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炎と水と〜黒竜池に眠る秘密〜僕達の推理道程【改訂完了版】  作者: シロクマシロウ子
旅支度編

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これまで来た道3

ー登場人物紹介ー


桜田風晴さくらだかぜはる・・・田舎の農業高校2年。

桜田風子さくらだふうこ・・・風晴の母親。民宿を営む。

桜田晴臣さくらだはるおみ・・・風晴の父親。市議会議員だったが、6年前から行方不明。

桜田孝臣さくらだたかおみ・・・晴臣の実弟。ミステリー同好会顧問。地学教師。


大道正火斗だいどうまさひと・・・ミステリー同好会部長。高校3年。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・・・ミステリー同好会メンバー。正火斗の妹。高校2年。

安西秀一あんざいしゅういち・・・ミステリー同好会副部長。高校2年。父親は大道グループ傘下企業役員。

桂木慎かつらぎしん・・・ミステリー同好会メンバー。高校2年。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。

椎名美鈴しいなみすず・・・ミステリー同好会メンバー。高校1年。



  黒竜池事故・行方不明リスト(桜田孝臣 作)


 2019年1月8日 A県 陽邪馬市 桜田晴臣(44歳)


 2018年12月23日 A県 陽邪馬市 今井薫子(36歳)


 2016年 8月 S県 安良市 田所高文 (31歳)


 1998年 5月2日 名前非公表 (7歳子供)※生還


 1987年 11月 A県 灰畑町 馬場洋子 (70代大人)


 1955年 アカガワ セイ 住所・性別不明 (大人)


1940年頃 A県灰畑町 氏名不明・性別不明(子供)※生還


1920年頃 住所不明・氏名不明・性別不明(大人)

      住所不明・氏名不明・性別不明(子供)※救出


 約120年前  A県灰畑町 氏名不明 (子供)

 

 


「晴臣さんが生きているって可能性は ないんですか?」


 神宮寺の問いかけに、孝臣はチラリと風晴を一瞥(いちべつ)してから口を開いた。おそらく風晴の位置からは見えなかっただろう。


「ゼロとは言えない。遺体は無いわけだからな。だが1月8日に森から黒竜池の水辺付近にかけて2人分の男と見られる靴跡が見つかってる。雪は前夜にうっすらと降ったもので、明確な痕跡(こんせき)だったそうだ。

そのうち一つは行った痕跡はあるが、帰りの足跡が()()()()。それが晴臣の履いていた靴底と一致してるんだ」


 誰もが何も言わないが──明確な決め手だ。

 正火斗も言葉は発せず、ただ深くうなずいた。


 風晴はうつむいてきいていたが、顔は上げずに話しだした。


「父さんに1月7日の夜に何があったのかは分からない。だけどオレは自殺じゃないと思っているし、()()()自殺なんかでも絶対無いと信じてる」


 正火斗は風晴に目を移した。他の者も彼を見る。


「桜田の家に最後の挨拶に言ったとき、母さんは(ひど)い言葉をみんなに投げつけられた」


 風晴の頭の中に蘇ってくる。鋭利な刃物よりも残酷で凶悪な悪意の言葉の数々。


 "何というツラ汚しだ。事故死の方がまだ世間体が良かったのに"


 "昔から気の弱いようなところがあったさ。女に骨抜きにされたか ヤクザ者に脅されて足を滑らせたんだろう"


 "なまじ議員なんかになってイイ気になるからじゃないか?あぁ旦那がやらかすとさぁ、ほんっと可哀想だね、奥さんと子供が。みじめなもんだよ"


