迷路の入口へ
ー登場人物紹介ー
桜田風晴・・・・・田舎の農業高校2年生。
桜田風子・・・・・風晴の母親。民宿を営む。
桜田晴臣・・・・・風晴の父親。市議会議員だったが、
6年前から行方不明。
桜田孝臣・・・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。
地学教師。
大道正火斗・・・・ミステリー同好会部長。高校3年生。
実家は大企業の財閥グループ。
大道水樹・・・・・ミステリー同好会メンバー。
正火斗の妹。高校2年生。
安西秀一・・・・・ミステリー同好会副部長。高校2年生。
父親は大道グループの傘下企業。
桂木慎・・・・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年
生。
神宮寺清雅・・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年生。
椎名美鈴・・・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年生。
エアコンのよく効いた女子の部屋に移ってからは、ミステリー同好会のメンバーから風晴に簡単な自己紹介があった。
黙ってきいてはいたが、すでに正火斗と水樹とは挨拶し合ったようなものだし、男子メンバーは だいたい名字と顔が一致してきている。あとは、、、、
『椎名美鈴です。1年です。よろしくお願いします。』
眼鏡でショートボブの女子が勢いよく頭を下げる。
その髪が元気に頬のあたりを跳ねた。
(ふむ、、、、)
大道水樹というモデル張りの目鼻立ちとスタイルの同性のせいで見劣りはしてしまうが、椎名美鈴は、決して魅力がないわけではなかった。
くるくると表情を変える彼女は、ミステリアスな水樹とは対称的にあたりをなごませるかのような雰囲気がある。
(それに、多分 眼鏡をとったら可愛いかも)
風晴が17歳の男子らしく(?)椎名を見定めていると、椎名の隣にいた水樹の方が その視線に気づいた。
(やべっ、、、、!)
慌てて風晴は顔を伏せる。
何も悪いことはしていないのだが、何故か、自分の心の中を見透かされたかのようで居心地が悪い。
水樹はじっと風晴を見つめている。
だが、そこで桜田孝臣が顧問らしく この集まりの口火を切った。
『みんなこの資料を見てくれ。』
各々が渡された、右上をホッチキスで止めた用紙に目を落とす。
『黒竜池で起こったとされている、だいたいの行方不明事件のリストアップだ。』
そこには年号と、5人の名前があった。5人より下は名前・年齢は不明となっていて、その隣りにはカッコ付けで(大人)(子供)とある。それが4人分あった。
リストの1番下には
約120年前 名前不明・年齢不明・(子供)
と ある。
『120年前!?よくここまで調べましたね!』
神宮寺が顧問を見上げる。
『一応私にとっても地元みたいなものだからな。だが、ほとんどは風子さんと風子さんの親父さんからきけた話しさ。』
孝臣はニヤリとして風晴をみた。
風晴は、叔父が病院にいる祖父を見舞ったのだと気づいて軽く頭を下げた。
『これより前の黒竜池は、いわゆる、龍神を祀った普通の貯水池だったんだ。当時の住民達はこの池に龍、、,というか大蛇がいると信じていた。それが池の主だと。』
孝臣は講義のように続けた。
『最も、私はさほど大きな蛇もいなかったのではないかと考えてる。黒竜池は特有の水流が起こってると私は読んでるんだ。住人たちはおそらく、水流の波のラインを蛇と勘違いしたんだろうよ。』
『これより前は ということは、この女の子の事件から黒竜池はいわくつきになったってことですよね?一体何があったんです?』
安西が眼鏡を少し押し上げながら尋ねた。俯き続けてズレてきたのだろう。
『母親といた幼い女の子が蛇に噛まれて亡くなったんだ。』
『大蛇はいなかったって言ったじゃないスか』
桂木が食いつく速さで問う。
『女の子が母親といて毒蛇に噛まれた。母親はその子供をおいたまま逃げた。そして、家に行って夫に助けを求めたんだ。
2人は黒竜池に娘を救いに戻ったが、その時はもう娘の姿は影も形もなくなっていた。』
『どこに行ったって言うの?』
水樹がたまらず聞いた。
『"娘は龍神に飲まれたか、池に引きずり込まれたに違いない"それが両親の周囲への説明だったそうだ。』
生徒達と風晴は一堂に止まっていた。みんな険しい顔をしている。
『そんなこと、、、』
椎名の言葉を、孝臣はそのまま引き継いだ。
『そんなことは有り得ないと、いくら大昔でも誰もが思ったようだぞ。その後、村には誠淑やかに とある噂が流れだしたんだ。
両親が娘を殺したんじゃないか、と。』
椎名が小さく息を飲む音が風晴の耳に届いた。
