2人で行きたい道3
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆宝来総司・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
北橋勝介は話を続けた──
「オレはずっと羽柴真吾を追い続けた。羽柴と、羽柴の女を。だがある時を境にその2人共がパッタリと消息不明になった」
みんなの視線が彼に集まった。
「最後に分かっている羽柴真吾の動向は、2019年1月4日、1月6日と宝来総司と会って話してる姿だ。そして1月7日の夜、宝来総司は空きビルの非常階段から転落死してる」
彼は隣にいた正火斗に、距離はあったが掴みかからんばかりの勢いで言った。
「なんの用事があってA県の市長が東京の空きビルの非常階段を登る? 君の父親は十中八九 羽柴に呼び出されて…………殺されてるんだとオレなら思う。君も気づいているはずだ!
オレと君の親族は両方とも、羽柴に殺されてるってことになる。オレはあれから6年行き詰まってる。頼むからオレに力を貸してくれ」
正火斗は口を開きかけた。だが北橋の方が早かった。
「君の妹については謝る。だが信じてほしいのは、こっちから声をかけたわけじゃない。しかもオレはコンタクトレンズだが、今朝は入れてなかった。
君達は宝来総司に似てる。大道水樹だと気づけていたら、写真を撮らせてくれだのなんだのは口にしなかった。今までも勿論何もしてはいないが、これからも妹さんには節度を守って接すると誓う。
オレは君に会いに来て、君に頼むつもりだったんだ。君の気を損ねるような真似をするほど馬鹿じゃない」
「どうかしら? だいぶ馬鹿だった気もするけれど」
安藤が頬杖をつきながら言った。
北橋は正火斗から視線を外さず返した。
「ボイスレコーダーが作動中なことを願うよ」
正火斗は北橋に言った──やっと。
「公衆電話からかけてきたのはあなたか」
ほとんど質問ではなかった。
「大道水樹についての誤解をはやく解きたかった。オレは白骨体3つ見せられて、兄貴か判別して、兄貴についての聞き取りやってる最中に抜け出させてもらったんだぞ──わざわざ。
君が知らない番号じゃ出ないだろうから、持ってるスマートフォンじゃなくて市役所の公衆電話まで行った。百円も入れた。なのに君は切るから。百円はお釣りがこないし。切ないし」
「警察には、なんて言って出てきたんですか?」
神宮寺が聞いてみた。
「婚約者に連絡を入れる約束をしてるから、どうしても時間がほしいと。結納だったのに、兄貴が見つかりそうでほっぽってきたから、破棄されるかもしれないと言った」
「…………切ないですね……」
椎名はどこかに共感したようだ。どこ?
「部長、まさか出だしで切った? ちょ──とは聞いてあげたら良かったのに。まあ、ちょ──とくらいは、さぁ」
桂木も同情的だ。
正火斗は北橋に聞いた。
「申し訳ないが、あの電話では切られて仕方ないかと思います。僕の番号はどこで? 水樹はそれは言わないはずだ」
「言わないわよ」
離れたところから水樹は同意した。
北橋はニヤリとした。
「それは企業秘密ってヤツで。全部を話したらさ、君はまたオレのことはどうでもよくなりそうだから。手持ちのカードを今ここで全ては きらないよ」
「ちょっといいですか?」
安西が手を挙げた。
「この話だけなら部長や水樹とすれば済むはずです。僕ら全員呼ぶってことは、お二人は何を望んでいるんですか?」
「いいね。頭の良い子達は。話が進むよ」
北橋は座り直した。
「司法解剖はこれからだが、オレは兄貴を確認した。兄貴が奥さんと そろいで買ってつけてたチェーンが絡んで残っていたんだ。一体は確実に田所高文だ。
オレは明日S県の兄貴の昔の奥さんに報告して、それから兄貴の家にもいくつもりだ。それに、大道正火斗について来てもらいたい。君なら、オレが見落としてた何かを見つけてくれるかもしれないだろ」
「なんでそんなに僕なんですか?」
「羽柴真吾と女の手がかりがなくなってからは、オレは宝来総司と君達を調べた。君は全国でも常にトップクラスの成績だし、グローバルアーバスの社会哲学誌に載った論文も良かった。ただの頭でっかちではなくて、役立つ能力者レベルだと」
「ちょっと待って。グローバルアーバス誌なら英語でしょ?」
安藤が2人に言った。
「英語で書きましたよ」と正火斗。
「英語を読んださ」と北橋。
「オレは気狂いの変態だったとしても、馬鹿じゃない。UCLも出てる。そら、名誉毀損は成立した」
「「UCL!!!」」
ミステリー同好会メンバーはざわざわした。
風晴は全然ピンとこない。
隣りの椎名が
「ユニバーシティカレッジロンドンっていう、ちょっと名の知れたイギリスの大学なんです」
と教えてくれたのでだいぶ助かった。
同時に真淵聖がなんだか懐かしくなった。このハイレベル集団の中では肩身が狭い。
安藤星那は流石に顔色を変えたが、それでも冷静だった。
「人が真に馬鹿か賢いかは、点数や学歴だけの基準では判断できないわ。自身への愛、身近な相手や仲間への配慮や礼節、社会への参加・貢献、世界に向けた視点・意識。そういう人間性の基盤がなければ、何を上乗せしても、できあがるのは性格の悪い愚か者よ」
(人文社会研究科っぽい意見だなぁ……)
と安西は密かに感心していた。
向いた安藤の方には水樹も座っていて、一瞬だが目が合う。
彼女はそらして うつむいた。
北橋が話しを戻す。今度は正火斗に体を向けて言った。
「とにかくオレは君と行きたいわけだ。でも君はオレと2人だけなんて嫌だろうから──だから同行者がいてもいいってことさ。オレの車は5人乗りだから、あと3人は誰がきても構わない」
「それから……」
続きを安藤が引き取った。
「行きそこねたメンバーは私について来ない? というか、私を使わない?」
思いもかけない申し出だった。
「君達、ミステリー同好会なんでしょう? 顧問が見つけた大事件を、黙って見て夏休みを終わるなんてつまらない連中じゃないわよね? 何か調べたいことがあるなら車で連れてってあげるし、私が朝毎新報の名を出してもいいわ。────ただし!」
彼女はニッコリと笑った。
「得た情報はちゃんと私とも共有しましょう。それだけが条件よ」
お──……と感嘆のような声が高校生達の方からは上がった。
ミステリー同好会メンバーは安西の提案で、一度自分達の部屋で話し合いをしたいと言うことになった。
ソファや椅子から立ち上がりゾロゾロと廊下に向かう。
充分に静かになってから北橋は口を開いた。
「うまくいったな」
「ええ。あなたの言った通り彼らの面倒をみれば、顧問の桜田孝臣は絶対に私を無視できなくなる。独占インタビューも有り得るでしょね。この事件関連の情報も手に入るし。悔しいけど、コレ悪くない案だわ」
高校生達が戻ってくるのを待ちながら、北橋はゆっくりした口調で言った。
「オレは馬鹿じゃなかったろ? 星那ちゃん」
彼の方は見ずに安藤は返した。
「ボイスレコーダー、ホントにまだ作動中なんだけど」




