第21話 エマの不安、そして安心
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ここは王立学院第1演習場。演習に打ち込みながらも、エマの頭の中は、ミトのことでいっぱいだった。
(今頃、ミトの周りにあの子たちが群がって・・・・・・ミトは優しいから、断れずに微笑みかけたりして・・・・・・それをリサが『研究のため』とか言って黙って見てるのよ!もしかしたら、リサだってどさくさにまぎれて、ミトの指先を触ったりしてるかもしれないわ!)
妄想が膨らむたびに、エマの剣筋は荒くなっていく。
エマはミトを信じている。ミトが彼女を裏切るはずがないことも、彼が自分だけを特別に思っていることも分かっている。
けれど、それと「不安」は別物だった。
自分でも気づかないうちに、ミトの存在が、守るべき対象から、自分を支える唯一無二の光へと変わっていた。それを誰かに奪われるかもしれないという恐怖は、どんな魔物の爪よりも鋭く彼女の心を掻き乱す。
・・・・・・早く、終わらせなきゃ。
エマは集中力を極限まで高め、教官が放つ模擬剣を弾き飛ばした。くるくると宙に個を描きながら、飛んでいく。
驚く教官をよそに、エマは演習の終了を告げる鐘が鳴るのと同時に、嵐のような速さでミトたちの元へと駆け出した。
♢ ♢ ♢
「ミト――っ!!」
研究室の扉が勢いよく開き、息を切らしたエマが飛び込んできた。
「あら、意外と早かったわね。演習を切り上げてきたの?」
リサが冷静に時計を見る。エマは僕の無事(?)を確認すると、膝に手をついて肩で息を吐いた。
僕とリサは、あれから研究室に場所を移していた。
「・・・・・・よかった。変な虫に刺されてないわね・・・・・・」
「エマ、お疲れ様。そんなに急がなくても大丈夫だったのに」
僕が椅子から立ち上がって歩み寄ると、エマはふらりと僕の胸に寄りかかった。演習の疲れと、それ以外にも精神的な焦燥感が一度に押し寄せたのだろう。
「・・・・・・ミトのバカ。どれだけ私が不安だったか分かってるの?学院の女子全員を相手に決闘したいくらいの気分だったんだから」
彼女の声は少しだけ震えていた。
僕は彼女の背中に手を回し、ゆっくりとその魔毒を吸収していく。ああ、けっこう濁っているな・・・・・・いらぬ心配をかけているみたいだ。
「・・・・・・ごめんね。でも、僕はどこにも行かないよ。リサも見ていてくれたし」
「ええ、ミトのマナは終始安定していたわ。むしろ、あそこで手ぐすね引いていた令嬢たちの方が、ミトの無関心さに絶望して負のエネルギーを発散していたくらいよ」
リサが淡々と告げると、エマはようやく少しだけ顔を上げた。
「・・・・・・本当?本当に、私だけを見ててくれている?」
「当たり前だよ。僕を心の底から満たせるのは、エマ、君だけなんだから」
その言葉に、エマの顔がパッと輝く。
彼女は僕の首筋に腕を回すと、リサの目も気にせず、僕の頬に深くキスをした。
「ん・・・・・・ならいいわ。これからも、私がいない時はリサが監視役ね。報酬は、ミトのデータの提供でいいわよね?」
「異論はないわ。合理的な契約ね」
リサとエマの間に、奇妙な協力体制の雰囲気が醸し出される。
やきもきし、嫉妬し、それでも僕を信じようとするエマ。
そんな彼女の不器用な愛が、僕には何よりも愛おしかった。
僕の学園生活は、まだ始まったばかりだ。
押し寄せる誘惑も、影でうごめく陰謀も、彼女たちが隣にいてくれるなら、きっと乗り越えていける。
「さあ、帰りましょう。今日はミトの好きな料理を私が作ってあげるわ!」
「エマの料理……。またステータスが上がりそうだな」
笑い合う僕たちの後ろで、リサが「愛による料理の効果についての追加レポートが必要ね」と呟きながら、ペンを走らせていた。
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