タイムレース開幕
※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。
A県夜洛市 輪命回病院
西棟側 東棟側
7階 屋上
6階 産婦人科・乳腺外科 小児科
5階 呼吸器循環器内科・外科 心臓外科
4階 消化器内科・外科 脳外科・神経内科
3階 リハビリテーションルーム 整形外科
2階 手術室 ICU HCU 透析室
1階 外来患者受け付け インフォメーション
コンビニエンスストア 救急センター
輪命回病院5階西棟、呼吸器循環器内科・外科病棟に、真淵聖の姿はあった。
突き当たりから2番目の個室が母の病室だ。もう、何度も訪れているから、間違えることはない。彼は息を切らして到着し、その扉を開けた。
『、、、、っ、、!』
声にならない声で聖は呼んだが、そこに 母の姿はない。
ベッドの上には代わりに、大きな紙袋があった。
近づいて、聖はそれを覗きこむ。
ゆっくりと。
そこには、何かを包んでいたような風呂敷があるだけだった。
中身は 無い。
輪命回病院の6階に上がった安西は、産婦人科・乳腺外科病棟の中を 肩身を狭くして さまよい歩いた。
男子高校生には厳しいエリアである。
正直なところ、ここが1番怪しいと打ち明けて、水樹に回ってもらったら良かったのかもしれない。
いやいや、駄目だ。
危険箇所になんて近づけられない。
大切な人なんだ。
誰よりも。
水樹を思い浮かべてその姿にボウッとした。慌てて頭を左右に振る。
(こんな時に何を考えてるんだ!僕は)
気を取り直すために、スマートフォンを見直した。椎名の送ってくれた館内地図を見直す。
入院中の患者の部屋とは考えにくい。分娩室と新生児室もだ。異物が置かれていたらすぐ気付かれてしまうはずだ。あるとしたら、みんなで使うティールーム、洗濯・ランドリー室、化粧室、母親学級用の教室。、、、シャワールームは多分、ない。松下達男を名乗る犯人は男だろうから。
安西は、ひと通りを見て回った。耳も澄ませた。人目を気にしながらも、ゴミ箱も確認したが、それらしいものは見当たらなかった。
(正火斗は時間が無いと言っていた。)
仕方なく、彼は産婦人科を立ち去って小児科に行こうとした。
中央エスカレーターホールの所まで行った時、小児科の方からこちらに走ってくる人物が見えた。
『風晴!』
安西は名前を呼んだ。
風晴も、もう安西を見つけている。屋上の探索が済んで、6階に来ていたのだ。
『秀一!なんで もう6階?下から来るんじゃないのか?』
思わず名前で呼んでいたが、互いに今は呼び方なんでどうでも良くなっていた。それどころじゃない。
『正直、どう考えても産婦人科は外せないと思ってここに上がって来たんだ。爆破の理由が過去の痕跡を消すことなら、産婦人科の記録しかないと思う。でも、見つからなかった。』
『どこ探したんだ?』
風晴に聞かれ、安西は行った場所を話した。
『オレ、産婦人科は来たことないけど、この病院は子供の頃からよく来てる。多分、椎名からの館内地図は抜けてる箇所がある。』
『どこ!?』
安西は驚いて聞き返した。
『保管・補充室と宿直室。各フロアにあるはずなんだ。オレは、1階と2階と3階と5階で見たことある。来客には不要の記載だからって、おそらくネットに出てないんだ。』
安西はすぐさま
『行こう!』
と風晴に叫んだ。風晴も
『多分こっちだ!』
と、他のフロアの作りを思い出して 走り出す。
A県警察本部5階会議室では、正火斗、椎名、安藤、神宮寺が、なんとか入ることと発言は許されることになった。
だが、ここからが問題だった。
ここの最高権力者である、警察本部長江元政信は、正火斗が危惧していた通り、簡単には動かなかった。
彼は話しを聞いたあと、言った。
『君達のいい分は、まあ、分かった。そう悪くもない考察だよ。高校生の推理としてはね。だが、』
江元は安藤を見た。彼女が高校生達の今、責任者だからだろう。
『我々は想像だけでは動かんのだよ。メールの通り橋の下から紙袋に入った爆弾が見つかった以上、2つ目もあると想定して花火大会会場の整備に全力を注ぐ。』
安藤は
『半分か、3分の1、、、4分の1でも、輪命回病院には回せないんですか?爆弾が2つ爆破してからでないと、全く動かないって言うの?なんのための " 市民を守る警察官 " なんですか?』
と、うったえた。
江元は鋭い眼差しで安藤を見据えて言い放った。
『付近を巡回中の警官に安全確認に行くようには伝えましょう。あなた方は、本来なら公務執行妨害と詐欺罪、不法侵入、暴行容疑で逮捕もできるところだ。身の程をわきまえなさい。』
その厳しさに、会議室は静まり返った。絶望の静寂。
だが、次の瞬間、大道正火斗はそれを破った。
『もう時間はない。あなた方と話す時間も、だ。ここで問答していても、輪命回病院でいる者が負傷し、死亡する確率が上がるだけだ。だから、もう始めます。ここで!』
そうして、正火斗は声を張り上げた。
『神宮寺、桂木からの病院内人数について読み上げろ!』
『は、はい!』
神宮寺は、慌ててスマートフォンをポケットから取り出す。
『椎名、データを出してくれ。エレベーターの台数と乗れる人数を!業務用もだ!』
『はい!』
椎名はすぐ手を動かしだした。
神宮寺はLINEに来ていた人員数の読み上げを始める
『6階産婦人科・乳腺外科、病床数70、入院人数約59人、新生児人数11人、職員数8名、見舞い人約42人。同じく6階小児科病床数42、入院人数34人、職員数、、、』
これを聞きながら、正火斗は自分のスマートフォンを安藤に渡した。
『ロック解除してあります。爆弾の写真が送られて来たら
すぐ開いて教えて下さい。』
あたりの警察達がざわめく。正火斗は神宮寺の声だけに集中しながら、椎名の出したエレベーターデータの出ているタブレットを見て、視覚でそれをとらえた。
江元の視線を感じて、正火斗は顔を上げる。
見返して、彼は、座っている最高権力者に上から告げた。
『病院で爆弾が見つかったらすぐに出動できるように、処理班と救急・消防車両を待機させて下さい!あなたが今すべきなのはそれだ。』
江元の顔が怒りに歪むのを正火斗は見たが、瞳をそらすことはなかった。
誓った
必ず 全員を 助ける と