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第199話 王の顕現

「電気に、地面タイプは効果がないんですのよ!!」


 私が不敵に宣言した直後。


 雷の精霊王の巨大な思念体が、怒りと驚愕に震えた。


『――小賢しい理屈だ!ならば、その殻ごと物理で粉砕するまで!!』


 カルデラの空間が激しく歪み、紫電のスパークと共に、幻影だった雷の精霊王の姿が実体を伴う巨大な武神へと変わった。


 その手には、莫大な雷を纏った巨大な大太刀が握られている。


 実体化した神の放つプレッシャーは、先ほどまでの比ではない。


 立っているだけで押し潰されそうな重圧が私たちを襲う。


「来ますわ!」


 私は喉を震わせ、大地の魔力を操るための歌を紡ぎ出した。


『――♪ ――♪』


 魂の底から湧き上がるような、重厚で力強いメロディ。


 私の歌声に呼応して、カルデラの岩盤が意思を持ったように隆起し、巨大な岩の拳となって、振り下ろされる大太刀を真っ向から迎え撃つ。


 ガガァァァァンッ!!


 大太刀と岩の拳が激突し、凄まじい衝撃波がカルデラを揺るがした。


『――♪ ――♪』


 私は歌い続けながら、次々と大地の魔力で岩の盾や槍を構築し、雷の精霊王の連撃を凌いでいく。


 神話の神々がぶつかり合うような、規格外の怪獣大決戦だ。


 しかし。


(……ぐっ……!)


 激しい攻防の中、私の喉の奥から、生温かい鉄の味が込み上げてきた。


 胸元で触媒となっている黒曜石のネックレスが、焼け焦げるような熱を放ち、私の肌をジリジリと焼いている。


 触媒を持って同調したとはいえ、相手は強大な精霊王。


 その規格外の力を人の身に降ろす代償は、確実に私の肉体を内側から蝕んでいた。


 歌い続けるたびに、命の炎が削られていくような不吉な感覚。


 このまま戦い続ければ、雷の精霊王を倒す前に、私の体が崩壊してしまう。


(いけない……!早く、決着を……!)


 私が焦りを感じた、その時だった。


 私と同調している地の精霊王・イワナガヒメ様の意識が、私の口を借りて、直接雷の精霊王に語りかけた。


『――久しいな、雷の王よ!相変わらず短気な奴だ!』


 私の口から出たとは思えない、豪快で威厳のある声。


 大太刀を振り上げていた雷の精霊王の動きが、ピタリと止まった。


『……その気配。地の精霊王イワナガヒメか!?なぜ人間ごときに力を貸す!人間は争い、裏切る脆弱で愚かな生き物だ!』


『この小さき歌姫と、己の身を挺して盾となった侍女の覚悟が見えぬか!この者たちの魂は、お主が嫌うような脆弱なものではない!』


 古代の精霊王同士の、スケールの大きな口論。


 クラウス先生やセリナは、目の前で繰り広げられる神話級の問答に、ただ息を呑んで立ち尽くしている。


『脆弱な人間に、世界は救えん!!』


 雷の精霊王はイワナガヒメ様の言葉を拒絶し、大太刀を天高く掲げた。


 刀身に、今までで最大の雷撃が収束していく。


 それは、実体による物理攻撃と、極大の雷魔術の複合攻撃。


 私を完全に消し飛ばすための一撃だ。


「愚かでも、弱くても、誰かを護るために強くなれるのが人間ですわ!」


 私は、イワナガヒメ様の大地の魔力を全開にし、迫り来る極大の雷の大太刀に向かって、自ら手を伸ばした。


 ズガァァァンッ!!


 私の両手が、雷を纏った大太刀を白刃取りの要領で受け止める。


 凄まじい雷の奔流が私の体を駆け巡るが、大地の魔力がアースとなってそれをすべて地面へと逃がしていく。


(今よ……!この雷の奔流を利用する!)


