見失った家路2
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
桜田風晴が白い定型封筒の手紙を受け取った頃、同じ種類の封筒がもう1通──灰畑駐在所にも届いていた。
宛名は 真淵耕平 様 だった。
輪命回病院で 真淵実咲は一命を取り留めた。意識は戻ってはいないが昏睡のレベルが危険なものではなく、戻る見込みも高いと判断されて今朝一般病棟に移された。
昨日は実咲の両親が来てくれて、和弥を預かって行ってくれた。
聖は昨日一日中母親のベッドから離れなかった。誰も離すことができなかった。今日一般病棟に移るとなって、やっと家に一度戻ることを了承してくれた。おそらくほとんど寝ていなかった息子は、自宅に連れてきて崩れるように布団に横になった。今も寝息をたてている。
真淵は今日は私服のままだった。
実咲に何か異変があればすぐに向かいたい。署には勿論連絡を入れてあって、駐在に届く電話は皆 転送にしてもらった。
迷惑をかけているのは分かっているが──どうしようもなかった。ここで一番大切なものを優先できなければ、仕事を辞めていいつもりだった。
最も、続けられないのかもしれないが。
閉め切り、誰も来ない事務所の方でその封筒を開けた。差出人の名前は無かったが、彼女の字だとすぐ分かっていた。19年────ほとんど毎日 一緒にいた人なんだ。
真淵は中にあった手紙を取り出した。B5程のサイズで3枚に渡っていた。折りたたまれていた それを広げる。
" 真淵耕平 様
許して下さい とは あなたに とても言えません。
私はあなたと子供達に 許されないことをしてい
ました。
分かってほしいのは、分かってもらえるのならば、
私は隠すことでこの幸せを守りたい と本気で
思ってきた ということです。
思い返せば、私はせめてあなたには相談すべきだっ
たのでしょう。あの残酷な選択をしてしまった時に。
今となっては全てが取り返しがつきません。やり直
すことはできない。決して、できないのです。
それでも 信じて下さい。
私はあなたといて本当に幸せでした。あなたと
聖と和弥がいて、それが本当に幸せだと感じられ
る日々を私達は確かにそこに築けていた。"
真淵は泣いていた。必死に顔を拭い、続きに進む。
次の一文に目が留まった。
" でも電話が鳴ったのです。あの日。駐在所に3回目
の電話が。それで私の秘密は暴かれてしまった。
あなたにとっても聖にとっても、今の私はいなく
なった方がいい。そう思いました。私はずっと 聖
に罪を感じて生きてきた。あの子にこの罪を償わな
くてはなりません。せめて あの子がこれ以上傷つ
かないように最後に守りたいのです。だからどうか
私の決断を悲しまないで下さい。
和弥には本当に申し訳なく思っています。これから
の毎日に、母親がいない生活をさせて申し訳ありま
せん。カレーライスをおばあちゃんに作ってもらっ
て下さいね。"
そこで彼女の字も乱れ、滲んでいた。
真淵は前が見えなくなるほど泣きはらしていたが、最後の3枚目にたどり着いた。
" あなたの仕事に、私が影響してしまったら申し訳
ありません。
あなただけにしてしまってごめんなさい。
けれども最後に、これだけは言えます。
聖も和弥も、間違いなくあなたの息子です。
あの子達を育てて愛してあげて下さい。
どうか 私の分まで。
真淵 実咲 "
駐在所の静寂の中には、しばらく嗚咽だけが響いていた。
いつの間にか────窓をポツポツと叩く雨音がしだし、数分でザアッと言う雨音に変わる。駐在所の屋根を叩く。
真淵耕平の慟哭は雨音に打ち消された。
それは、灼熱の日中をしばし やわらげる 優しい雨だった。
次から次へと空から落ちる大粒の水滴たち。
乾いた大地に染み込み 熱を奪い、空気に潤いを与え 生命を癒す。
優しい 雨 だった。




