振り返るとき3
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆宝来総司・・・正火斗、水樹の実父。元陽邪馬市市長。桜田晴臣が行方不明になる同日に転落死。
正火斗は話し始めた──
「ここA県では、昭和の半ば頃から2022年まで大倉度産業という老舗企業が幅を利かせていたはずだ。あちこちに子会社を持っていて、海運業、船舶、木材、医療、家電製品と手広く事業を行っていた。だが、大倉度産業は強引な商法で評判が悪い。陽邪馬市の子会社に至っては────反社会的な人間達が出入りしている噂もあったんだ」
風晴は近隣での、聞いたことのない世界の話しに驚いた。
確かに幼少の頃から暮らしていて、大倉度産業の名は度々耳にしていた。そういえば、いつの間にか聞かなくなって…………
「大倉度産業と陽邪馬市議会は何年も…………何十年も前から繋がっていたんだ。正式でない違法なやり方で、彼らは双方で甘い汁を吸っていた。
摘発されたのが2021年だ。癒着が明るみに出て、逮捕者が山ほど出た。当時の市議会は当然解散したし、大倉度産業と暴力団にも捜査のメスは入った。それから一年後には倒産してる」
「でも、それじゃあ…………」
風晴は思わず手を口にあてた。
「そうだ。僕の父と君の父は、その真っ只中にいた。だが…………君の父親はほとんど関わってはいなかったのだと──僕は思う。何故なら、大倉度産業と"桜田建設"が犬猿の仲だったからだ。
大倉度産業の息がかかった議員がいても、君の父親を誘おうとはしないだろう。実家なのだから」
風晴はうなずく。そして正火斗を見た。
続きを促したつもりだが、正火斗は目をそらした。それでも 話は続けられた。
「だが、そこに宝来総司が市長として来てしまった。A県史上最年少・新人市長として。かつて同級生で親しくしていた、神城総司が」
2人は今度こそ向き合った。正火斗はゆっくりと口をひらいた。
「宝来総司は……市長だからと暴言やパワハラを強いたわけじゃない。そういう記録はない。
出身はA県でも、彼は東京で弁護士をしていて家族も……僕らも向こうにいたんだ。
選挙活動に宝来の金をつぎ込んで、"地元に戻って参りました"の売り文句で当選した。地元にいくらかは後援者がいても、議員にそんなに知り合いはいなかったはずだ。
いや、そのわずかばかりの後援者や有力議員達に、父はむしろ命令されていたんだ。
"これまでどおりの付き合いを大倉度産業としていけ"と」
正火斗はうつむいた。
「すまない」
どうしてか彼が謝る?────どうして?
「それで…………悩んだ僕の父親は、君の父親に……頼ってしまったんだと思う。かつての友人に。そして僕らの父親達は 相談した結果、彼らと手を切りたいと思ったはずだ」
風晴は気がついた。気がついて、しまった。
「2人は殺された?」
その言葉をどうしても確かめなければならなかった。
正火斗は苦しげな顔をした。彼は考えてから言葉を慎重に紡いだ。
「2人共今まで証拠は無かった。
僕の父親は警察の発表では転落死で事故扱いになっている。
だが、東京とA県に離れているとはいえ、知り合いの二人が同日夜に亡くなっているのは…………どうしても、計画性を感じる」
「しかもオレの父さんには銃痕があった」
正火斗は首を振った。ごく、わずかに──だが。
「まだ君のお父さんかは分からない。司法解剖の結果が出るまでは」
それから彼は姿勢を変えて、膝に手を置いて前を向いた。
「君に言わなければいけないのは、ここからなんだ」
「え?」
思わぬ展開の話しが続いて、風晴は身構える。
これ以上の事実はないと信じたかった。
「僕はあちこちに残っていた資料やデータや記事からこの話を推理──悪く言えば空想しただけだ。
かつての不正な事業や金の流れは立証できても、その時その時の人の行動と心理まで届くような手がかりは残ってなかった。
今回予想以上に黒竜池の調査結果が出てしまって警察もミステリー同好会メンバーも動きだす。
新たに浮かぶ事実が僕の空想を超えるもので、逮捕できるような犯人が存在するのならそれが1番いいだろう。
だが僕のすでにした推理が当たっていれば、追う先に待つものは……一般人ではなく反社会的集団の可能性もある」
「そういう人達は……全員捕まったんじゃないのか?」
「いいや。彼らは 表面上差し出すべき人員は割いても頭は残す。一掃されたわけではないと思う」
正火斗の否定は説得力があった。
「万が一にも、万が一にも、同好会メンバーが犯人探しをしているとばれて狙われ出したら、僕らはこれを全てメンバーにも打ち明けるべきだろうし…………」
一度話を止めて、彼は風晴を見る。
「最悪、僕らの父親達が陽邪馬市の癒着事件に関わっていたことを世間に公表しなければいけなくなるかもしれない。
隠したいものをバラまいてしまえば、追求する意味が向こうにも無くなるからだ。直接関連した犯人は抵抗を続けるかもしれないが、組織としては手を引くはずだ」
ここで正火斗からは ため息が溢れた。
「だが公表は……諸刃の刃だ。
どんなに詳細に練って"僕らの父親は不正と手を切ろうとして殺されたと思っています" と高校生が訴えても、邪推する輩はどこにでもいる。
水樹にはもう全てを話してあるが、あいつは もしそうなっても公表の判断は君に任せると言っている。
正直、僕らにとっては宝来総司も思慕募る父親ではないんだ。彼は会う時は優しかったが、たまにくる母の男の1人でしかなかったから。
しかも僕と水樹は姓も変わっていて、宝来総司がどう話題にされようと、影響はおそらくほぼ無い」
確かにそうだ。
「でも君や桜田風子さんは違うだろう? "自殺を認めたくないからじゃないか"だとか"愛人の件を揉み消そうとしてる"だとか…………蒸し返す必要のなかった言われない噂にまた晒されるかもしれない」
風晴は呆然としながら話を聞いていた。
正火斗は最後の一言を告げた。
「君はそれでも この事件を追う覚悟があるか?」