『いなくなった娘の母親は実母だったが、父親は継父だったんだ。その娘だけが実母と前の夫との間の子供で、一緒に暮らしていた3人の弟・妹の方は両方と血の繋がりがある。
彼らの家は裕福では無かった上に夫は横暴な性格だった。元々長女を邪険にしていたことは周知の事実で、あたりの者は皆、ちょうど良い機会だからと口減しをしたのだろうと察しをつけたんだ。』
『そんな、、、』
神宮寺が言葉をもらしたが、後は続かない。
『厳しい時代だったのかもしれないが、娘は、、、一体どんな気持ちだったんだろうな。このあたりは即効性の毒蛇なんかは生息してない。
その子はおそらく、毒に痺れながらも両親の会話を聞いていただろうよ。
2人が共謀したのか、母親は止めたのか、父親が脅して強いたのか は、もう誰にも分からない。
だが、娘は、十中八九 黒竜池に投げ入れられたんだろう。まだ息があるまま。』
自由のきかない身体、苦しい呼吸、助けを求めているのに、やっと伸ばした痺れた小さな手の先にいるその両親は、自分を殺す話し合いをしているー
(なんて悪夢だ、、、、)
風晴はゾッとして、急に辺りが涼しくなったような気さえした。
『しかも、この説を裏付けるような出来事が続いたんだ。』
全員が身を乗り出すようにして孝臣に向く。
『この後から、大人が黒竜池に落ちると、死体が上がらなくなった。だが、子供が落ちた記録はあっても、全員が助かっているんだ。子供は池から生還してる。
それで、みんなが納得した。池で両親に殺された幼子は、子供を救って大人を憎んでいる、と』
『嘘でしょ?』
『なんだって?』
『そんなのって、、、』
各々資料に目を向けて沈黙する。
『本当‼️すっごい‼️』
椎名が目を輝かせて顔を上げた。
『確かに''生還"や"救助"はついているが、、、。でも分かってるのはこの3人だけだろう?伝説を作るには、少し性急なんじゃないか?』
正火斗は冷静だった。小憎らしくなるほどに。
『兄さん 夢がない!!こういうのは1人だって言い伝えられたら広まるものよ。それに子供が3人助かってるって、むしろ たいした数なのかも』
実妹は容赦なく発言できる。
『どうかなぁ。比較事例が他にないし、、、、』
ブツブツと安西は独り言を呟いていた。
『サクラセンセはどう思ってるんスか?』
『桜田先生だ、桂木。
私は、大蛇同様に人間の思い込みだと推察するな。そもそも3人のうち名前の分からない2名は、昔過ぎて詳細が全く分からない。全身入って溺れたのか、足を滑らせてすぐ戻ったのか、もな。』
そこで孝臣は一度言葉を切った。
『だが1998年に自力で池から上がった7歳の少年からは、、、、、まあ、おもしろい証言の記録は残っていたよ。』
『なんですか?』
『桜田先生!教えて下さいよ!』
生徒達がざわめく。
『全く、、、お前達は、こんな時だけ"桜田先生"だろ?陰ではふざけてサクラセンセだのサクラチャンだの呼んでるクセに。後はせいぜい試験範囲を指定するときくらいで、、、』
『孝臣叔父さん、証言証言』
ここは風晴が促した。いい仕事を果たした気分になった。
『ああ、そうだったな。』
孝臣は頭を掻いた。
『1998年の事故は、祖父母と山菜取りに来た7歳の少年が、はぐれて、誤って黒滝池に落ちたという内容だったんだ。少年は4歳からスイミングスクールに通っていたおかげか、自力で泳いで池から上がることができた。
だが孫がずぶ濡れになって見つかって、祖父母は大騒ぎしたんだ。彼らは警察に連絡をし、地元のマスコミも集まった。当時の新聞にインタビュー記事が上がってた。
水の中で誰かに手を引かれた と。引かれた方に向かったら上がることができた と。しかも、自分よりもっと小さい手のような気がした と、まあ、そうきたもんだ』
『ホントの本物じゃないですか‼️いるんですよ‼️
まだ''彼女"が‼️黒竜池に‼️』
椎名はもう大はしゃぎだ。持っている資料も、手にこもった力でクシャクシャになっている。
だが、孝臣は笑い出していた。
『7歳の子供だぞ?勘違いか作り話に決まってるじゃないか。子供がマイクやらカメラやらをいきなり向けられたら、何か面白い話しをしてやろうとなる。』
『えーーーー!そんなことはないですよ!』
ここで風晴は気づいた。
椎名以外のメンバーは、静かだった。青ざめている者もいる。
まだ椎名が騒いでる横で、桂木が、ようやく口を開いた。
『これミステリー同好会の範囲越えてないか?もうホラーじゃん』
神宮寺も続いた。
『大人の方が上がらないってことは、大人なら足でも引っ張られるんですかね?水底へ、、、みたいな』
そして、隣りにいた安西は神妙な顔で風晴の方を向いた。
『ねえ、17歳って、子供かな? それとも大人、、、、かな?』
次回、黒竜池事故・行方不明者リスト(桜田孝臣作)を後書きにて掲載予定です。引き続き宜しくお願い致します。