これまで来た道1
ー登場人物紹介ー※情報変更あり=水樹が高校2年に変更
桜田風晴・・・田舎の農業高校2年生。
桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
※ 黒竜池事故・行方不明リスト改訂版も掲載致します。
今井薫子の年齢が変更になりました。色々すみません。
黒竜池事故・行方不明リスト(桜田孝臣 作)
2019年1月8日 A県 陽邪馬市 桜田晴臣(44歳)
2018年12月23日 A県 陽邪馬市 今井薫子(36歳)
2016年 8月 S県 安良市 田所高文 (31歳)
1998年 5月2日 名前非公表 (7歳子供)※生還
1987年 11月 A県 灰畑町 馬場洋子 (70代大人)
1955年 アカガワ セイ 住所・性別不明 (大人)
1940年頃 A県灰畑町 氏名不明・性別不明(子供)※生還
1920年頃 住所不明・氏名不明・性別不明(大人)
住所不明・氏名不明・性別不明(子供)※救出
約120年前 A県灰畑町 氏名不明 (子供)
風晴は心を決めた。
みんなは彼の発言を待っている。
どこから話したらいいものか、、、彼はとりあえず父親の実家を思い浮かべた。もう、記憶はだいぶ荒くなっているが。
『父さんの実家は、隣の陽邪馬市で名のある建設会社だったんだ。桜田の祖父が開業してそれなりの企業になったはずだけど、10年前くらいから事業が苦しくなって、、、、今はどうなってるかはオレ達は知らない。』
オレ達というのは自分と母のことだ。
そこで叔父である孝臣を見る。
『私は20代で勘当されたんだよ。男4人兄弟の末弟だったし、あの家にとっては価値がなかったんだろう。
あっさり出てって良いと言われて、それきりだった。
晴臣兄さんの件が起こって、確認しなければならないことでは何回か連絡を取ったが。それから今はまた関わっていないんだ。現状はサッパリだ。
会社はまんま、“桜田建設"って名前だ。検索したら何か出てくるかもしれないが、、、』
『桜田建設って名前結構あるあるっぽいですよね』
『廃業してもホームページだけ残ってるのも意外とあるし』
椎名と、神宮寺の一年生コンビの発言だ。
『とりあえず話しを進めるよ。父さんは、桜田晴臣は、そこの長男だったんだ。元々銀行員をしていたってきいてる。本人はそれでも、祖父の会社を背負うことについてはゆくゆく受け入れるつもりだったんだと思う。だけど、祖父の考えは違ったんだ。』
孝臣だけがうなずいた。風晴は言葉を続ける。
『多分なんだけど、、、、、父さんのすぐ下の弟の、和臣叔父さんに会社経営を任せる話しになったみたいなんだ。で、父さんは銀行を辞めて議員付きの経理職員に仕事が変わった。』
風晴の頭の中で、父と母の話し合いの声がする。
自分がプラレールを組み立てて、ドクターイエローを走らせている横のテーブルで、父と母は向き合っていた。
(あなたは、それで本当にいいの?)
(仕方ないさ。あの人は言い出したら止まらない。、、昔から、、、なんだ。)
父は手のひらで顔をおおっていた。母は、そんな父の肩に手をおいて、ゆっくりとさすっている。
『お父さん、その後市議会議員に立候補するんだよね?桜田の社長はお父さんを政治家にしようとしたってこと?』
安西の声で風晴は現実に戻った。問いに急いでうなずく。
座っていた姿勢を少し変えて、孝臣が頬杖をつきながら言った。
『三男の光臣が東北経済産業局に採用になったんだ。光臣は頭は本当にできてたが、総務課にねじ込めたのは親父が手を回したんだと思う。何にせよ親父は、それでもっと桜田の一族が勢力を広げる夢を描いてしまったんだろう。
だが、光臣はコミュ障気味で、人前に出るとか演説やらは無理だった。和臣は馬鹿だった。それで、結局兄貴にお鉢が回ったんだと思う。』
今度は風晴が聞く番だった。そこまでの背景は知らなかったのだ。
『兄貴はなんでも そつなくこなすタイプだった。生徒会もバレー部の部長も。全体を見て、困っているヤツがいれば手を伸ばしてくれた。人徳もあった。そういう面を、親父は利用したんだ。』
ハア、と、孝臣が息をはく。
『私が勘当された理由は、大学に残って研究を続けたいと頼んだら、金にならない研究などやめろ と言われたことだった。勢いで桜田の家と縁切りになったが、当時の私には馬鹿なことに貯金の一銭も無かったんだ。結局大学院を諦めようとした時ーーーー
兄貴が、晴臣兄さんが連絡をくれたんだ。
金のことは自分に任せてお前は研究を続けろ と。あの頃兄貴はもう銀行員だった。だが、収入の半分以上を、あの時私に回してくれていたんだと思う。』
誰も何も言わなかった。
でも、少なくとも風晴は気づいた。
孝臣叔父さんは父さんの援助で地質学研究者になった。そして、その力で今兄を見つけようとしている。
