これまで来た道2
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
孝臣が風晴に向く。
その目は少し潤んでいた。
「──ああ。だが風子さんの気持ちを思うとな。どうしても調べさせてくれと私からは言えなかった」
「なんでだよ? はやく見つかるのって良いんじゃないか?」
桂木が思わずという感じで発言した。
「ばかっ」
と言う水樹の小さな声が後を追う。
風晴は自分が言わなければと思って述べた。
「後追い自殺の噂があったから──だ。父さんの遺体がもし見つかっても、一緒に愛人の遺体も絡まって出てきたりしたら……」
ただの噂が、まるで噂ではないかのようになってしまう。
風晴はその部分は言葉に出来なかった。
それは母自身を傷つけるだろうし、また周囲の晒し者になってしまうかもしれない──陽邪馬市であったように。
重苦しい沈黙が広がった。
だが正火斗はそれを破った。
「情報として捉えよう。
"後追い"と言われるということは、相手はこの2018年に行方不明になっている今井薫子なんだな?」
正火斗はみんなにも見えるように、自分の持つ事故・行方不明者リストの用紙を畳に広げて その名前を指さした。
「そう──父さんの秘書だった。オレ自身は直接は会ったことなかった……気がする。確かに議員になってからは父さんは家にいることは少なくはなってた。でも……でも当然、接待や仕事が忙しくなったんだって! オレと母さんは、そう信じて暮らしてた!」
思いがけず語尾が強くなっていき、風晴は自分でも驚いていた。
ハアハアと荒い息で彼の肩が揺れる。安西が風晴の麦茶のグラスを渡してくれた。風晴は黙って飲んだ。
風晴が幾分落ち着くのを待っていたかのように、正火斗は孝臣に向かってきいた。
「今井薫子が行方不明になったのはどういった流れなんです? そもそも桜田家も今井薫子もこの時は陽邪馬市にいたのに、この灰畑の黒竜池に沈んだと言われているのは何故なんですか?」
確かに何も知らないミステリー同好会メンバーにとっては、不自然な点だろう。
「今井薫子については目撃者がいるんだ。その目撃者の目の前で、黒竜池に飛び込んだそうなんだ」
「その目撃者はどこの誰なんですか?」
正火斗はさらに追及する。
「この民宿の隣の家の西岡家の娘だ。娘と言っても、もう40過ぎてるかな。関東で働いていて普段からここにはいないが、その時は帰省してたんだ。
今井薫子とは小学校中学校の同級生で、仲が良かったらしい」
「あ!」
安西が声を上げて皆がそっちを見た。
「どした? 秀一?」
桂木がきいたが 安西は風晴の方に顔を向けた。
「僕が下で会ったのって、その……」
「うん、アレが母親の西岡幸子。あの人そんなデカい娘さんいるなら結構年なんだろうな。なんか昔っからあの体型でフケてるから、逆に15年くらい変わってない気がするんだよ」
「たまにいるよな、オバサンで。美魔女の真逆みたいなの。どこかの時点で中年飛びこえて、そっからずぅっと婆サンなの。"いつまでも変わらない"残酷版」
桂木の発言に、高校生達はうんうんと うなずき合った。
孝臣は賛同を控えた。
そして話は戻る──
「何にせよ、西岡の娘は見たんだそうだ。
彼女から久しぶりに会いたいと言われて会って、話しを聞きながら薄暗い夕方に二人で歩いていて、黒竜池まで行った。今井薫子は"もう私は限界だ、死にたい"と叫んで、目の前で池に飛び込んでしまった"と言うことだった」
「聞いたら今でもすげぇ詳しく教えてくれるぜ、西岡さん。"あたしの娘がね"って。きっと3時間くらいかけて」
風晴が付け足した。
「目撃者の証言としては今のでもう充分ってことにしようよ」
安西が慌てて言う。
「たとえ遺体は上がらなくても、今井薫子の自殺は疑う余地がなかった。ずっと会ってなかった旧友をいきなり西岡の娘が殺そうとするのも不自然すぎる。動機も得もない。そして直前に話していた悩みは、仕事のことと恋人のことだった。
具体的には桜田建設が厳しくなってきていて変な仕事が増えているとか、恋愛がうまくいってないってことだけだったはずなんだが。────たまたま桜田晴臣の秘書だったことから、噂が捻じ曲がって2人が不倫関係だったんじゃないかと勘繰る奴らが出てきてしまった」
「そんな……! ひどいですよ!」
椎名は怒っていた。
風晴は"ありがとう"を口にしたかったが、今はできず黙って胸の内で感謝をした。
「だが噂だけならまだ良かったんだ。最悪だったのは、その噂の真っ只中に晴臣兄さんが行方知れずになってしまったことさ──しかも、その黒竜池付近で」
「あのう……ずっと思っていたんですが……」
おずおずと神宮寺が聞いた。聞いてもいいものか、彼は迷っている。
「晴臣さんが生きているって可能性は ないんですか?」
────静寂が広がる。
横目で風晴を一瞥してから、孝臣は口を開いた。




