表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/207

第202話 【幕間】鉄と銀の狂詩曲

 ライムスの仮司令部に併設された工房は、昼夜を問わず槌の音と魔力の光が絶えない「不夜城」と化していた。


 私、ペトラは、目の下に濃い隈を作りながらも、目の前の鉄の塊に夢中になっていた。


 隣では、魔導国の最高戦力である六卿が一人、贋命卿イゾルデ・アニムス様が、豪快に笑いながらゴーレムの調整をしている。


「この出力なら申し分ねえ!やっぱり俺様の勘所は最高だぜ!」


 親方の大声が工房に響く。


 私たちが現在、急ピッチで進めているのは、空飛ぶ中継局『自律飛翔型(ドローン)ゴーレム』の量産ライン構築だ。


 お嬢――パスティエール様たちが遠く離れた極東にいても、「ゼノン式通信」の魔力波を繋ぐためには、このゴーレムを一定間隔で上空に滞空させ、中継局として機能させる必要があるからだ。


 それと並行して、私たちは先の戦いで帝国軍から押収した巨大な鉄の筒――『火砲』を分解し、目を輝かせて研究していた。


「なるほどね……。帝国は、この謎の黒い粉の爆発力で鉄玉を飛ばしているのか」


 真っ黒な粉――火薬の匂いを嗅ぎながら、私は呟いた。


 魔導国にはその粉の生成技術がない。


 だが、私はこれを量産型『魔導銀装(アルジェント)』のオプション兵装として組み込めないかと悪巧みをしていたのだ。


 魔導銀装の量産化における最大の壁は、「魔導銀の圧倒的不足」だった。


 試作機『カデンツァ』は全身が魔導銀で作られていたが、魔導銀はパスティエール様の「歌」でしか大量生産できない。


 お嬢が極東へと向かった今、手元にある在庫だけで賄わなければならない。


「これじゃあ量産できねえ!魔導銀が足りなすぎる!」


 イゾルデ様が、油まみれの頭を抱えて唸っている。


 そこで、私は図面を指さしながら指摘した。


「イゾルデ様、そもそもあのなんでも腐食させる侵蝕者――バトラコスはお嬢が浄化しましたよね。今はもう、あそこまでの過剰な『耐食性』なんて気にする必要ないんじゃないですか?」


 その言葉に、イゾルデ親方はハッと顔を上げた。


「……そうか!つまり、重要な『魔力伝達のコア経路』にだけ残りの魔導銀を使い、外装や筋肉部分は従来の『魔導鉄』で済ませるってことか!」


「そうです!名付けて『ハイ・ローミックス構造』!これなら、性能は試作機に多少劣っても、元のコンセプトである操縦型ゴーレム、『量産型魔導銀装』の目途が立ちますよ!」


「お前さん、本当に頭が回るな!よし、すぐに外装の設計を見直すぞ!」


 装甲の問題は解決した。


 次はオプション兵装である「火砲」の弾をどう撃ち出すかだ。


 火薬がないのなら、「火や風の精霊魔術の爆発力」を推進力に使えばいい。


 しかし、撃つたびに術者が魔力を込めて詠唱していたのでは、火砲の最大の利点である「誰でも扱える連射性」が失われてしまう。


「うーん、いちいち詠唱してたら、操作が煩雑になるしなぁ……」


 頭を掻きむしりながら、私は設計図と睨み合った。


 その時、私の脳裏に「ぴかーん!」と電流が走った。


「待って……。ゴーレムを動かす『虚魂術のコア』には、専用の命令式を書き込んでいるよね。


 なら、そこに『精霊言語』を翻訳して書き込めば、引き金を引くだけでコアが勝手に精霊魔術の詠唱と発動を代行してくれるんじゃないか!?」


 思わず大声を上げた私に、親方が目を丸くする。


「虚魂術のコアに、精霊言語をコンバートするだと……!?言語体系が全く違うんだぞ!?」


「できるはずです!」


 私は確信を持って頷いた。


 お嬢の歌、聖教国での祈祷術、ルナリアの言霊魔術、モミジの極東の符術。


 私はこの目で様々な魔術を見てきた。


 そして気づいたのだ。魔術の言語と発動方式はかなり遊び幅があることに。


「言葉の形を変換する回路さえ組み込めば、虚魂術のコアに精霊魔術を発動させることができる!これで『自動精霊魔術発動器』が作れる!」


 私は狂ったようにペンを走らせ、徹夜で翻訳回路の基礎理論を組み上げていった。


 翌朝。


 完成した理論と図面を見たイゾルデ親方は、目を丸くし、やがて腹を抱えて大笑いした。


「……お前さん、本当に面白い発想してるな。帝国の兵器を、魔導国の虚魂術と精霊魔術で置換させちまうとは!」


 イゾルデ様は私の肩をバシンと叩き、本気の目で私を見下ろした。


「どうだ、ペトラ。この戦いが終わったら、魔導院のアタシの研究室に来ねえか?お前なら、次代の魔導卿になれる器だぜ」


 国のトップ技術者からの、破格のスカウト。


 けれど、私は油まみれの顔でニカッと笑って、即答した。


「嬉しいけど、お断りします。」


「あぁ?なんでだ?」


「私はパスティエール様の『専属技師』だからさ。あのお嬢の無茶振りに応えられるのは、世界中探しても私しかいないんだよ」


 私は胸を張って答えた。お嬢の思い描く途方もない夢を、現実の形にする。それが私の、一番の誇りだからだ。


 朝日が昇り始めた。


 工房の外に出ると、完成した試作の『自律飛翔型(ドローン)ゴーレム』が、虚魂術による姿勢制御を受けて、ふわりと空へ浮かび上がっていた。


「頼んだよ。お嬢の歌を、世界中に届けておくれ」


 朝焼けを反射させて浮遊するドローン。


 私は、その光の軌跡をいつまでも見上げていた。遠く離れた新天地で戦うお嬢たちの姿を、心に描きながら。

■Tips


自動精霊魔術発動器について


魔導国の精霊魔術は、術者の声を介して精霊に干渉する「リアルタイム実行型」であり、常に詠唱と集中を必要とした。


しかし、ペトラはモミジの符術を観察し、「特定の意味を持つ記号(モミジの場合は極東言語)に魔力を定着させれば、術者の声なしに事象を確定・保存できる」という事実を発見した。これが「魔術の非音声化・データ化」への大きな転換点となった。


符術における「呪符」は、いわば魔術を保存した「使い捨ての記憶媒体」である。


ペトラはこの機能を、より高密度で再利用可能な「虚魂術のコア」へと置換することに成功した。


死霊魔法をルーツに持つ虚魂術のコアは、本来「命なきものを動かす」ための膨大な命令文を保持できる容量を持っており、これを「精霊への命令」を記録するためのストレージとして転用したのである。


ペトラの最大の功績は、音声としての「精霊言語」が持つ特定の周波数と魔力波形を、虚魂術コアが理解できる「命令式」へと変換・記述したことにある。


これにより、物理的な引き金が引かれた瞬間、コアに記録された「精霊言語のデータ」が魔導銀の回路を通じて周囲の精霊へ出力され、無詠唱かつ瞬時の魔術発動が可能となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