旅の道づれ–期間限定–
ー登場人物紹介ー
桜田風晴・・・・・田舎の農業高校2年生。
桜田風子・・・・・風晴の母親。民宿を営む。
桜田晴臣・・・・・風晴の父親。市議会議員だったが、
6年前から行方不明。
桜田孝臣・・・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。
地学教師。
大道正火斗・・・・ミステリー同好会部長。高校3年生。
実家は大企業の財閥グループ。
大道水樹・・・・・ミステリー同好会メンバー。
正火斗の妹。高校2年生。
安西秀一・・・・・ミステリー同好会副部長。高校2年生。
父親は大道グループの傘下企業。
桂木慎・・・・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年
生。
神宮寺清雅・・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年生。
椎名美鈴・・・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年生。
次回より人物氏名にふりがな入力予定です。間に合わずすみません。
"ねえ、17歳って、子供かな? それとも大人、、、、かな?“
安西秀一の問いかけに、風晴は答えに詰まった。だが、彼が答えなくとも、周りが一斉に話しだした。
『17歳は、120年前の小さい子から見たら大人じゃないですか?私はまだ15歳なので、、、それなりと、、、ううん!結構!かなり!子供に近いと思いますが!!!』
椎名は片手を軽く挙げながら発言した。
『120年前なら、ちょうど日本初の婚姻法ができた頃だよ。当時は女性は15歳から結婚が認められてた。つまりは15歳女性は大人の認識という証拠だ。』
風晴に向いていた身体を ひるがえして、安西が椎名に反論する。
『ずっと池に宿ってきたことで令和の感性を持っていたら?そしたら男女共に18歳までセーフですよ。』
神宮寺が指摘した。
『え?女性は16歳から結婚OKじゃなかった?』
この問いは水樹だ。
返答したのは正火斗だった。
『2022年4月から成人年齢引き下げと一緒に民法731条が改正されたんだ。今は男女共に18歳だ。』
風晴は、自分が普段いる農業高校の教室とは全く違う会話だと思いながら ただ聞いていた。すると、先程男子部屋で“友達になろう"宣言をしてきた桂木が早速親しげに話しかけてきた。
『桜田はどう?子どもが大人になるのって何歳からだと思う?』
全員の視線が風晴に集まった。
『あーーー、、、えっと』
風晴は一度天井を見上げて考える風を装った。本当は注目された緊張を隠したかった。彼はゆっくりと答えた。
『って言うか、幽霊が"何歳ですか?"って聞いてくるわけじゃないし。こっちも水中で“17歳です"とは言えないわけだから。だから、、、身体の大きさなんかで判断してるんじゃないか?』
一堂がポカンとした表情になった。
それを見て風晴も一瞬固まった。
(オレなんか今間違ったこと言ったか?)
静まった次の瞬間、部屋中が笑い声に包まれた。
『それ!それ!それだよな!決まってるよな!?』
桂木は風晴に指差しながら言った。もう片方の手は腹を押さえている。
『風晴くん、お、面白すぎます、、、、、、!』
眼鏡の奥の椎名の目は、笑いで潤んでいる。
『"水中で17歳です"って必死に言おうとしているとこ考えたら、、、、だめ、だめ、耐えられない、、、』
水樹もそう言いながら笑い転げている。風晴は初めて彼女の心からの笑顔を見た気がした。
水樹の発言で部屋にいた8人はさらに爆笑した。
『僕はすんごい真剣に怖かったんだよ!だから、だから余計に、、、』
笑いながら安西は風晴の肩を叩いてきた。だけれど、笑いすぎて言葉が途切れる。言おうとしても、笑いで苦しくて続けられない。
そんなみっともない姿を また皆が笑い、最後には
『もうやめてくれ』と互いが互いに言い合った。
いわくつきの池の話しから、とんでもない笑い話しになって、そこからまた現実に引き戻したのは、やはり顧問の桜田孝臣だった。
『さあ、楽しい休み時間はここまでだ。』
孝臣も笑いすぎた目をまだ こすっていたが、その声はもう真剣なものだった。
『リストには全部で10人いるが、私達は黒竜池の伝説の調査が目的ってわけじゃない。だから1人1人の詳細を追うのはむしろ時間の無駄だと思うんだ。私達がやるのは、、、』
『桜田の親父さんの遺体を見つけて、2億円ゲットだろ?』
『どこかのゲームみたいな言い方は良くないですよ、桂木先輩』すかさず椎名がいさめてくれた。
でも風晴は気にもならなかった。
『ごめん桜田』
以外にも桂木は即座に謝ってくれた。ぺこんと頭まで下げて。
彼は頭を戻して
『2億円もらっても友達でいてな?』と言った。
『なってないだろ』秒で風晴は返した。
『漫才コンビみたいになってきたね』
眼鏡に手をかけて安西が言った。
『それもなってないって』
風晴は安西をヒジで軽くこづいた。が、されて安西は笑った。
(なんだろ、、、?)
