目的地決定
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
風晴はただ じっと孝臣を見つめた。
正直、何を言っていいのか分からない。
すると斜め後ろから
「あの……恐縮ですが、お聞きしたいんですが……」
と小さな声がした。
「僕が聞くのも変かもしれないんですが、どうしても気になって」
もじもじとガリ勉風の──安西が続ける。
「その、受け取れる生命保険の金額って……おいくらなんでしょうか?」
「晴臣兄さんはいくつかの保険に入っていたみたいなんだ。今確認できているだけで3つ。総額で2億は下らないはずだ」
「2億!!!!!!!!」
孝臣以外の全員が声を上げた。
若い女子の声も入っていて、風春が首を回すと──そこには隣室から出てきてる水樹と、もう1人のメガネ女子の姿があった。
ポン!
そうこうしているうちに肩を叩かれ、顔を向けるとそこには耳に光るピアスがあった。
「あんたすごいじゃん! 友達になってよ!」
興奮して上擦った声の桂木が目の前にいる。
「ならねぇよ」
風晴は心底うんざりして言った。
突然の人生の急変で吐き気がしそうだった。
孝臣叔父さんの言ったことはわかる。母の気持ちも。
自分だってじいちゃんも助けたい。だから事態を飲み込もうとした。だけど、こんなの金額がデカすぎる。
ニオク? におく? 2億だって?
月の小遣いだって3千円なのに?
風晴は手でこめかみをさすった。頭痛もしてきそうだ。
「大丈夫よ。お金って結構すぐ無くなるものだし」
その声は水樹だ。顔をあげなくても、こんなセリフを吐ける人間は予想がついた。
「流石です。2億なんて水樹さんは聞き慣れてるんですね。大道グループは動かしてる金額が違うでしょうから」
うんうん、とメガネ女子がうなずいている。
「だが実際手にするのは…………難しいかもしれないんだ」
孝臣は腕を組んで険しい顔をしている。正火斗も表情が固かった。
「そうか!」
あの高飛車な1年生男子は、その2人を見て何かに気づいたように手を叩いた。
「失踪宣告より先に死亡を立証するには遺体が絶対条件なのに、死体の上がらない黒竜池からは見つけられないかもしれない。それにもしも見つけられたとしても……」
「死因が自殺の場合には一銭も保険金は支払われない」
後半は正火斗が引き取って言った。だが1年生の──神宮寺はそれが嬉しかったらしい。彼は輝く瞳で信仰する部長を見ている。
「それなら…………」
風晴は口を開いた。
妙なことに、気が楽になって──むしろ言葉は出やすくなっていた。
「たとえ父さんの……遺体が見つかっても、生命保険はおりないかもしれない」
「どうして?」
すばやく水樹が反応して聞いてくる。
「父さんは行方がわからなくなった時、このあたりの人みんなに噂されたんだ。"後追い自殺じゃないか"って」
「"後追い"ってどういうこと?」
水樹はその美しい顔の眉間にしわを寄せて、ごく自然にきいてきた。本当にわからないのだろう。
「もういい水樹。答えなくていいんだ、風晴」
叔父の声が遠くで聞こえたが、風晴は答えた。
「父さんは先に黒滝池で死んだ秘書の後を追ったと言われてるんだ。"その秘書が愛人だったから"って」
沈黙が降り────ると、風晴が覚悟した時
力強い声が響いた。
「それでも遺体さえ上がれば新事実が分かる可能性だってある。事故も有り得るし殺された場合も、だ」
そして 正火斗は風晴を見てニッコリと笑った。
「君は2億円を受け取れる」




