24話 容態
その夜の事だった。
1区に帰る途中襲撃を受けた。
弓による遠距離攻撃。
しかし、ザシュッ!
「ぐあっ!」
風属性の盾で矢を跳ね返して逆に射手に当てる。
「大丈夫か?」
「これは………風属性最強と言われている鳳凰結界ですか?」
エルの質問に頷いた。
「………兎に角突っ切るぞ」
皆の手を引っ張ってアマレウスの屋敷に向かうことにした。
「ディランか、待っていたよ」
「これは、どうしたんだ?」
「裏切りがあったようでな」
アマレウスの屋敷も荒らされていた。
シエスタが剣を抜いて彼の護衛を行っていた。
それからティナが杖を抜いていつもはいがみ合っているユミナを守ってくれていた。
それにしても家の中の壁に飛びついた血肉の数々はここで行われた戦闘の激しさを物語っている。
「私の作戦に協力してくれる貴族数名に声をかけていたのだが離反されたようで血判状を奪いに来たよ」
「おのれ………許せませんね。今ここで裏切るなど」
「シエスタ仕方ないさ。事実今ここで不利なのは私達の側なのだから。勝てる見込みというのが確実にある訳でもないし。それならルクスブルクに情報を売り甘い汁を吸いたいと考える輩もいるだろう」
いや、それは違うだろう。
勝てる見込みが薄いというのは違うと思う。
「ジードに協力してもらえるように取り付けた。そこに俺も加わるのだ。貴族の私兵には負けないさ」
「よくやってくれたなディラン。見込んでいた通りだ」
そう言うアマレウス。
そうしてから俺たちを見て彼は口を開いたと思ったがその前にティナが口を開いた。
「ぶえぇぇぇぇ。怖かったですーーーー」
泣きながら俺に飛びついてきた。
その後に無言でユミナも抱きついてきた。
「怖がらせたな」
2人の頭を撫でてから視線でアマレウスを促す。
「とりあえず夜が開けるまでは全員でここにいよう」
※
夜が開けるまで話していた。
今回血判は奪われず確たる証拠はないが、いずれルクスブルクに伝わるのも時間の問題だろうということ。
俺の方でも戦う準備をしておいた方がいいかもしれないな。
「ティナ」
「何ですか?」
あれからずっと俺から離れようとしないティナに話しかける。
ポケットに手を入れて彼女に指輪を渡す。
「結婚指輪ですか?」
「そう思ってくれて構わんから付けといてくれ。魔力量が大幅に上がるものだ」
「分かりました」
この先どうなるか分からない。持たせられるものは持たせておこう。
同じようなものをユミナやエル、それからレイにも渡す。
「全てSランクの指輪だがこんなものどこで?」
それを見ていたアマレウスが問いかけてきた。
「悩んでいたが話すことにする。それに時効だ。俺は監獄で殺しをしていた。所持者を殺して奪い取った。それだけだ」
「すまないな………嫌なことを語らせたのかもしれない」
「お前は俺を糾弾する立場の人間だろ?」
「この状況を長らく放置していたのは我々だ。ディランだけを責める気にはなれない」
衛兵をまとめている人間とは思えない台詞だな。
俺にとって不利なことはないから別に構わないが。
「それより、行くんじゃないのか?王城」
話を変えよう。
夜にまた王城へ行こうという話をしていた。
国王に謁見できればという考えだ。
国王の指示での武装蜂起さえできれば今敵対している貴族連中の多くもこちら側に付くことになるだろうという話だ。
「あぁ。行こうか」
※
「ルクスブルク卿」
「何だ?」
ルクスブルクとアマレウスの会話を眺める。
「本日は巷で評判の腕のいい医者を連れてきております」
「ほう。して?」
「王のご容態は良くならないと聞いております。1人に見させるより違う観点から物を見られる別の医者に見てもらうというのはどうかと思いまして。宮廷医療師と言えど。体調が芳しくないのが現状ですので」
「それは良いかもしれないな」
死んでも断りそうなものだと思ったがそう言って同意するルクスブルク。
その医者と言うのはユミナの事だ。
彼女は俺の治療を昔からしてくれているからそれもあって治療についてはある程度のことは知っている。
「では今日の診察はそこの医者殿に任せようか。付いてきたまえ」
そうしてルクスブルクに案内され王室に通された。
まだ若い王様だが瞳は閉じている。
死んでいるのではないかと思えるほど動かない。
「それでは、よろしく頼んだよ」
そう言って出ていくルクスブルク。
「失礼します」
ユミナは王の状態を見始める。
「………」
深刻な顔をしたと思えば俺の耳元で囁く。
「何だって?本当なのか?」
「本当です。ディラン様」
俺たちの会話を見て顔を顰めるアマレウス。
俺に話したということは判断は俺に委ねたということか。
話しておこうか。
「王が飲まれている薬を処方しているのは誰だ?」
「宮廷医療師だ」
「そいつはルクスブルクの手の者だよ。この王様毒を盛られてる」
「何だと?」
流石にアマレウスも驚いているようだ。無理もない。
信用されているはずの宮廷医療師本人が毒を盛っているのだから。
「しかし、何の毒を?」
ユミナに視線を向けるここから先は彼女に任せよう。
「恐らく黒爪の爪を飲まされています。このままでは危険です」
「治す方法は?」
アマレウスの質問に首を横に振るユミナ。
「かなりの量を飲まされています。不死鳥の羽でもないと………」
どんなステータスだって治す不死鳥の羽を使うしかないとユミナは言う。
だがそんなものあるわけも無い。
「さて、どうするか」
アマレウスの顔を見た。
「正直打つ手はないように思える」
「私もこればかりは厳しいです。こんなに弱られていては………」
ユミナも視線を下げるだけだ。
「俺が治癒魔法を使おう」
そう名乗り出る。
治癒魔法は苦手だがそれしかない。
「や、やめてくださいよ!ディランさん!貴方の治癒魔法めちゃくちゃじゃないですか?!貴方殺す以外に才能ないですよね?」
「………何気に酷いこと言ったなお前」
ティナがサラッと酷いことを口にした。
「だって、だってほんとに殺して治すんじゃないんですか?!ディランさんは」
「私もディランが行うのはリスクが高いと思う。治癒魔法ってすごい精度の高さを要求されるから」
レイもティナに同意らしい。
「じゃあどうするんだよ。正直に言わせてもらうとルクスブルクはこの状況知ってるんだぞ?この場には俺達しかいないそれは多くの貴族たちも目にしている」
王室に入る前に俺達は多くの貴族に見送られた。
「この状況を利用して俺達が王の状態を悪化させたと言うことだって出来るんだぞ。最悪のパターンとしては王を殺せば俺達を国家反逆者として処刑することだって出来る。むしろあれだけ簡単に通したというのはそれを狙ったのではないか?」
そう言うと静まり返る王室。
「アマレウス。あんたの作戦はとうに筒抜けでこの機会に俺達の事処理しようとしているんじゃないのかあいつは」
「………思えばそうかもしれない」
すまないと頭を下げるアマレウス。
王の協力があれば確かに強力だ。そのために俺たちは急ぎすぎたのかもしれない。
「打つ手なし………か。このまま武装蜂起をするしかないのか」
俺が呟いたところ。
「あ、あの」
おずおずと手を挙げるエル。
「私は治癒魔法を使えます。私ではダメでしょうか」
その言葉は天の恵みのように思えた。