『――♪ ――♪』


 私は、大太刀から直接繋がった雷を逆流させるように、魂の底から『星の調律(ほしにねがいを)』を叩き込んだ。


 雷鳴の轟音を切り裂き、雷の精霊王の精神に直接、私の歌声とイワナガヒメ様の想いが流れ込んでいく。


 それは、彼の荒ぶる心を調律し、怒りを鎮めるための、優しく力強いメロディ。


『……っ!?』


 雷の精霊王の巨体が、ビクリと震えた。


 殺伐としていた紫電が、私の歌によって調律され、まるで極上のステージ照明のようにリズミカルで美しい光のショーへと変化していく。


 雷を逆流して届く心地よい旋律と説得に脳内を満たされた雷の精霊王は、やがて大太刀を下ろし、天を仰いだ。


『……フハハハハ!!』


 カルデラに、豪快な笑い声が響き渡った。


『雷を逆流させて魔力を流し込むとは、痛快な娘よ!お前の目利きも確かだな、イワナガヒメ!』


 雷の精霊王は腹を抱えて笑い、満足げに頷いた。そして、手にした大太刀をゆっくりと下ろし、私を見据える。


『神の雷を凌ぎ切り、我の心を揺さぶったその力。見事なり、弱き人の子よ。……さて、これほどの覚悟を持って神域に踏み込んだのだ。話くらいは聞いてやろう。何用でここへ来た?』


 雷の精霊王からの問いかけに、私は居住まいを正して答えた。


「わたくしたちは、星の精霊様からこの星を『侵蝕者』から護ってほしいと頼まれたのです!そのために、かつて大厄災を退けた精霊王様たちのお力をお借りしたくて、ここまで参りましたの!」


『……侵蝕者だと?』


 雷の精霊王の笑い声が止まり、その威光を宿した瞳がスッと細められた。


『――雷の王よ、小さき歌姫の言う通りだ。忌まわしき侵蝕者が、再びこの星を蝕もうとしておる』


 私と同調したイワナガヒメ様が、重々しく口添えをする。


『……なるほど。あの忌々しい化け物どもが、再び現れたというわけか。道理で、長きにわたりこの山を覆う雷雲が、淀み、穢れそうになっていたわけだ』


 雷の精霊王は忌々しげに空を仰ぎ、そして再び私を真っ直ぐに見下ろした。


『我が名はタケミカヅチ。事情は分かった。……ならば、我の力をその身に宿すが良い!』


 タケミカヅチの姿が眩い光の粒子となり、その一部が私の胸元へと飛び込んできた。


『雷の精霊王の加護』。


 新たな力が、私の中に宿るのを感じた。


 さらに残りの光の粒子は、ボロボロになって倒れていたセリナにも降り注ぎ、青白い雷の神気を宿した。


『更なる力を求めるなら、海の向こう……極東へ向かえ。あそこには、我らの旧知が眠っている……』


 タケミカヅチの声が風に溶け、カルデラを覆っていた分厚い雷雲が、嘘のように晴れていった。


「……終わった……」


 タケミカヅチの気配が完全に消えたのを確認し、私は『黒曜のメロディア』の変身を解いた。


 その瞬間。


「っ……ぁ……!」


 これまで魔力で無理やり誤魔化していた、精霊王と同調したことによる肉体への深刻なダメージと魔力枯渇が、一気に押し寄せてきた。


 全身の骨が軋み、視界がぐらりと歪む。激痛で立っていることすらできず、私はその場に崩れ落ちた。


「パスティエール様!!」


 セリナが悲鳴を上げて駆け寄り、私の体を抱きとめてくれる。


「……だいじょうぶよ……セリナ……」


 クラウス先生とカイル、クロウさんもすぐに駆けつけてくれる。


 しかし私の『瞳』に気になる魔力の揺らぎが見えた、カイルだ。


 彼の背後に、あの不気味な瘴気――人の負の感情を喰らう『侵蝕者』の気配がチラついているように視えたのは、果たして私の気のせいだったのだろうか。

■Tips


雷の精霊王の加護について


雷の精霊王タケミカヅチから授けられた加護は、術者の魔力を直接的に『雷』という高エネルギーへと変換する強力な権能である。


しかし、この力の出力は術者自身の「雷の精霊魔術」の練度に依存する。


現時点でのパスティエールは雷の精霊魔術の基礎訓練を積んでいない、かつそもそも体外に魔力を放出できないため、攻撃手段としての放電は不可能であり、身体から意図せずに『静電気』を発するだけの体質となった。精霊達はいつも加護の効果を教えてくれないため、パスティエールはまだその有用性に気が付いていない。


セリナについて、身を挺してパスティエールの盾となった覚悟を認められ、タケミカヅチがセリナの魂と肉体そのものに直接授けた力。


雷の精霊魔術の「完全制御」が可能に。


ノーリスクかつ無詠唱に近い速度で、雷の精霊魔術を極大化・精密操作できるようになる。

とくに雷の神気を自身の肉体に纏わせる『雷神の衣』により、身体強化が限界突破?

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