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道程の確認2

※これまでの事件解説振り返りにあった方が良さそうですので、本日はこちらを載せています。




A県夜洛市 輪命回病院



     西棟側            東棟側


7階          屋上


6階 産婦人科・乳腺外科         小児科


5階 呼吸器循環器内科・外科      心臓外科


4階 消化器内科・外科       脳外科・神経内科 


3階 リハビリテーションルーム     整形外科 


2階 手術室 ICU HCU 透析室 


1階   外来患者受け付け   インフォメーション

   コンビニエンスストア      救急センター







正火斗は話し始めた。


『幼い頃から両親の不仲を見て育ち、そして母親は家族を捨てて出ていってしまったーー

中学生になってからは、その母親の住まいを探しだして会いに行くが、今度はそこから引っ越されてしまう。

これが緑川まどかの生い立ちだ。

おそらくは、それらが彼女の人格形成に影響したんだろう。

高校生くらいになると、父親の店に出入りしていた関光(かんこう)組の下っぱと付き合うようになり、そして、もう卵子提供をして大金を稼ぐようになっていたんだと、僕は思います。』


『卵子提供?』


刑事達から声が上がった。

そこで、正火斗と北橋は顔を見合わせた。

北橋が輪命回(りんめいかい)病院の産婦人科の不妊治療について簡単に説明し出す。

椎名は少し喜んでいるようだ。これで、産婦人科の当時の不正が暴かれるかもしれない。




『2011年に夜洛(やらく)市で起こった今井薫子、その父親と母親、

そして緑川まどかの4人が乗った車の事故。

僕なら、なんらかの運転手への危害やハンドル操作を行って、事故は緑川まどかが起こしたのだとしか、、、思えません。

彼女は憎んでいたのだと思います。自分と父親を捨てて形成された、幸せな家族を。』


正火斗はそこで一息ついた。

皆に出されていたカルピスを口にする。氷がぶつかり合う音が小さく響いた。


『偶然だが、同じ看護の道を辿(たど)り、だが自分の出た短大より上の四年制大学を卒業している義姉の学歴も、、彼女には気に食わなかったのではないでしょうか。そういう学歴は就職採用で差が出ます。実際のところ、今井薫子さんの方は事故当時 総合病院である輪命回病院に勤務。だが、緑川まどかは個人病院を転々としている。』


視線を落として、彼は自分の テーブルに置く手を見た。


『調べれば,きっとどこかに記録があると思います。十中八九緑川まどかは、輪命回病院の求人募集に応募している

。彼女は輪命回病院に入りたかったはずだ。できることなら産婦人科に。そうしたら、また高額で卵子提供ができると知っていたからです。』


『じゃあ、事故を起こして、まさか、、、』


刑事の1人がそう聞いた。正火斗はそれに、うなずいた。


『事故を起こした瞬間には、どこまで考えていたのかは分からない。どうなってもいいから、自分を捨てた母親の家族を壊したかったのか、何か計画があったのか。

何にせよ、緑川まどかは生き残った。仮に事故直後の車中で意識があったのが彼女だけとして、今井薫子と持ち物を交換して、顔周辺に傷や火傷でも負っておく。そうすれば、治療の際には自動的に今井薫子の顔が整形されたでしょう。2人は元々似ていたようですし。』


もう1人の警官も


『爆破事件を起こして、彼らは産婦人科での不正の不妊治療斡旋(あっせん)の記録や、整形手術の記録も消したかったわけか。それで、東棟へ真淵実咲を向かわせたんだな。だが、何故始めから3階の整形外科ではなく、4階を指示したのかな?』


正火斗に質問する。


『それは』


答える前に、正火斗はチラリと風晴を見た。風晴と風子には、もう話して良いか許可は取ってあった。


『5階の東棟心臓外科に桜田臣五郎(じんごろう)さんが入院していたからです。臣五郎さんや、もし見舞いに来ていた風子さん、風晴くんも爆発に巻き込めれば、彼らにとっては最高のプロジェクトだったはずです。』


『それはどうして?桜田さんのご家族と怨恨(えんこん)でもあるのか?緑川まどかは』


不思議そうな顔で、刑事は また聞いた。


『桜田風晴の遺伝上の母親が緑川まどか だからです。その上、戸籍の記載もそうなっている。そして、風晴は今、黒竜池から上がって死亡が6年ぶりに確定した桜田晴臣の保険金の受取人だからです。』


