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第110話 【幕間】帰還、量産、大爆発

 王都での衝撃的なデビューから数週間。


 ようやく懐かしのゼノン領都、アイアン・フォルトに帰還した私は、旅装を解くのもそこそこに、ある場所へと向かった。


 ブロック工房の地下室。私の親友にして、専属発明家が潜む秘密基地だ。


「ただいま、ペトラ!」


「お帰り、パスティエール様! 遅いよ、首を長くして待ってたんだから!」


 作業着姿のペトラが、油まみれの手を拭きながら飛びついてくる。


 私はセリナと共に工房のソファに座り込み、積もる話に花を咲かせた。


「へぇ……。聖教国で司祭をぶっ飛ばして、獣王国で殴り合って、最後は王都でライブか。相変わらず濃い旅だったねぇ」


「もう、大変だったんだから! 私のお祖父様――カエルス公爵も捕まって一安心だけど……」


 私は旅の顛末を語った。


 公爵の失脚により貴族派閥の圧力は消え、サザンやケルドの功績、王都の奇跡もすべて正体不明の精霊の御使い『メロディア』の手柄として処理してもらったこと。


「なるほど。パスティエール様は『たまたま居合わせた運のいい令嬢』ってわけね」


「そう! これで私は平穏無事な一般人よ」


「それは無理があると思うけど……まあいいや。で、その『メロディア』様だけどさ」


 ペトラはニヤリと笑い、工房の机を指差した。そこには、大量の書きかけの設計図があった。


「王都の噂、もうこの領都にも届いてるよ。『空から舞い降りた歌姫』だってさ。みんな見たがってるよ、その姿を」


「うっ……」


「そこでね。今こそ、アレを売るチャンスじゃない?」


 ペトラがポンと叩いたのは、完成したばかりの量産型『魔導式蓄音機』だった。


「これがあれば、姿を見せずに歌声だけを届けられる。噂が熱いうちに売り出せば、バカ売れ間違いなしだよ」


「……それだ!」


 私たちは顔を見合わせた。善は急げだ。


 私は早速、王都の上空で歌った曲でレコードの原盤を作成した。


 完成したレコードと蓄音機のサンプルを、手紙と共に魔導王陛下へ送る。


 数日後、陛下からの返事は早かった。


『面白い。正体を隠すなら、王家御用達の商会を通すといい。余が責任を持って売り捌こう』


 魔導王陛下、ノリノリである。


 こうして『メロディアのレコード』は王都の貴族を中心に発売され……予想を遥かに超える大ヒットとなった。


「あはは! 売れる売れる! 印税生活だー!」


「パスティエール様、調子に乗って新曲も録りましょう!」


「いいねセリナ! じゃあ次は『星降る夜のセレナーデ』いくよー!」


 私は調子に乗って、二曲目、三曲目とレコーディングを重ねていった。


「さて、商売の話はここまで。……パスティエール様、ひとつ見せたいものがあるんだ」


 ひとしきり盛り上がった後、ペトラが奥から一本の楽器を持ってきた。艶やかな曲線を描くギター。素材は、あのケルドで手に入れた『響木』だ。


「『魔導ギター・試作型』。中を見てみて」


 ボディの一部を開けると、内側には血管のように繊細な銀色のラインが埋め込まれていた。


「木材の内側に、伝導率の高い銀で魔力経路を掘ってあるの。これなら、パスティエール様の魔力をロスなく音に変換できるし、増幅も自由自在さ」


「すごい……! これなら、もっと遠くまで音が届くわ!」


 試しに弦を弾くと、アンプも通していないのに空気がビリビリと震えるほどの豊かな音が響いた。


「ただ、あくまで試作品だよ。パスティエール様はまだ成長期だし、魔力の質も変わるかもしれない。学園に行くまでの四年間で、完璧な一本に仕上げるからね」


「うん! ありがとうペトラ!」


 私はギターを抱きしめ、さらに夢を膨らませた。


