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……とある朝の出来事。


 今日晴天。からっとした秋晴れの麗らかな日曜日

 ダイニングで少し遅めの朝食をとり終わると、隣にいた萌が口を開く


「杏実ちゃん。カフェラテ入れてぇ~」

 

 下村家の取り決めでは朝食は各自で用意することになっている

 杏実はこの要求にこたえる義務はないとはいえ、「杏実ちゃんのコーヒー美味しいんだぁ」などと言う甘え上手な萌に、杏実は快く席を立ち始める

 

 そういえばミルクフォーマーを手に入れたのだ(ミルクを泡立てる機械だ)

 先日たまたま立ち寄ったキッチンストアで特価だったので思い切って買ってしまった。そうだ!さっそく使ってみようと、棚から新品の箱を取り出す

 いつもより時間がかかるかもしれないので、萌にはリビングでテレビを見て待っててと促す。萌は「了解~」と快くリビングへ向かっていった

 

 いつも通りお湯を沸かし牛乳も鍋で弱火にかけながら、買ったばかりのハンドタイプのミルクフォーマーを箱から取り出す

 すでに電池が入っていたようで、小さなモーター音とともに先の金具が勢いよく回り始めた


 よし……


 カフェ店員6年の経歴を持つ杏実だが、実はこれを使うのは初めてだったりする

 店長の意向でレトロなメニューしかないカフェだったことも理由の一つだが、今は業務用のエスプレッソとスチームされたミルクが完成された状態で出てくる便利な機械があり、それが導入されていたのだ


 確か……ミルクの温度管理が重要だったわよね…


 フォーマーを購入した時に、店員さんに聞いた知識を思い出しながら温度計を手にする

 コーヒーと自分用の紅茶の用意を済ませ、杏実が牛乳の鍋に温度計を入れそのメモリをじっと観察していると、突然後ろから話しかけられた


「なにしてんだ?」

「ひゃぁ!」

 その声にびっくりして妙な声を出してしまう

 心地よいテノールの響き

 杏実が振り返ると、その黒髪に寝癖を携えた颯人が不思議そうに杏実の手元の鍋を見ていた。部屋着に寝癖、しかしそんな姿でも何ともかっこよく見えてしまう。しかも思ったより距離は近くに立っており、突然話しかけられた驚きとその距離に心臓がドキドキと驚くほど鳴っていた


「颯人さん。おはようございます…」

 現在AM11時。朝の挨拶には遅すぎる。しかしその寝癖を見る限り、今まで寝ていたらしいことがうかがえる

 杏実がなんとか平静を保ち挨拶すると、颯人はニコッと杏実を見て笑いかけてきた。優しい表情だ

 その笑顔にドキッとする

 このところ颯人は杏実にこんな表情を見せてくれるようになった。身内に見せるような、優しい笑顔

 ……しかもときどき、もっと……

 

 杏実がぼんやりと颯人を見つめていると、颯人が鍋の中の温度計を指さし「温度。大丈夫なのか?」と言う。その声にハッとして再び鍋の方へ注意を戻した


 温度計はちょうど60を差したところだった


「あ……よかった」

 杏実は、鍋の牛乳を専用のピッチャーに移すと、ミルクフォーマーのスイッチを入れて泡立て始める。颯人はその様子を不思議そうに見ていた。しばらくするとキメの細かい泡が出来てきた。スイッチを止めフォーマーを外して、そのピッチャーをトントンと下に落として空気を抜くと、見事にふんわりとしたミルクの泡が出来上がった


「はじめてにしては……上出来」

 杏実が満足そうにそういって、用意していたコーヒーと紅茶にゆっくりとそれを注いでいると、颯人が話しかけてくる


「それ牛乳か?」

「そうですよ。牛乳を温めて泡立てたんです。そうすると牛乳に空気が触れて甘くなるんです」

「甘くなる?」

「はい。それに泡だけでも美味しいし……ちょっとやってみました」

「ふ~ん……めんどくせーな…」

 杏実の言葉に颯人はそう言い、怪訝そうに杏実が入れた飲み物を見ている


「ちょっと飲んでみますか? ミルクの泡って甘いですよ?」

 杏実がそう言って、まだ泡がしっかり残っているピッチャーを差し出すと颯人はそれを受け取り一口飲む


「……ん~? ……変わらん気がする」

「え~!?……そんなはずは…」

 そういわれてしまうと、杏実の先ほどの努力が(と言っても大したことは無いが)無駄になってしまうではないか。そんなはずはないと思い、颯人からピッチャーを奪うと自分でも飲んでみる


 ん…?


