これまで来た道1
ー登場人物紹介ー
◆桜田風晴・・・田舎の農業高校2年。
◆桜田風子・・・風晴の母親。民宿を営む。
◆桜田晴臣・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。
◆桜田孝臣・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。
◆大道正火斗・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。
◆安西秀一・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆桂木慎・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。
◆神宮寺清雅・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
◆椎名美鈴・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。
風晴は心を決めた。
みんなは彼の発言を待っている。
どこから話したらいいものか────彼はとりあえず父親の実家を思い浮かべた。もう、記憶はだいぶ荒くなっているが。
「父さんの実家は、隣の陽邪馬市で名のある建設会社だったんだ。
桜田の祖父が開業してそれなりの企業になったはずだけど、10年前くらいから事業が苦しくなって…………今はどうなってるかはオレ達は知らない」
オレ達というのは自分と母のことだ。
そこで叔父である孝臣を見る。
「私は20代で勘当されたんだよ。男4人兄弟の末弟だったし、あの家にとっては価値がなかったんだろう。
あっさり出てって良いと言われて、それきりだった。
晴臣兄さんの件が起こって、確認しなければならないことでは何回か連絡を取ったが。それから今はまた関わっていないんだ。現状はサッパリだ。
会社はまんま“桜田建設"って名前だ。検索したら何か出てくるかもしれないが……」
「桜田建設って名前結構あるあるっぽいですよね」
「廃業してもホームページだけ残ってるのも意外とあるし」
椎名と神宮寺の一年生コンビの発言だ。
「とりあえず話しを進めるよ。父さんは──桜田晴臣は、そこの長男だったんだ。元々銀行員をしていたってきいてる。
本人はそれでも、祖父の会社を背負うことについてはゆくゆく受け入れるつもりだったんだと思う。だけど祖父の考えは違ったんだ」
孝臣だけがうなずいた。風晴は言葉を続ける。
「多分なんだけど…………父さんのすぐ下の弟の和臣叔父さんに会社経営を任せる話しになったみたいなんだ。それで父さんは銀行を辞めて議員付きの経理職員に仕事が変わった」
風晴の頭の中で──父と母の話し合いの声がする。
自分がプラレールを組み立ててドクターイエローを走らせている横のテーブルで、父と母は向き合っていた。
(あなたは、それで本当にいいの?)
(仕方ないさ。あの人は言い出したら止まらない。……昔からなんだ……)
父は手のひらで顔をおおっていた。母は そんな父の肩に手をおいて、ゆっくりとさすっている。
「お父さん、その後市議会議員に立候補するんだよね? 桜田の社長はお父さんを政治家にしようとしたってこと?」
安西の声で風晴は現実に戻った。問いに急いでうなずく。
座っていた姿勢を少し変えて、孝臣が頬杖をつきながら言った。
「三男の光臣が東北経済産業局に採用になったんだ。光臣は頭は本当にできてたが、総務課にねじ込めたのは親父が手を回したんだと思う。
何にせよ親父は、それでもっと桜田の一族が勢力を広げる夢を描いてしまったんだろう。
だが光臣はコミュ障気味で、人前に出るとか演説やらは無理だった。和臣は馬鹿だった。それで、結局兄貴にお鉢が回ったんだと思う」
今度は風晴が聞く番だった。そこまでの背景は知らなかったのだ。
「兄貴はなんでも そつなくこなすタイプだった。生徒会もバレー部の部長も。全体を見て、困っているヤツがいれば手を伸ばしてくれた。人徳もあった。そういう面を親父は利用したんだ」
ハア……と孝臣が息をはく。
「私が勘当された理由は──大学に残って研究を続けたいと頼んだら"金にならない研究などやめろ"と言われたことだった。
勢いで桜田の家と縁切りになったが、当時の私には馬鹿なことに貯金の一銭も無かったんだ。結局大学院を諦めようとした時──
兄貴が、晴臣兄さんが連絡をくれたんだ。
"金のことは自分に任せてお前は研究を続けろ"と。
あの頃兄貴はもう銀行員だった。だが収入の半分以上を、あの時私に回してくれていたんだと思う」
誰も何も言わなかった。
でも少なくとも風晴は気づいた。
孝臣叔父さんは父さんの援助で地質学研究者になった。そして、その力で今兄を見つけようとしている。
「叔父さんは、もっと前から黒竜池を調べたかったんですか?」
風晴は率直にきいた。
引き続き宜しくお願い致します。