「ねえペトラ、他にも欲しいものがあるの! ドラムセットでしょ、あと……『マイク』!」


「マイク? 拡声器なら作れるけど……」


「ううん、違うの。声を『電気信号』に変える装置よ!」


 私は前世の理科の知識を総動員して説明した。


 箱の中に炭素粉末を詰め、金属板の振動で電気の通りやすさを変える――いわゆる「カーボンマイク」の原理だ。


「……デンキ? なにそれ?」


「あ、えっと……! 『雷の精霊が持っているビリビリする力』のこと!」


「ああ、それを『デンキ』って言うのね。つまり、音の振動で雷のビリビリの通りやすさを変えるってこと? ……面白そうじゃない、やってみよう!」


 私たちはすぐに作業台に向かった。あっという間に『カーボンマイク・試作一号』が組み上がる。


「よし、構造はできた。あとは……こいつに『デンキ』とやらをどうやってぶつけるか」


「発電機なんてないもんねぇ……」


 そこで私は、横でニコニコしているセリナを見た。


「……あるじゃん。ここに、優秀な『人間発電機』が」


「……はい?」


 セリナはアルフレッド先生から教わって、微弱ながらも『雷の精霊魔術』を使えるようになっているのだ。


「実験だよセリナ! 貴女の雷で、このマイクに電気を流して! 優し〜くね!」


「わ、分かりましたわ……お嬢様の発明のためなら!」


 ペトラが作ったマイクの端子を、セリナが握る。


「いくよセリナ! スイッチオン!」


「は、はいっ」


 バチバチッ!精霊言語の詠唱とともに、セリナの手から青白い雷光が流れ込む。


「おおっ! パスティ、喋ってみて!」


「あー、あー! テステス! 本日は晴天なり!」


『ザザッ……ザザザッ……』


 スピーカー代わりの振動板から、ノイズ混じりだが確かに私の声が増幅されて聞こえた!


「成功だよ! セリナ、もう少し魔力上げてみて! もっとクリアになるかも!」


「はいっ! お任せください!……はぁぁぁぁっ!!」


バチバチバチバチッ!!


 セリナの気合とともに、炭素粉末が赤熱し始める。


「ちょっ、セリナ!? 流しすぎだって!」


「あ、あれ? 炭が燃えてる!? これ、爆発するんじゃ……」


「えっ」


「「「あ」」」


カッッッ!!!!


ドチュドォォォォォン!!!!


「……げほっ、ごほっ」


 黒煙が晴れた後。そこには、見事なチリチリ頭になり、顔中煤だらけになった三人がへたり込んでいた。


「……うぅ、耳がキーンってする……」


「……申し訳ありません、お嬢様……張り切りすぎてしまいました……」


「……ははっ。みんな顔が真っ黒け」


ペトラが真っ黒な顔でニカッと笑った。私たちも顔を見合わせ、笑いあった。


こうして、私の領地での平穏な日々は、煤だらけの笑顔と共に再開したのだった。

ペトラ ステータスシート(二章終了時点)


■基本情報

名前:ペトラ

性別:女

年齢:12歳

所属:ゼノン領・技術顧問(ゼノン辺境伯より正式拝命)

誕生日:不明

種族:ハーフドワーフ

髪色:茶色

髪型:邪魔にならないよう短く切り揃えるか、無造作に纏めている。

肌色:健康的だが、工房にこもって実験と爆発を繰り返しているため、常に煤や油汚れ、あるいは焦げ跡がついている。


性格:

 ぶっきらぼうな職人気質は相変わらずだが、パスティエールやセリナとは「爆発を共にする戦友」としての絆を深めている。前世の知識を持ち込むパスティエールに対し、「理論は分からないが、結果は面白い」と面白がる柔軟さと、それを技術に落とし込む執念を持つ。


人となり:

 ゼノン辺境伯に「技術顧問」として正式雇用され、アイアン・フォルトの工房に住み着いている。最近はレコードの印税による「成金生活」を夢見て、量産化やコスト削減と いった経営的な視点も持ち始めている。