 風晴は顔を上げた。

 視線の先には正火斗がいた。


「でも母さんはそいつらに言った。

 "あなた方は何も晴臣さんを知らない。私は 私の知っている晴臣さんを信じる。これからもそうやって風晴と生きていきます" って」


 正火斗は刹那──その場を動けず たたずんだ。

 二人の目と目が合う。

 風晴は言い切った。


「だからオレはそう言った母さんを信じていく

 ────死ぬまで」








 話し終えると風晴は、夕食の支度を手伝うからと一階に降りて行った。

 部屋にはミステリー同好会メンバーと顧問と、そして静寂が残った。

 が──その部屋に妙な音が響いた。


「…………くぅ〜〜〜〜……っ!!!!」


「え?」

「はい?」

「何? 一体なに?」


 メンバー達はくるくると辺りを見回し、やがてそれが孝臣からだとやっと気づいた。


「くそっ…………ホントに、ホントにな、いいヤツだろ? 私の自慢の甥っ子は…………!!」


 孝臣は泣いていた。


 生徒達は顧問のその姿に引くしかない。


「風晴はなぁ、昔っからいい子だったんだよ。

 おねだりもな"おじちゃん1個だけならゆるしてくれる?" なんてまだ4歳のクセに言うから、もう店ごと買ってやりたくなってしまったもんだ」


 手のひらで顔を拭いながら、孝臣は思い出に浸ってる。 

 潤んだ目を輝かせながら。


 正火斗は少し待ってから──いつもは頼れる地学教師であるはずの、泣く中年叔父サンの肩を叩きに行った。


「桜田先生」


 ポンポンとやや優しめに肩を叩く。


「少しだけ教えて頂きませんか?」


「なんだ? 今聞かれてもアボガドロ定数の解説なんかやらんぞ」


「分かってます。アレは化学基礎だし、今ここで原子質量を求めようと思っていません」


 正火斗は尋ねた。無論、アボガドロ定数ではないことを。


「自慢の甥子さんは、灰畑(はいはた)町に移ってどうだったんですか? ここだって陽邪馬(ひやま)市にほど近い。それに この民宿はかなり大きい屋敷だ。桜田風子さんは購入できるほどのお金を持って移ってこれていたんですか?」


 孝臣は鼻をすすった。


「アボガドロ定数はな、地学でも使うんだ。

 桜田の家は 風子さんに晴臣のものは何も渡さなかった。風子さんは自分名義の通帳しか持ち出せなかったはずだが、彼女は二世帯型の桜田家では専業主婦だった。例えいくらか蓄えがあっても、向かった実家の方はすでに高齢の父親が野菜を作っているだけの状態だったから、風晴を連れて不安だったろう」


 ハアと息を吐いて 彼は続ける。


「ここで仕事を見つけようともしていたんだろうが、風子さんはあの頃は実家の小さな家から出られなかった。お前が察したように、ここでも誹謗中傷はあったんだ。陽邪馬市ほどではなくても。

 息子の前では気丈に振る舞っていただろうが、風子さんは限界だったんだろう。風晴はそれを見ていた」


「それから、どうなったんですか?」


 正火斗の後ろから声がかかった。桂木だ。


「灰畑で昔地主だった家系の女性が、地域の福祉支援員をしているんだ。あちこちに土地や家を持っていて不動産で収入があるから、ほぼボランティアで。

 あの2人が灰畑町に移って半年もした頃かな。風子さんの状態を見かねて、その人が自分の家を貸すから民宿をやってみないかと申し出てくれたんだ。客が入った時の収入からの割合を貸代として支払ってくれれば風晴と住んでいていいと」


 孝臣は いくぶん落ち着いてきたようだ。


「"渡りに船"だった。高齢の父親のすぐ近くだったし、収入ができるし。…………何よりも民宿にくる客はまず県外者だった。お客の相手をしていれば、彼女は中傷に合わない。そうやってやっとあの親子は立ち直ってきたんだ」


「いい方ですね。その福祉支援員の方は」


 かすかに微笑んで正火斗が言う。


井原(いはら)──とかいう名前だったと思う。私は一度だけ会ったことがあるが、風子さんより少し歳下で小柄な感じだった。まだ若い頃に旦那さんと子供を事故で亡くしてな。もう福祉の仕事に生きて一人で居ると決めてるそうだ。そんな彼女だから、風子さんと風晴を見捨てておけなかったんだろう」


 安西の頭には、一階で風晴がすすんで挨拶をしていた──品の良い中年女性が浮かんだ。


("井原さん"と確かに風晴は呼んでいた。そう言うことだったんだな……)


 安西は一人納得した。


「ありがとうございました。桜田先生。

 僕も飽和水蒸気量の時はアボガドロ定数の世話になりますよ」


 正火斗はそう言って、最後にポンと一度恩師を叩いて 去っていった。



「夜ご飯できてますよ────!!」


 階下から風子の高い声が響いてきた。

 2階にいた者達は、誰ともなく足早に その声の元へ向かった。






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― 新着の感想 ―
色々苦労した風子さん(。>︿<。) 凄い恩人に出会えて、本当に良かったです(〃´o`)フゥ… それにしても、本当に後追い自殺だったんでしょうかね 真相が楽しみです(*´ω`*)
状況的に自殺に見える。 池の周囲に足跡なんかはあったのかなあ? 地下の水路から川へ脱出! は無理か。
あぁ……私、読み違いをしていました。 ここまで特に風子や風晴が強く反論していなかったから、てっきり酷い父親で二人とも諦めているのかと思ってましたよ。 でも、言われ続けてウンザリしているのと、家族を信じ…
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