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魔毒喰らいのミト~「ゴミ箱」と呼ばれた魔毒処理師、実は最強の知識とスキルを溜め込んでいました~  作者: いおにあ


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第25話 ダンスバトル!!!


 そうして僕とエマは、ビュッフェテーブルに並んだ最高級の料理を、周囲の目を憚はばからずにゆっくりと味わい尽くした。


 満腹感に浸ひたる僕たちの、そんな甘い空気を切り裂くように、一人の男子が僕たちの前に立ち塞がった。


 金糸の刺繍がこれでもかと施された紫の礼装。整えられた金髪と、傲慢ごうまんさに満ちた青い瞳。


「目に余るな、スプレンディアス家の令嬢。どうして君ほどの高潔な女性が、よりによってこんな『ゴミ箱』に、家畜のように付き従っているんだ?」


 不愉快な声が会場中に響き渡り、オーケストラの演奏さえも少し音量を下げたように感じられた。エマはゆっくりとフォークを置き、その男を氷のような瞳で見据えた。


「家畜?言葉には気をつけなさい、カイル・フォン・ベルナス。王都でも有数の資産家侯爵の次男だかなんだか知らないけれど、私の婚約者があなたたち全員の命綱いのちづなである事実に気づかないほど、あなたの頭は空っぽなのかしら?」

「命綱だと?笑わせるな!こいつはただの、汚物を溜め込むだけのゴミ箱だ。そんな奴、この華はなやかな夜会に最も相応しくない」


 カイルは鼻で笑い、僕を指差した。


「こんなゴミ箱、ダンスの一つも踊れやしないだろう!社交界の基本さえ知らない男を連れ回すのは、君自身の格を下げるだけだぞ。それより、俺と付き合った方が、よほど良いと思わないかい?」


 周囲の貴族たちから「全くだ」「ゴミ箱にまともなダンスなんて踊れるわけがない」「ステップの代わりに泥でも踏んでいろ」と品のない哄笑こうしょうが巻き起こる。


 僕は不安になり、エマの袖を引く。が、彼女はそんな僕の行動など気にせずに、カイルに向かって不敵な笑みを浮かべた。


「いいわ。そこまで言うなら、ミトと勝負してみる?もしあなたのダンスがミトより優れていると認められたら、一回くらい、デートしてあげてもいいわよ」

「なっ・・・・・・!?」

「本当か!?エマ、今の言葉、取り消しなしだぞ!」


 会場に衝撃が走る。カイルは歓喜に顔を歪め、僕は絶望的な気持ちになる。


「エマ、本当にまずいよ。僕はダンスなんて習ったことが――」


 だが、エマは僕の言葉を遮さえぎり、僕を引き寄せて、小さな声で耳打ちした。


「大丈夫よ、ミト。落ち着いて」

「でも、ステップもリズムも何も分からない・・・・・・」

「いいえ、あなたは知っているはずよ。思い出して。これまで散々、貴族や超一流の宮廷ダンサーたちの魔毒を吸い続けてきたでしょう?それと一緒に、彼らが磨き培ってきたダンスのスキルも、筋肉に記しるされた記憶も、知らず知らずのうちにすべて吸収しているはずよ」


 エマの言葉に、僕は息を呑んだ。


 そうだ。僕の中に眠る膨大な記憶。それらは戦いの技術だけでなく、貴族としての嗜たしなみや、芸術の極意なども含まれているはずなのだ。


「私のリードに任せて。あとはあなたの内側にある最高級の記憶を開放するのよ」


♢ ♢ ♢


 ダンスバトルの幕が上がった。


 まずはカイル・フォン・ベルナスの番だ。彼はエマの手を取り、得意げな顔でフロアの中央へと進み出た。


 オーケストラが華やかなワルツを奏で始める。カイルの動きは確かに洗練されていた。英才教育を受け、数々の夜会を渡り歩いてきた彼にとって、ダンスなどお手の物だろう。エマを巧みにリードし、完璧なタイミングでターンを決める。


「おお……素晴らしい!」

「流石はベルナス家の次男だ。これぞ貴族のダンスよ」


 一曲が終わると、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。カイルは勝ち誇ったように僕を睨みつけ、エマの手を離して仰々ぎょうぎょうしく一礼した。


「さあ、次はゴミ箱の番だ。足をもつれさせて、その高級な床を汚さないように気をつけるんだな!」


 僕は、フロアの中央に立った。


 エマが僕の正面に立ち、僕の両手を優しく取る。


「行くわよ、ミト。意識を深く沈めて。これまであなたが吸い取ってきた、何千、何万という人々のリズムを繋ぎ合わせるの」


 僕は目を閉じた。


 暗い記憶の海の底から、かつて浄化した無数の人々のスキルの残滓が浮かび上がってくる。

 王立舞踏会・筆頭演者、アルフォンスの記憶・・・・・・英雄王の威厳ある所作・・・・・・


 オーケストラの指揮者がタクトを振った瞬間、僕の体の中で何かが弾けた。


 一歩目。


 それは、重力さえも味方につけたような、滑らかで力強い踏み込みだった。


 エマの腰を引き寄せた僕の動きはまさしく、数千の夜会を制してきた王の動きだった。


「なっ!?・・・・・・」


 カイルの驚愕の声が耳に届く。


 僕たちは旋風のようにフロアを駆け抜けた。僕がリードするたびに、エマの白銀のドレスが美しく花開き、僕のネイビーの礼装が光を受けて、星屑ほしくずを散らすように輝く。


 僕の足運びは、恐らく至高の境地に達していた。かつて王族たちが神に捧げたという、伝統ある古式ステップ。指先の角度、視線の配り方、そしてパートナーであるエマを世界で最も輝かせるための絶妙な空間把握。


 会場の空気が、一瞬で静まる。


 呆然とする貴族たちが、僕の繰り広げる「美の暴風」に圧倒されていた。ダンスという名の至高の芸術を、僕はただひたすら優雅に踊り続ける。


 曲はクライマックスに到達する。


 僕はエマを高く掲げ、最後の一音いちおんと共に、彼女の全身を華麗に、そして優しく自分の腕の中へと着地させた。


 数秒間の、絶対的な静寂。

 

 やがて、誰かが小さく漏らした「・・・・・・美しい」という言葉を皮切りに、会場全体が割れんばかりの拍手と、戸惑いの混じった歓声に揺れた。


「バカなありえない・・・・・・!あんな、あんなステップは見たこともない!」


 カイルは顔を青ざめさせ、その場に膝をついた。彼が誇っていたダンスも、僕の前では、児戯じぎに等しい。その現実を否応なく突きつけられたようだ。


 エマは僕の胸に手を置いたまま、誇らしげに胸を張り、周囲の貴族たちを見渡した。


「どう?私の婚約者は。大したものでしょ?」


 彼女はカイルに向かって冷ややかに微笑むと、僕に向けて可愛らしくウインクをして見せた。


「ミト、完璧だったわ。さあ、約束は守ってもらうわよ、カイル。二度と、私の前でミトを侮辱しないで。いいわね?」


 カイルは一言も返せず、ただ震えていた。

 


 僕は、自分の手に残る確かな感覚を見つめた。


 吸い取ってきたものは、毒だけではなかった。そのことが、改めて実感できた。

 人々が積み上げてきた文化、情熱、そして美しさ。それらはすべて僕の中で美しく輝いているのだ。


「エマ、ありがとう・・・・・・」

「いいってことよ」


 エマは僕に満面の笑みを向けて、そう言ってくれた。

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