見失った家路1
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆西岡幸子・・・桜田家の隣人。
◆大河弓子・・・夏休みの間の民宿の手伝い人。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵実咲・・・耕平の妻。
◆真淵聖・・・耕平と実咲の長男。農業高校2年。
◆真淵和弥・・・耕平と実咲の次男。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
◾️これまでのあらすじ
黒竜池で父親の遺体は引き上げられ、桜田風晴は高額の生命保険を受取ることになる。だが遺体の頭蓋には銃痕の跡があり、父親のいた陽邪馬市議会は当時関光建業(関光組)と繋がりのある企業との癒着で捜査をされていた。
遺体引き上げと同時に民宿には、風晴の母親に関する怪文書が届きだす。そして、叔父の孝臣の不審な転落事故死。そんな中で風晴の同級生・聖の母親が自殺を図った……!!?
灰畑町のすぐ隣りに位置する夜洛市の西側に、輪命回病院はあった。30分弱で救急車でも行けるので、灰畑からの救急患者が運びこまれることもしょっちゅうだった。
今日は自殺未遂の女性が一人運び込まれている。その身元にナースステーションも流石にざわめいた。
「駐在所の奥さんですって。灰畑の」
「かわいそうに…………まだ小さいお子さんもいるらしいわよ」
「ああいう人達も色々と大変なんでしょうね。生活は安定していても異動はあるし…………」
看護師達は立ち話をしていたが、すぐにやめてまたそれぞれに散っていった。
ナースステーション脇のゴミ箱からゴミを回収していた清掃員は、はじめ慎重な所作で丁寧な仕事をしていた。だが看護師達が話をやめると、あとは大雑把にドカドカとゴミ収集カートに投げ込んで行った。
新人看護師の清水楓は何気なくそれを見ていてしまった。カートを押して去っていく背の高い清掃員の背中を見つめる。
(話を盗み聞きしていた? ……まさかね)
少し気になったが、やらなければいけないことは 次から次へとある。彼女は早速先輩看護師に声をかけられた。
壁にかけてある懐中電灯を取って、夜の巡回へと向かう。
西岡幸子の家に行った翌日は、民宿では静かな一日となった。
北橋や安藤は取材のためか出ていたし、凰翔院学園の生徒達は課題をした。正火斗は、その監督と、桜田先生の残したパソコンに向かいあっていた。
風晴も,流石に課題に取り組んだ。少なめとはいえ、観察日記等もあるので、定期的に やらないと大変なことになる。
次の日の午前だった。
桜田風晴が その事実を知ったのは────
スマートフォンに着信があった。中学から一緒で、今も同じクラスの吉沢からだった。
「え?」
吉沢の簡単な説明では 風晴はその言葉を返すしかなかった。頭があまりにも混乱していたのだ。
「だから真淵のお母さん…………2日前の夜に手首を切って睡眠薬飲んで……自殺未遂したみたいなんだ。
命は助かって、今は輪命回病院の集中治療室。意識が戻らないって。
うち、母さんが事務員で勤めてるから分かっちゃったんだ。桜田、真淵と親しくなっていたみたいだったから教えておこうと思って」
2度きいても──まだ夢のようだった。
あのお母さんが? 聖の?
それでも これだけは言えた。
「教えてくれてありがとう吉沢。…………頼むから、他のヤツに広めないでやってくれないか」
友人は言った。
「バカ。漏らしてんのバレたらうちの母親の方が責められるよ。そっちこそ不用意に話さないでくれよな」
「ごめん。そうだよな」
「ただ真淵の友達って いなかった気がしたから。桜田だけでも知っておいてあげたらいいんじゃないかと思ったんだ」
風晴は友人に感謝した。
「ありがと。本気で。吉沢、ありがとう」
単調な言葉しか出てこなくて、とりあえず繰り返した。
「分かってる。いつか当番でも変わってもらうかも」
電話はそうして切れた。最後の言葉に風晴は少し笑ったが、すぐに顔は曇った。
顔を上げると──ミステリー同好会メンバーの一同と、北橋がいる。ちょうどみんなで情報をまとめて年表にしているところだったのだ、着信があったのは。
"不用意に話さないでくれよな"
吉沢が今しがた言った言葉はちゃんと覚えていたが、風晴は、これが"不用意"ではないと判断した。
着信を受けた時に立ち上がっていた。そのままで言う。
「聖のお母さんが……2日前の夜に自殺未遂したって」
全員にとっての衝撃だった。
水樹は口元を抑えて、少し震えてさえいたかもしれない。
正火斗がその肩に手をおいた。
風晴は吉沢から聞いた話を伝えた。ちょうど伝え終わった頃に、下から
「風晴くん、手紙が届いていましたよー!」
と大河さんの声がした。
なんとなく 全員に緊張が走る。
風晴は階下に向かったが、自分の鼓動がいつもよりも大きく感じた。
「はい、こちらです。風晴くん宛て」
大河さんは気軽な感じで渡してくれた。
見ると──白い定型封筒に手書きで住所、氏名が書かれていて今度は消印もあった。当然糊付けもされている。
階段を上がりながら いくらか落ち着いてきた。だが登り切って封筒を裏返した時──
そこに 差出人の名前は無かった。
風晴が慎重な顔になったのに気付いたのか、誰も何も言わなかった。
風晴は糊付けの封を切った。中には小さな便箋が 2つ折りで入っている。指でそれを引き出して、彼は広げた。
"あなたのお母さんを苦しめてごめんなさい。
どうか聖の友達でいてやって下さい。
どうか それだけは お願いします。
命をかけて償いますから"
と書かれていた。
風晴の手から 便箋は落ちた。
安西が拾い目にして、それから正火斗に渡す。他のメンバーはそれに近づいていく…………
その間、風晴は思い出していた。
西岡幸子の話を────
黒いキャップ、黒い長袖コートの男の目撃は一度きり。
聖のお母さんは、背の高い骨格のしっかりしたタイプの女性だった。
その後は黒いファミリーワゴンが停車されるようになる。聖を民宿まで送り迎えする機会があったから──門の前、ポストの前を通りすぎるから、もう必要はなくなったんだ。男の人のように見せる変装を。
なんてことだろう。
でも どうして?
どうして聖のお母さんが
あの怪文書を自分に送ったのだろう?
あるいは 送らなければ ならなかったのだろうか
転落編・空中スタート致しました。