風晴は不思議な気持ちになった。ほんの数時間で、自分達の距離はぐっと近づいた気がする。
『実際に私達ができるのは、いわゆる"水質調査"だ。届出もそれで出してある。地学研究の一環で、黒竜池の水は何故黒ずむのかを調べるって名目だ。池の水や地底のサンプルを取って大学に送る。』
生徒達のじゃれあいは放って、孝臣は話しだした。
付き合っていては日が暮れると思ったのだろう。
『重要なのは池のどこの水と土を取るか だ』
『当然、今までも何度か警察のプロのダイバー達が池をさらってるんですよね?』
神宮寺が言った。でも質問の答えは待たずに正火斗が言葉を重ねた。
『それでも遺体は出てきてない。行方不明直後でさえも』
『どうして?大人の身体はかなり大きいのに』
水樹が独り言のように呟いた。
『ダイバーの捜索の仕方は、身体ごと地底を這わせて手で確認しているわけじゃない。何人も行方不明になってる池では、ダイバー自身の安全も大事にされるから、彼らは水面上部に浮いて、捜索用の棒で地底をつついて異変を探しただけなんだろうよ。
黒竜池の水は黒みがかっていて、地底の土まで黒ずみが積もっているから視覚での確認も難しい。それで、遺品すら出てこないんだと思う。何よりも、、、』
孝臣はそこで一度言葉を止めて息をついた。
そして、またつづける。
『黒竜池の名の由来である大蛇の話をした時に言ったろう?池なのに特有の波がある と。
私は正直、大学の頃から思っていたよ。波が渦まく池なんて、絶対にどこかに水が抜けていってるんだ。ここなら、地理的に西側にのびてる流良川だな。他の川では無理がある。
黒い水で黒い土だから肉眼では分かりづらいんだろうが,地底の方はかなり強く速い流れのところがきっとあるのさ。溺れて沈んだ者だけが、それにとらえられてしまうってことだ。ただし、その川の方からも骨の一つも出てきていない。
なら、もう結論は ひとつしかない。』
『水が本当に池から川に流れているなら、、、、』
椎名がごくりと唾を飲む。
『遺体はその途中のどこかにある!?』
パチンと指を鳴らしながら安西が言った。
『身体が大きいからこそ、足がはやく地底に達する。だから大人の方が、その流れにとられて あっという間に行方不明になるのかもしれない。だったら、子供だけが助かっている裏付けにもなる』
正火斗の付け足しにヒューと、桂木が口笛を吹く。
『驚いた。幽霊話って、ホントにちゃんと科学と理論で否定することができるのね。』
『ここはサクラチャンに免じて"地学の勝利"ってことにしたらどうでしょう』
あだ名呼びした椎名を睨んで、桜田孝臣は眉をあげた。だが、わざわざ怒ったりもしなかった。
身をすくめたポーズをした椎名を水樹が見る。そして、女子2人は目を合わせてふふふと笑う。
孝臣はヤレヤレと言うように頭を振ってから、真顔に戻って教壇にいるような声をあげた。
『だから、我々がやる実験はこういうことだ。』
その言葉に全員が耳を傾ける。
『チップを仕込んだ成人体重分の重さのデコイ(囮)を
地底に沈める。流れ着いた先の映像を水中ドローンでできることなら撮影をして、あとは その地点の水と土の回収だ。』
周辺の空気がピリリと引き締まったような気が、風晴は、した。みんなの顔は今までになく真剣なものになっていた。
『映像に何か映れば、その時点で警察に届けられるだろう。映らなければ大学に送るサンプルの結果待ちになる。それは早くても4、5日はかかってしまうだろうな。
サンプルからわずかでも人体に関するものや、遺品の痕跡が示されれば、やった実験内容を警察に提出する。あれだけ行方不明者がいる池なら、無視できないと思うんだ。』
『結局引き上げは警察かぁ』
桂木の声は明らかにガッカリしていた。
『お前らにやらせたら、私が保護者に呪いの池に突き落とさるんだろうよ。』
椎名や桂木達は両親の顔を思い出したのか、少し笑った。
正火斗と水樹には、笑顔はない。
風晴はそんな2人が気になった。
でも、
『私の言うべきことはここまでだ。風晴、あとは、お前だ。』
と、言う孝臣の声で、たちまち人のことなどかまう余裕はなくなった。
風晴は叔父を、孝臣を見つめた。
みんなは、そんな風晴を見つめている。
『なあ、風晴、こんなふうに考えてくれないか。』
孝臣の風晴への眼差しは温かかった。
『こいつらはお前がいつもいるヤツらとは違うだろう?』
ミステリー同好会メンバーに片手を向けて孝臣は言った。
