旅の道づれ–ルート確認–
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
生徒達のじゃれあいは放って、孝臣は話しだした。
付き合っていては日が暮れると思ったのだろう。
「重要なのは池のどこの水と土を取るか──だ」
「当然、今までも何度か警察のプロのダイバー達が池をさらってるんですよね?」
神宮寺が言った。でも質問の答えは待たずに正火斗が言葉を重ねた。
「それでも遺体は出てきてない。行方不明直後でさえも」
「どうして?大人の身体はかなり大きいのに」
水樹が独り言のように呟いた。
「ダイバーの捜索の仕方は、身体ごと地底を這わせて手で確認しているわけじゃない。何人も行方不明になってる池では、ダイバー自身の安全も大事にされるから、彼らは水面上部に浮いて、捜索用の棒で地底をつついて異変を探しただけなんだろうよ。
黒竜池の水は黒みがかっていて、地底の土まで黒ずみが積もっているから視覚での確認も難しい。それで、遺品すら出てこないんだと思う。何よりも…………」
孝臣はそこで一度言葉を止めて息をついた──そして、またつづける。
「黒竜池の名の由来である大蛇の話をした時に言ったろう? "池なのに特有の波がある"と。
私は正直、大学の頃から思っていたよ。波が渦まく池なんて絶対にどこかに水が抜けていってるんだ。ここなら、地理的に西側にのびてる流良川だな。他の川では無理がある。
黒い水で黒い土だから肉眼では分かりづらいんだろうが,地底の方はかなり強く速い流れのところがきっとあるのさ。溺れて沈んだ者だけが、それにとらえられてしまうってことだ。
ただしその川の方からも骨の一つも出てきていない────なら、もう結論は一つしかない」
「水が本当に池から川に流れているなら……」
椎名がごくりと唾を飲む。
「遺体はその途中のどこかにある!?」
パチンと指を鳴らしながら安西が言った。
「身体が大きいからこそ、足がはやく地底に達する。だから大人の方がその流れにとられて あっという間に行方不明になるのかもしれない。だったら子供だけが助かっている裏付けにもなる」
正火斗の付け足しにヒューと、桂木が口笛を吹く。
「驚いた。幽霊話ってホントにちゃんと科学と理論で否定することができるのね」
「ここはサクラチャンに免じて"地学の勝利"ってことにしたらどうでしょう」
あだ名呼びした椎名を睨んで、桜田孝臣は眉をあげた。だが わざわざ怒ったりもしなかった。
身をすくめたポーズをした椎名を水樹が見る。そして女子2人は目を合わせてクスクスと笑う。
孝臣はヤレヤレと言うように頭を振ってから、真顔に戻って教壇にいるような声をあげた。
「だから、我々がやる実験はこういうことだ」
その言葉に全員が耳を傾ける。
「チップを仕込んだ成人体重分の重さのデコイ(囮)を
地底に沈める。流れ着いた先の映像を水中ドローンでできることなら撮影をして、あとは その地点の水と土の回収だ」
周辺の空気がピリリと引き締まったような気が、風晴はした。みんなの顔は今までになく真剣なものになっていた。
「映像に何か映れば、その時点で警察に届けられるだろう。映らなければ大学に送るサンプルの結果待ちになる。それは早くても4、5日はかかってしまうだろうな。
サンプルからわずかでも人体に関するものや、遺品の痕跡が示されれば、やった実験内容を警察に提出する。あれだけ行方不明者がいる池なら無視できないと思うんだ」
「結局引き上げは警察かぁ」
桂木の声は明らかにガッカリしていた。
「お前らにやらせたら、私が保護者に呪いの池に突き落とされるんだろうよ」
椎名や桂木達は両親の顔を思い出したのか、少し笑った。
正火斗と水樹には、笑顔はない。
風晴はそんな2人が気になった。
でも次の孝臣の言葉で、たちまち人のことなどかまう余裕はなくなった。
「私の言うべきことはここまでだ。風晴、あとはお前だ」
声の方を向くと、孝臣が風晴を見つめていた。




