全ての在庫を我らに差し出し、王都を去れ」


「・・・・・・ひどい。私たちが一生懸命準備したのに」


 エマが悔しそうにくちびるを噛む。けれど、シエラさんはため息をつきながら、やれやれと解説してくれる。


「魔導薬学の世界じゃ、彼らは有名なのよ。希少な薬草の流通を独占して、価格を十倍以上に吊り上げたりしているしね。貧しくて薬が買えない人が死んでも、『自己責任だ。貧乏人がいなくなれば市場が健全化する』って笑っているような連中よ。このお店は、彼らにとって自分たちの暴利を脅かす最大の害悪に見えるんでしょうね」


 珍しく、冷静な口調のシエラがそう説明してくれる。


 しかし、僕は脅迫に屈するつもりなんて、一ミリもない。


 確かに、相手は王都に根を張る巨大組織だ。真正面から戦えば、こちらが正しくても泥仕合に持ち込まれてしまう。


「・・・・・・だったらさ、彼ら自身の『毒』で自滅してもらおう」


 僕は店のカウンターに腰を下ろし、目を閉じた。


 侮っていては困る。聖女たちを経由して、僕の体内には、これまで飲み干してきた王国中のほとんどの人たちの膨大な魔毒が、蓄積されている。そしてもちろん、それに応じて吸収された彼らの記憶の残滓ざんしも、たっぷりとある。


「ミト、何をするつもり?」

「・・・・・・ちょっと、過去の記憶を整理してみるよ」


 僕は精神を心の奥へと沈めていく。

 魔毒の海を深く潜り、暗く淀んだ記憶と情報の断片へとアクセスする。


――【深層記憶・情報抽出】――


 抽出対象:『薬師ギルド連合』および『不正取引』のフラグ


 頭の中に、いくつもの映像がフラッシュバックする。

 とあるホテルの一室で交わされた、不透明な資金のやり取り。

 隣国の反社会的組織から安価な魔薬まやくを仕入れ、それを裏で売り捌いている、肥え太った商人たちの顔。


「・・・・・・見つけた」


 僕は目を見開いた。


 薬師ギルド連合の議長――バルガスという男。

 彼は国内の情報を操作することで、自分の商会が独占する特効薬の需要を作り出していた。それは商売なんて呼べるものじゃない。単なる、詐欺だ。


「ミト、何が見えたの?」


 心配そうに覗き込むクレアに、僕は記憶から引き出した情報を伝えた。

 ギルド連合が反社会的組織と交わした、裏の契約書の保管場所。

 彼らが「特効薬」と偽って売っている薬に含まれる、依存性を高めるための微量の成分。


「・・・・・・完璧だわ、ミト」


 クレアの口角が、不敵に吊り上がった。


「彼らが明日、嫌がらせに来るつもりなら、最高のおもてなしをしてあげましょう。彼らが売ってきた薬を、あなたの鑑定で白日の下にさらし、民衆の前でその化けの皮を剥いでやるのよ」

「ミト君の舌があれば、彼らの薬にどんなゴミが混ざっているか、一瞬で毒味できちゃうものね」


 シエラも、悪戯いたずらっぽく笑う。


「……みんな。ありがとう」


 僕は自分の右手を握りしめた。

 この手は、毒を消すためにある。

 それは物理的な猛毒だけじゃない。人の心を蝕み、社会を腐らせる毒も、僕が全部飲み干してやる。



 そうして、夜が明けて、いよいよ開店の日となった。

 窓の外では、朝日が街を白く染め始めていた。


 父様は、店の奥で薬草の調合を続けながら、僕に向かって力強く頷いた。


「ミト。お前にすべてを押しつけていたあの頃、私は自分の弱さ、不甲斐なさから目を逸らしていた・・・・・・心から申し訳なく思っている。だが、今は違う。お前が戦うなら、私もこの店の主人として、最後までお前の背中を支えるよ」

「・・・・・・うん、父様」


 エマも、剣をカチンと鳴らして、僕の隣に立った。


「ミト、明日は私が店の前で誰にも邪魔させないわ。あなたは、あなたのやるべきことをして」

「ありがとう、エマ。そして、シエラも」

「ん・・・・・・どういたしまして」


 シエラは短くそう返すと、店の看板をそっと撫でた。


 そこには『ノルディアス商会』の文字が、陽光を受けて、静かに輝いていた。


 さあ、開店の時間だ。

 この王国に蔓延はびこる「強欲」という名の猛毒を、綺麗さっぱり食べてあげよう。


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