『叔父さんは、もっと前から黒竜池を調べたかったんですか?』
風晴は率直にきいた。
孝臣が風晴に向く。その目は少し潤んでいた。
『ああ。だが風子さんの気持ちを思うとな。どうしても調べさせてくれと私からは言えなかった。』
『なんでだよ?はやく見つかるのって良いんじゃないか?』
桂木が思わずという感じで発言した。
『ばかっ』
と言う水樹の小さな声が後を追う。
風晴は自分が言わなければと思って述べた。
『後追い自殺の噂があったからーーーだ。父さんの遺体がもし見つかっても、一緒に愛人の遺体も絡まって出てきたりしたら、、、、』
ただの噂が、まるで噂ではないかのようになってしまう。
風晴はその部分は言葉に出来なかった。
それは母自身を傷つけるだろうし、また周囲の晒し者になってしまうかもしれない。ーー陽邪馬市であったように。
重苦しい沈黙が広がった。
だが、正火斗はそれを破った。
『情報として捉えよう。
"後追い"と言われるということは、相手はこの2018年に行方不明になっている 今井薫子 なんだな?』
正火斗はみんなにも見えるように、自分の持つ事故・行方不明者リストの用紙を畳に広げて、その名前を指さした。
『そう。父さんの秘書だった。オレ自身は直接は会ったことなかった、、、気がする。ただ、、、、議員になってからは父さんは家にいることは少なくはなってた。でも、、、でも当然、接待や仕事が忙しくなったんだって!オレと母さんは、そう信じて暮らしてた!』
思いがけず語尾が強くなっていき、風晴は自分でも驚いていた。
ハアハアと荒い息で彼の肩が揺れる。安西が風晴の麦茶のグラスを渡してくれた。風晴は黙って飲んだ。
風晴が幾分落ち着くのを待っていたかのように、正火斗は孝臣に向かってきいた。
『今井薫子が行方不明になったのはどういった流れなんです?そもそも桜田家も今井薫子もこの時は陽邪馬市にいたのに、この灰畑の黒竜池に沈んだと言われているのは何故なんですか?』
確かに、何も知らないミステリー同好会メンバーにとっては、不自然な点だろう。
『今井薫子については目撃者がいるんだ。その目撃者の目の前で、黒竜池に飛び込んだそうなんだ。』
『その目撃者はどこの誰なんですか?』
正火斗はさらに追及する。
『この民宿の隣の家の西岡家の娘だ。娘と言っても、もう40過ぎてるかな。関東で働いていて普段からここにはいないが、その時は帰省してたんだ。
今井薫子とは小学校中学校の同級生で、仲が良かったらしい。』
『あ!』
安西が声を上げて、皆がそっちを見た。
『どした?秀一?』
桂木がきいたが、安西は風晴の方に顔を向けた。
『僕が下で会ったのって、その、、、、』
『うん、アレが母親の西岡幸子。あの人そんなデカい娘さんいるなら結構年なんだろうな。なんか、昔っからあの体型でフケてるから、逆に15年くらい変わってない気がするんだよ。』
『たまにいるよな、オバサンで。美魔女の真逆みたいなの。どこかの時点で、中年飛びこえて、そっからずぅっと婆サンなの。"いつまでも変わらない"残酷版。』
桂木の発言に、高校生達は うんうんと うなずき合った。
孝臣は賛同を控えた。
そして、話しを戻す。
『何にせよ、西岡の娘は見たんだそうだ。彼女から久しぶりに会いたいと言われて会って、話しを聞きながら薄暗い夕方に二人で歩いていて、黒竜池まできたら、今井薫子は"もう私は限界だ,死にたい"って叫んで、目の前で飛び込んだんだ、と。』
『聞いたら今でもすげぇ詳しく教えてくれるぜ、西岡さん。"あたしの娘がね"って。きっと3時間くらいかけて。』
風晴が付け足した。
『目撃者の証言としては今のでもう充分ってことにしようよ』
安西が慌てて言う。
『何にせよ、遺体は上がらなくても、今井薫子の自殺は疑う余地がなかった。ずっと会ってなかった旧友をいきなり西岡の娘が殺そうとするのも不自然すぎる。そして、直前に話していた悩みは仕事のことと恋人のことだった。
具体的には桜田建設が厳しくなってきていて変な仕事が増えているとか、恋愛がうまくいってないってことだけだったはずなんだが、、、、。たまたま桜田晴臣の秘書だったことから、噂が捻じ曲がって2人が不倫関係だったんじゃないかと勘繰る奴らが出てきてしまった。』
『そんな、、!ひどいですよ。』
椎名は怒っていた。
風晴は ありがとう と言いたかったが、ただ黙って感謝した。
『だが、噂だけならまだ良かったんだ。最悪だったのは、その噂の真っ只中 晴臣兄さんが行方知れずになってしまったことさ。』
『あのう、、、ずっと思っていたんですが、、、』
おずおずと、神宮寺が聞いた。聞いてもいいものか、彼は迷っている。
『晴臣さんが、生きているって可能性は、ないんですか?』
静寂が広がる。
横目で風晴を一瞥してから、孝臣は口を開いた。
これまで来た道2に続きます。
引き続き宜しくお願い致します。