それぞれの行きたい道
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆真淵耕平・・・灰畑駐在所勤務。巡査部長。
◆真淵聖・・・耕平の長男。農業高校2年。
◆北橋勝介・・・フリージャーナリスト。
◆安藤星那・・・朝毎新報・新聞記者。
ミステリー同好会メンバーは女子部屋に入り、北橋や安藤と2つに分かれて行動することについて、意見を言い合った。
今回に限っては(?)1番乗り気がしていないのは、明らかに正火斗だった。
が、これには次々と反論が起こった。
「車は相当ありがたくないか? 電車代とか待ち時間無くなるわけだし、この暑さの中歩かなくていいなんて。もう、
この話受けることしか考えてなかったんだけど、オレ」
と桂木だ。
「2つに分かれるってところがむしろメリットだよ、これは。僕らは後で両方の情報が得られるんだから。安藤さんに情報を渡しても、それは半分で済むってことだ」
これは安西。
「部長、少しだけでも北橋さんに協力してあげたらどうでしょうか? 9年追い続けるって…………結構凄いことだと思うんですよ。だって、私達の人生の半分以上なんですよ!」
優しい椎名は 北橋に同情したようだ。
「部長が北橋さんとS県に行ってくれれば、僕は安藤さんと丸1日過ごせるってことですよね。どこに行こうかなぁ。安藤さん何が好きなんですかね。聞いてみるところからですよね、まず」
神宮寺はもはや調査する気もない。
だが、極めつけは水樹だった────のかもしれない。正火斗にとっては。
「安藤さんとは得た情報を共有するって話しになったわよね。北橋からは…………兄さんが聞いてきてよ。彼、兄さんを物凄く気に入ってるじゃない? いつもの処世術でやってやってよ」
正火斗は片手を額に当てた。
「水樹、僕は中年のオジサンを落とすシュミがない。あまり近づきたいタイプでもない」
「お願いよ。聖の前では…………男にクネクネしていたくないのよ。なんか嫌なのよ、彼の前では」
正火斗は"おや"と言う顔で妹を見た。
安西は無表情だが、水樹を見た。
「なんて言ったらいいのか──
そう、なんか……聖の前だと"夫を亡くした母親が、新しい彼氏を作ってイチャイチャしてるのを息子に見られる"かのような気持ちなのよ。罪悪感がハンパないの。聖が明日来るのは嬉しいけど、彼の前で北橋に会うことがあったらどうしようとも思ってたから。
今回こういう話になって本当に良かった…………」
と水樹は息を吐いた。
正火斗は
「なんなんだその例えは」
と言ってはいたが、微笑みを浮かべていた。
安西は水樹を見つめたままだったが、何も言わなかった。
風晴は少し水樹の気持ちが分かる気がした。
なんとなく、なんとなくなんだが、何故か聖には──人間の汚い部分のようなものを見せたくないんだ。彼は傷つきやすい。もしくは、もう充分傷ついてきたのではないか。
「桜田はどう?ってか、オレ思うんだけど…………」
風晴は呼ばれた方を向いたが、桂木は後の言葉を続けた。
「桜田は北橋さんの方に行ったらむしろいいんじゃないか? 安藤さんは、桜田にお父さんのことやら何やら聞こうとするかもしれない。でも、北橋さんは自分の兄貴──田所高文一直線! って感じじゃん、完全に。だからさ」
なるほど。桂木の言いたいことは伝わってきた。
「気が楽かもってことよね」
水樹も同意した。
「安藤さんに余分な情報を渡すリスクも減る。勿論、僕らは何も知らないって言うさ。知り合って間もないからって」
みんなが うなずいてくれた。神宮寺も。ちょっと彼は心配ではあるが。(脳内にシーソーがあるなら、絶対彼の中では風晴より安藤星那に重きが置かれているだろう。正火斗があの扱いなのだから)
は────っ…………と長いため息が聞こえ
「分かった。分かったよ。みんなもう決定なんだな? あの2人の提案にのる…………と」
正火斗は片手を少し上げて、1人1人に確認するかのように所作した。
これにも全員がうなずいた。勿論風晴も含めて。
翌日の朝──
昨夜のうちに、風晴と正火斗を除くメンバー達はくじ引きをして2つに分かれた。
結果は、
北橋班──正火斗、風晴、安西、桂木
安藤班──水樹、椎名、神宮寺
となった。
女性陣に囲まれることとなった神宮寺は
「男1人ですが、よろしくお願いします」
と恥ずかしそうだが幸せそうに同車メンバーに言った。
が水樹は
「大丈夫。聖がこっちに入るから。向こうは満員だもの、こっちに決まってるわ。仲良くしてあげてね」
と第二の母親のように後輩達に言っていた。
だが明朝 真淵聖が合流して、その事件は起こった。
聖は到着して、分けられたメンバーを知ると
「僕……桜田くんと…………行きたい」
と言いだしたのだ!
水樹は慌てて
「なんで? なんでなんでなんで聖? ジュースも用意したし、飴もお菓子もあるよ? 全部聖にあげるよ! あげるから! だから私と一緒に行こうよ!!」
と自分より背の低い聖の肩をつかんだ。
聖は水樹に驚いたようでしばらく静止していたが、やがてハアハアと息をつく水樹に向かって言った。
「桜田くんが……僕がいた方が……良かったって。1人じゃ……ダメなんだって」
そうして聖はニコッと笑った。ニコニコになった。
瞬間、風晴は頭を抱え込んだ。
水樹は驚愕の表情で聖の肩から手を話し、数歩下がっていく。彼女はよろけながらも、なんとか風晴の方を向いた。
「桜田ぁ!!! あんた何してくれてるのよ! 昨日でしょ? 昨日なんでしょう? 私のいないところでそんなやり取りしていたわけ? あんた、一体何の抜けがけよ! もう!!」
風晴は恥ずかしさと(かなりの)ややこしさで顔があげられない。
(クソッ! 確かにオレはそれっぽいことは言った。だけど……)
と訂正したい気持ちは物凄く湧き上がった。だが、聖の眼前で否定の言葉を使ったら? アイツまた"間違えた"って、ひどく落ち込むんじゃないか? 風晴は苦悩の果てに次の言葉を選んだ。
「悪い。……オレが 悪い。ごめん」
その一言で、水樹は今度は半泣きになった。民宿の門の道路に彼女はしゃがみ込んで伏してしまった。
北橋と安藤は高校生の一悶着を見ていた。
北橋は
「どういう修羅場だ? あれ?」
と聞いたが、安藤は
「多様性の時代だから」
と首を振った。