 もう一口


 んん………?


 もう一口……。確かに甘みがあると言えばそうだが―――――格別にというわけでもない。その時ハッと”低脂肪”を使っていたことを思いだす


「ほんと……ですね。多分……低脂肪牛乳を使っちゃったのが原因だと思います…」

 がっかりしてそう言う。もともと低脂肪牛乳は甘みが少ないのだ。これでは颯人の言う事ももっともだと思う


「脂肪分が少ないと……」

 杏実が理由を説明しようとしたとき、颯人がこちらをじっと見ていることに気が付いた


 な……なに?

「颯人さん……なんですか?」

 颯人はその問いには答えずじーっと杏実を見つめながら「そうか……これか…」とつぶやいた


 これ?

 表情からは颯人が何を考えているのかさっぱりわからない

 杏実が戸惑いながらも颯人の方を見ていると、颯人の手が杏実の腰に当てられた。驚く間もなく颯人の顔がゆっくり杏実に近づいてくる


 え……?

 キスされる!?

 杏実が驚いて身体を硬くし、ぎゅうっと目を閉じたとき、颯人のかすかな吐息とともに、杏実の上唇に何かが触れる感触がした

 しかしその瞬間、上唇をパクっと食べられる


 んっ!!??

 驚いて杏実が目を開ける


「……甘く…ないこともないか…」

「な……なんっ…」

「ん?……ここに泡が付いてたんだよ」

 そういって颯人は自分の上唇のあたりを指さす


 泡~!?

 ではさっきのは……キスじゃなくで…杏実についたミルクの泡を食べたという事だろうか


「そんな……言ってくれれば…自分で…」

「泡キスって言うらしい。昨日平田が進めてきたドラマでやってた」


 あ……泡キス!?


「……見てるときは気障なやつだな、と思ってたんだが………実際杏実にしてみると―――――まあその反応見るのも悪くないか」

そういって顔を真っ赤にしている杏実を、意地悪そうな目で見てくる


「びっくりした?」

「……しましたよ! もう! どんなドラマ見てるんですか……」


 平田からの進めとは……二人してそんな恋愛ドラマ見そうにないのに、急に影響されてこんなことをされては心臓に悪い


「ん……まあ参考にしろとかなんとか…」

「参考?」

「そうだ。ほかにもな…」

 そういって颯人は杏実を引き寄せると、面白そうな笑顔を浮かべながら片手を杏実の頬に乗せる


「あっ……朝倉さん!!」

 またなにかされると思って、とっさに颯人の名前を呼ぶ

 しかしその瞬間、颯人から不穏な空気が流れてきた。目を細めて杏実をにらんでくる


「また……忘れやがったな?」

 その声にハッと、自分が今名字で呼んでしまったことに気が付き、慌てて言い直す


「あ……颯人さん!……でした」

「今更言い直しても遅い…」

 颯人はそういうと杏実の顎に手を添え、上を向かせると「お仕置き」と言って唇を重ねてきた


「ん……」

 杏実を愛おしむように優しく抱き寄せ、何度も角度を変えて深いキスが繰り返される


「……ん…ぁ…」

 そのキスに翻弄され杏実が甘い吐息を漏らすと、それに答えるように颯人の擦れた声が耳朶を打つ 

「……杏実」


「……はぁ…」

 熱いキスになすすべもなく身体の力が抜けていく。やがて颯人はゆっくりと杏実を支えながら身体を離すと、一度杏実のキスで火照った顔を見てから、これで終わりというように、チュっと軽くキスをした


「こっちの方が甘いだろ?」

「……っ…」

 そういって颯人は、甘い蜂蜜のような蕩ける笑顔を見せた





「ちょっとぉ……私のカフェオレはいつになったらできるのよぅ…」

その様子を陰からこっそり見ていた萌は小さな声でそうつぶやく


……甘いのは颯人お兄ちゃんでしょ…


朝っぱらから練乳のごとく甘い二人のやり取りに、萌は小さくため息を漏らした






 

第50話記念。こちらに立ち寄っていただきありがとうございます!!(涙)


しかし1部、2部の颯人を考えると、変化が著しいですね~……ちなみに平田おすすめのドラマ、実在いたします。ご存知ですか?

少しは今と異なる二人をお楽しみいただけでしょうか?

初の試み故、今回の番外編についてぽちっと評価していただくか、ちょっぴり感想などいただけると幸いです。。。

今後こちらを更新するかは未定なので、参考にしたいと思います~。。。


ではでは、また本編で!!




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