『こいつらは変わってるだろうが悪いヤツらじゃない。それは私が保証する。彼らはここにこの夏しか滞在しないし、おそらくは、この先会うことはもうないだろう。』
『ええ!?LINE交換しようよ』
『しっ。静かに』
周囲に睨まれて桂木は黙った。そして、うつむいた。
心なしかしょんぼりしているようにも見える。
彼の言葉は本気だったものもあるのかもしれない。
『お前が何を話しても、共有するのは ここで』
トン と、孝臣は畳を人差し指で突いた。
『この土地で だけだ。
だから 会ったばかりかもしれないが、こいつらを信用してやってくれないか?』
風晴は一瞬で理解した。
孝臣が言っているのは、外部からきた同好会メンバー達は、だからこそ 秘密を 近所の住人や桜田の親戚に吹聴することはない と 言うことだ。
この今の自分の状況は、ここでこれから先も生活を続けていくからこそ、この先も顔を合わせる者には、安易な相談すらも難しい。
だが眼前の彼らは、やがて いなくなる存在だ。
風晴はこの土地が好きだった。祖父が生まれ育ったこの場所で、自分も歳を重ねていくだろう。時折旅行のようなものには出るだろうし、都会への憧れがないわけじゃない。それでも、多分自分はここで祖父と同じく人生を終えていくんだろうとさえ、彼はすでに悟っている。
しかしながら、閉鎖的な田舎というものには、独特の風習や暗黙のルールも確かにあるのだ。複雑で濃すぎる人間関係が構成されていて、誰かの親と誰かの親が友人や親戚だったり、近隣の住人は、互いの家の人の出入りを全て知っているなんてことも、ここでは日常に過ぎない。
それが良い方に作用しているうちは気にならないが、ひとたび何かの弾みで悪い方に動きだせば、周囲の目の全てはただ自身を苦しめるものへとなり得る。
風晴は子供ながらにそれらに晒される母親の姿と、重責に縛られる父親を覚えていた。いや、当時はただ見ていただけのものを、時が経つにつれて理解するようになっていったのだろう。だがそういう思い出達を、風晴は確かに、今学校にいる地元の友人達には話したことがなかった。彼らとは屈託なく、毎日ふざけ合いながら過ごしているのに。
(いや、むしろ、だからこそ自分はしらないうちに心に鍵をかけていたのかもしれない)
風晴は気づいた。
しかし、この東京から来た高校生達は、風晴が胸の内を打ち明けても、同じように胸にしまって、そして、ただ消えていってくれるのだ。
孝臣は、だから 安心していい と言ってくれている。
孝臣は今度は同好会メンバーの方を向いた。
『お前達は風晴からきいたことは、この仲間うちでは話していいが、ここの住人には絶対に漏らすなよ。特に保険金の話しは御法度だ。
2億なんて金額は、日本のどこでだって人間の目の色を変えさせるだろうが、こんな田舎じゃ恰好の噂と好奇の的だ。今は詐欺やら闇バイト強盗もあるからな。
探偵まがいを気取るなら、せめて依頼人の秘密は守るもんだ』
『守秘義務ってヤツですね』
神宮寺がうなずきながら言う。
他のメンバーも特に言葉はなかったがうなずいた。
風晴はやんわりと、胸が温かくなる気がした。
だが、皆に目をやっていたからこそなのか、民宿の息子らしく、突然彼はあることに気付いてしまった。
『飲み物持ってくるよ。喉乾いてるんじゃないか?』
皆に背を向けて戸口に向かって、そこで彼は足を止める。
振り返って、口を開く。そうすべき気がした。
『戻ってきたら、父さんが行方不明になった時のことを聞いてほしい。』
静かなままだったが、むしろそれは 誰もがその言葉を受け取ったかのような沈黙だった。
返事ではないが、安西が進み出てきた。
『手伝うよ。1人で8人分って結構大変だ。』
風晴はそれを受け入れた。2人は一緒に階下に向かった。
黒竜池事故・行方不明リスト(桜田孝臣 作)
2019年1月8日 A県 陽邪馬市 桜田晴臣(44歳)
2018年12月23日 A県 陽邪馬市 今井薫子(36歳)
2016年 8月 S県 安良市 田所高文 (31歳)
1998年 5月2日 名前非公表 (7歳子供)※生還
1987年 11月 A県 灰畑町 馬場洋子 (70代大人)
1955年 アカガワ セイ 住所・性別不明 (大人)
1940年頃 A県灰畑町 氏名不明・性別不明(子供)※生還
1920年頃 住所不明・氏名不明・性別不明(大人)
住所不明・氏名不明・性別不明(子供)※救出
約120年前 A県灰畑町 氏名不明 (子供)