もう一つのパンドラ
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員。6年前から行方不明。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆西岡幸子・・・桜田家の隣人。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
午後、桜田風晴の元にLINEが届いた。
聖からだ……!
風晴は食い入るように見た。
"お父さんとこれから行きます
聞きたいこと、あるそうです
お母さんのことごめんなさい"
とあった。
ごめんなさいと言うのは、聖のお母さんがした怪文書を届けたこと──と言う意味だろう。
書いた聖を思って……胸が苦しくなる。
風晴はすぐ返信した。
"聖が謝る必要ない
オレ達は何も変わらない"
それから風晴は机の引き出しから3通の茶封筒と1通の白い封筒を出して持ち、一階に降りた。台所に行き、大河さんと洗い物をしている母を呼ぶ。
「ちょっと来て」
と声をかけた時には風子は面倒そうにしたが、息子の真剣な顔に何かを見たのだろう。真顔になってすぐに廊下に来た。
「真淵聖のお母さんが昨日 自殺未遂して、輪命回病院に運ばれたって」
風子の何もかもが一瞬停止した。
「理由は、この手紙をオレに送り付けていたことと関係があるみたいなんだ」
風晴は、今まで来ていた怪文書と手紙を母に見せた。
風子は言葉を失っているようだった。
「もうすぐ、ここに真淵巡査部長と聖が来るって。母さん、何か知っているのなら────話してほしい。頼むから」
風晴はそう言って母親を見つめた。
母も顔を上げ 息子の瞳を見返した──真っ直ぐ。そして 大きくうなずいた。
「できれば……ミステリー同好会メンバーも一緒でもいいかな? 母さんが嫌なら仕方ないけれど」
風晴の問いに、風子はうつむき加減になりながらも しっかりと答えた。
「いいわよ。…………楽しい話では とても無いけれど」
そう言った時インターフォンが鳴り、そのまま風子は廊下を玄関に向かう。
風晴は その母の背中を ただ静かに見送った。
その日の午後────
民宿の広間には桜田風子、風晴、真淵耕平、聖、ミステリー同好会メンバーが集まった。
風子、風晴、真淵、聖は、長い食卓テーブルの一画に4人まとまって座った。
ミステリー同好会メンバーは、4人から離れた所のソファや丸テーブルに居させてもらう形になった。
大河弓子が人数分の飲み物を出してくれて、配膳すると広間から出て行った。
始め真淵巡査部長が、風晴に"黒竜池で白骨体が上がった日、来ていた怪文書は夕方4時以降だったか"と聞いた。風晴は分からないとしか答えられなかった。
すると安西が
「すみません。西岡幸子さんから目撃のお話しを伺った時に、幸子さんも時間は分からないけれども、でも"夕方頃"だったと言っていました。最近は陽が長いですから、僕なら夕方は4時以降でいい気はします」
と真淵に申し出た。
真淵は少しホッとしたように
「ありがとう。教えてくれて」
と安西に礼を言った。
ここで桜田風子は、まず真淵耕平を見つめた。
そして彼を見たまま 話し出した。
「真淵さん、私は2日前の昼に実咲さんから電話をもらっていました」
そこにいた全員にとって驚きの発言だった。
風晴は思い当たった。トマトサラダを作っている時に、大河さんが風子に電話が来て出て行ったと確かに教えてくれていた。
「実咲さんは、私に謝ってくれました。"風晴にしたことを許してほしい" と。でも私は怪文書のことを知らなかったので、そこは訳がわからないでいました」
風子は続けた。
「実咲さんは言いました。"仕方なかったんだ" と。"やらなければ、お前の息子の方に知らせると言われた" と」
真淵は拳を握った。聖は、珍しく風子の顔をちゃんと見て聞いている。
「でも彼女は"償う" と言った。償うから私に……私に、実咲さんの"秘密を決して明かさないで" と頼まれたんです」
風子もまた、手を握り締めた。
「あの後は、私が何度か かけても もう繋がりませんでした。私は…………」
言葉を切り、一度息をする。
「私は命を懸けた実咲さんとの約束を守ります。だから、私は息子に…………風晴に私が持つ秘密を話します」
風晴は 隣りに座る母を見やった。
「もう1人呼んでいます。この後来る予定ですから、その方からも秘密を聞いて下さい。そしてあとは……ご自分達で考えてほしいんです。──ごめんなさい。私ができるのは、そこまでです」
頭を真淵に風子は下げたが、真淵は即答していた。
「充分です。ありがとうございます。こちらこそ申し訳ないです。……本当に」
とにかく言葉を並べている真淵に小さく うなずくと、風子は隣に座る息子に 視線を移した。