警察達は思わず声を上げた。


『はぁ!?』


1人が、信じられないというように風子を見た。

風子は、


『事実です。不妊治療で勧められた卵子が、緑川まどかさんのものでした。』


と、認めた。そこに風晴は


『遺伝子的にってだけです。母親じゃない。』


とキッパリと言った。

ミステリー同好会メンバー達は皆うなずいた。


『しかし、なんとも、、、、』


警官の1人はそこまでで言葉を(にご)した。

正火斗は話を続けた。むしろ強引に。


『今井薫子の人生を乗っ取って生きていた緑川まどかは、8年前から桜田晴臣の秘書の地位を得ていた。そこにいるうちに、自分の遺伝子上の息子が数億円の生命保険の受取人なのだと知った。彼女は当然、桜田風晴の後見人の地位か、保険金そのものを狙おうとした。だが、大きな問題がある。』


『自分が緑川まどかではなく、今井薫子であること。』


これは警察達ではなく、安西が長テーブルのはじから言った。正火斗はそちらに うなずいた。


『緑川まどかだと名乗れは、何故(なぜ)今井薫子と偽っていたかを説明しなくてはならない。それでは、事故についても問われるかもしれない。そういうリスクを背負うよりも、彼女は" 今井薫子 " を消すことを計画したんだろう。

そうしておけば、後でタイミングを見計らって " 緑川まどかです " と、出ていくことができる。鑑定すればDNAが自分の立場を立証してくれる。とにかく、"今井薫子"の地位が、彼女は突然に邪魔になったんだ。』


刑事の1人が


『それは無理がないか?今井薫子の姿では出てこれないだろうし、桜田風子さんという母親がいるんだし。』


と言った。

しかし、正火斗は首を振った。


『整形して姿を変えているかもしれません。それに、桜田風子さんや風晴が、、、()()()()()()()()出てこようとしている可能性もある。』


『そこまでやるのか!?整形に殺人だって!?』


刑事は冗談のように言って笑った。

が、風晴は教えた。


『3億2千万なので』と。


もう話していい気がしていた。みんなにも,北橋や安藤にも。聞いた警察達は、同僚と顔を見合わせていた。


そこで、水樹が兄に聞いた。


『今井薫子さんを自殺に見せかけたトリックは、あのお地蔵さん、、、?』


正火斗は妹に答えた。


『そうだ。わざと噂好きの西岡満子と一緒に黒竜池まで行った。そして、目の前で飛び込んで見せた。西岡満子に、自殺の証人になってもらうために。

満子さんは、薫子さんが沢山着込んでいたと言っていました。冬の池に飛び込むんです。僕は、ウェットスーツを着ていたのではないかと思っています。今井薫子がダイビングをしていなかったか調べてみてほしいです。』


警察官達はうなずいた。


『写真でしか見たことはありませんが、緑川まどかは背が低くて小柄だった。黒竜池の伝説を満子さんから聞きながら何故子供が助かるのかを推察し、例えば命綱などをつけた上で試してみて、、、自分の背丈なら黒竜池の水流にとらわれずに助かると分かれば、それを実施した可能性があります。何故なら、、、』


『黒竜池のお地蔵さんが動かされているから。』


続きは風晴が正火斗に言った。正火斗は少し微笑む。


『そう。あの地蔵を池縁ギリギリに置いて、浮上した時あの陰で息継ぎをしていた。他のところではどうしても発見されてしまう。だが、地蔵は西岡満子さんの足元で、しかも満子さんは、池中央に流れていくコートの方に注目していたから気づかなかったんだ。彼女の視線は遠くしか見ていなかった。

そして、後は慌てて救助を呼びに行った。暗くなってきていて、彼女はそこに とどまれなかっただろう。その間に、今井薫子ーー緑川まどかは、池から上がっているはずだ。』


最後に正火斗は繰り返した。


『緑川まどかは生きています。今も。どこかで。』







次回から恋愛トーク入りますっ。

わちゃわちゃしたいですね。きゅん はどうかな、、。

『炎と水と』のくせに、ですが。

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