■基礎魔術の熟練度魔術師としての出力は相変わらず低いが、精密な魔力制御(刻印技術)は達人級。


・身体強化:【低】

 戦闘用ではないが、徹夜でのレコーディングや実験に耐える「不眠不休」のタフさを備える。


・魔力付与:【中】

 自身で強力な付与はできないが、ミスリル銀を用いた**「精密魔力回路」**の埋め込み技術を確立。物質の伝導率を極限まで引き出す。


・魔力障壁:【不可】

 使えない。爆発の際はセリナが守ってくれるのを前提にしている節がある。


・魔力関知:【極めて高い(対精密機器)】

 回路の断線や、炭素粉末の過熱状態など、機器内部の微細な変化を察知する能力が向上。


・魔力弾:【不可】

 使えない。


■習得技能:【魔導工学(発明)】


 既存の魔術理論と物理的な機構を組み合わせる発想力。


 パスティエールの「前世の知識(科学知識)」を、この世界の「魔術理論」で翻訳・実現できる唯一の通訳者。


二章時点の代表作:


『量産型魔導式蓄音機』:王都で大バズり中のメロディアの歌声を届ける装置。魔導王御用達の商会を通じて流通。


『魔導ギター・試作型』:聖都ケルドの『響木』とミスリル回路を組み合わせた逸品。パスティエールの魔力をロスなく音に変え、増幅する。


『カーボンマイク(炭素粉末マイク)・試作一号(爆散)』:声の振動を電気(雷精霊の力)信号に変える装置。実験中にセリナの過剰な通電により粉塵爆発を起こし消失したが、理論の正しさは証明された。


■加護

 なし

 加護はないが、パスティエールの「前世の知識」とこの世界の「魔法」を繋ぐ、実質的な「文明開化の女神」。



セリナ ステータスシート(二章終了時点)


■基本情報

名前:セリナ

性別:女

年齢:17歳

所属:ゼノン領専属侍女/歌姫メロディア・専属マネージャー(兼衣装・メイク担当)

誕生日:大陸暦669年、若葉の月

種族:人間

髪色:栗色髪型:シヨン(お団子ヘア)。

肌色:健康的な肌色


性格:

 パスティエールへの忠誠心は、もはや「絶対的守護者」としての自負に昇華している。有能な侍女として振る舞うが、肝心なところで気合が空回りして爆発を招くドジっ子属性は、今や彼女の「様式美」。メロディアのプロデュースに関しては並々ならぬ情熱を注いでおり、お嬢様を「世界一輝く存在」にすることに命を懸けている。


人となり:

 旅を通じて「強さ」の本質を学び、アルフレッド先生の指導で念願の雷属性を習得。メロディアの正体隠蔽を支えるマネージャー役に就任し、クラウスと共に「チーム・メロディア」の裏方を支える。ペトラの実験では「人間発電機」としての才能を開花させ、新たな科学の犠牲……もとい、先駆者となった。


■基礎魔術の熟練度

・身体強化:【高】

 迷いのない踏み込みはカイルすら翻弄する。ただし、足元の石ころに躓く確率は変わっていない。


・魔力付与:【高】

 精密な付与が可能に。家事と戦闘の両面で活用。


・魔力障壁:【中~高】

 ペトラの工房での爆発から身を守るために鍛えられ、展開速度がさらに向上。


・魔力関知:【高】

 メロディアの「ファン(不審者)」を遠くからでも察知する独自のセンサーが発達。


・魔力弾:【高】

 もはや彼女にとっての基本武装。弾道制御の正確さは増しているが、やはり焦ると自爆する。


■習得魔術

・精霊魔術

 水属性:『水の矢(ウォーターアロー』、『水滴(ウォータードロップ』、『水霧(ミスト)


 風属性:『風の刃(ウィンドカッター』、『風の息吹(ウィンドブレス


 雷属性:『弱雷(ショック

 アルフレッド先生直伝。電流を長時間維持できるようになったが、油断すると出力調整が極端になり暴走する。


■戦闘スタイル

【魔術剣士(ドジっ子侍女スタイル)】

 雷の精霊魔術と身体強化、暗器を組み合わせた近接戦闘。


■加護

 なし

 特別な加護はないが、パスティエールの「人間発電機」という無茶振りに応え続けることで、彼女の魔力回路は常人の数倍の負荷に耐えられるよう変質しつつある。

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