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それぞれの進む決意


※現在登場人物紹介は取り払い、こちらを特別表示中です。




A県夜洛市 輪命回病院



     西棟側            東棟側


7階          屋上


6階 産婦人科・乳腺外科         小児科


5階 呼吸器循環器内科・外科      心臓外科


4階 消化器内科・外科       脳外科・神経内科 


3階 リハビリテーションルーム     整形外科 


2階 手術室 ICU HCU 透析室 


1階   外来患者受け付け   インフォメーション

   コンビニエンスストア      救急センター





まだ陽邪馬(ひやま)市内を疾走する黄色のランドクルーザーは、正火斗の指示でA県警察本部に向かっていた。

彼は、警察に行くことは何にもならないかもしれないと言った。だが、ここからでは、今から夜洛(やらく)市の輪命回(りんめいかい)病院に向かうことも同程度の成果しか期待できない、と。


事態の厳しさに改めて全員が険しい顔になった。


それでも、正火斗は車中で指示を出した。やれることをやる。勝率を上げる。少しでも。


『椎名、輪命回病院についてのデータを出してくれ。人員、病床数、間取り、館内地図なんでもいい。』


椎名がうなずいた。早速タブレットの電源を入れる。


『北橋さん、警察本部に連絡を入れてみて下さい。流良(ながら)川花火大会の爆弾脅迫について、話があると。いきなり行っても門前払(もんぜんばら)いかもしれない。』


『了解。』


北橋もすぐ動いてくれた。


『神宮寺は桂木に電話を。まずは、まだ未確認だから落ち着いて行動するように、と。それからあいつには、各フロアの人数を数えろと伝えてくれ。できれば、職員、見舞い人、入院患者で分けるように、だ。』


『はい。』


神宮寺もスマートフォンを取り出した。

その姿にうなずいて、正火斗自身は安西秀一に電話をかけた。







輪命回病院一階で、安西、桂木、水樹はいた。

水樹と顔を合わせていた最中だったが、安西は正火斗からの電話に出た。

耳元に近づけた瞬間、衝撃の言葉が入ってきた。


『秀一、輪命回病院の中に今爆弾がある可能性がある。しかも、2つかもしれない。』


『えっ?』


何の冗談かと一瞬思った。その間にも幼馴染みは続けた。


『まだ可能性だ。だが、、、僕は高い可能性だと考えてる。こっちは今警察本部に向かっているが、多分話だけでは警察は動かない。だから、現物を探してほしい。』


安西の背中を冷たいものが駆け上がる。横で、桂木のスマートフォンも激しく振動しだした。嘘じゃないんだ、と、直感した。


『椎名が館内見取り図をそっちに送る。僕もあたりをつけるが、お前も考えてみてくれ。時間が、どれくらい残されているのか分からない。』


『分かった。』


頭がようやく動き出す。


『見つけたら写真を撮って送るよ、部長。』


『頼む。それから、松下達男という名前をつけている男には気をつけろ。おそらくは犯人だが、近づかない方がいい。今は捕まえるどころじゃない。それから、、、水樹と風晴は近くにいるか?』


『水樹はすぐ隣りに。風晴はいない。階上のお爺さんのところだ。』


『水樹を出してくれ。』


言われて、安西は水樹にスマートフォンを差し出した。

受け取った水樹も、すぐに顔色を変えた。視界の端で、桂木も神妙な顔でスマートフォンにうなずいているのが分かった。似た内容の話がきているのだろう。


水樹は、兄から簡潔で容赦無い説明を受けた。それでも、彼女はただ静かに言うことができた。


『分かった、兄さん。』


兄は言った。


『必ず守る。お前も。みんなも。』


その真剣さに、妹は思わず笑った。


『分かってる。でもあんまり兄さんばかり背負わないで。』


そうして、安西にスマートフォンを返した。

安西が受け取る。


『後は何かある?』


尋ねると、正火斗は言った。


『風晴の番号を知っているなら、教えてほしい。』








桜田風晴は 5階の東棟 心臓外科入院病棟から、同じフロアの西棟 呼吸器循環器内科・外科に移動するところだった。

真淵聖の母親の容態が気になって、見舞うつもりだった。

東棟と西棟のちょうど間に4台のエレベーター乗り場がある。風晴が、そこを通りかかった時、聖が上がって来た

エレベーターから降りてきた。


2人は、顔を合わせてビックリした。それでも、聖は風晴をちゃんと見た。


『聖、来てたんだな。お母さん、具合どう?』


風晴が聞くと、聖は彼を見つめたまま、首を左右に振った。それから、口を少し動かしはするのだが、声は出ない。

風晴は、無理もないと思った。何も変わらず、普通でなどいられるわけがない。それでも、、、


風晴が聖の腕を取ろうとした時、スマートフォンが振動した。ポケットから取り出すと知らない番号だ。風晴は、


『聖、ちょっとだけ待ってて。』


と告げてから電話を通話にした。


『風晴?正火斗だ。』


『何があった?』


風晴はすぐ聞いた。正火斗とは番号交換はしていない。彼が他から聞いてまで自分に()連絡をよこした事は明らかに不自然だった。


『悪い知らせですまない。今、輪命回病院に2つ爆弾がある可能性が出てきた。』


『は?』


あまりのとんでもなさに、風晴の口からはそう声が出た。

聖が、風晴の表情から何かを感じたのだろう。近づいてきたので、風晴はスマートフォンを指差してから、聖の腕を引いた。耳を寄せて、2人は正火斗の話を聞く。


『安西と水樹には爆弾を探すように話した。桂木には館内状態を伝えてもらう。僕らは警察本部に向かうが、警察は動かせないかもしれない。だが、今からそっちに向かっても無意味だ。』


風晴も事態の深刻さがわかってきた。


『何ができる?』


『今、憶測で騒いでも誰も避難もしてくれない。風晴もまずは爆弾を探してくれ。安西達は下から来るから、上の屋上階からだ。見つけたら、写真を撮って送ってほしい。だが、見つけたからと言って騒がないでほしいんだ。パニックになって避難する人同士が争った場合も、負傷者も死者も出る可能性がある。』


頭の中に容易にその状態は想像できた。ここは病院なんだ、身体の悪い人達が沢山いる。


『分かった。』


風晴と、、、聖もうなずいている。


『風晴、僕は、、、』


正火斗の言葉には少し時間がかかった。風晴は耳を澄ませた。


『最善を尽くす。全員が助かる方法を、最後まで必ず探す。入院してるお爺さんも、君も、安西達も、水樹も、だ。だが、、、』


風晴には、彼の息づかいが聞こえた。


『100パーセントと言えない。だから、もう駄目だと思ったら、お爺さんや風子さんとだけでも君は、、』


『信じるよ。正火斗が1()0()0()()()()()()()()()()()()って。』


風晴は言い切った。すぐそばで、聖もうなずいているのが見えた。


『それでいいだろ? 聖も信じるって。』


そう言われて聖は驚いてこちらを見たが、風晴が片目を潰ってみせると、笑った。それは、しばらく見ていない笑顔だった。


『聖もそこにいるのか?』


右耳に、正火斗の声がした。


『ちょうど会ったところだった。』


『彼と話させてほしい。』


風晴は迷った。


『正火斗、聖は今、声が出ない。』


『分かった。伝えるだけでいいよ。』


風晴は聖にスマートフォンを渡した。聖は少しの間、話を聞いていた。

そして、風晴に戻って来た時、通話は切れていた。

風晴はその画面を見つめていたが、顔を上げてエレベーターを見た。


(上へ、、、!)


聖の方は西棟に向かおうとしていた。母親の病室に行くのだろう。風晴は、その後ろ姿に叫んだ。


『聖、、、!』


聖が、顔だけ振り返った。


『オレはお前も信じてる。お前はちゃんと伝えられる!』


聖は風晴を見た。風晴はそれを分かっている。


『言ってやれ!お前にしか、伝えられない言葉を!!!』


それを受けて、聖は病棟の方に駆け出した。


風晴は見送った。


母親の元へ向かう、友を。






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