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星使いティンクル・ライツ~絆は幻影とともに~  作者: 想兼 ヒロ


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第19話 迷いなき決断

「あれを墜(お)とせばいいのかな?」


「えっ」

 透き通った声が、海人の耳に届く。そのあまりの揺らぎのなさに驚き、海人はドラゴンに刺さっていた視線を下に向けた。

 そこにあった光景を見て、彼の目はさらに大きく見開かれる。


 ライツはじっと、上空にいる黒い影を見つめている。その、瑠璃色の瞳には一切の陰りはない。それどころか、爛々(らんらん)と輝いている。


「どうしようかな、あんなに大きいと叩いても意味がなさそうだよね」


 頭の中は、術の構築のために様々な思考が動き回っていた。色々と考えているのは海人も一緒だが、決定的に彼女は違う点がある。

 その思考の向かう先は、ただ一つ。「どうすれば、この状況を打破できるのか」、その一点に注がれている。自分ならできる、と心の底から信じ切っている。迷いはあっても、そこに後ろ向きな感情は存在していない。


 そんな純粋で真っ直ぐな眼差しを、海人は知らない。


(いや、うん、少し違うけど知ってるな)


――海(かい)くん、よーく聞いて。信じる力って凄いんだよ。人間、信じれば奇跡だって起こせる!


(あの人も、俺に説教する時はそんな目をしてたよ)


 何ができるか分からない。自分は結局、何者にもなれない。

 そんな、暗い目をした早くも将来を見限っていた可愛くない近所の子ども。そんな彼の未来を心の底から信じ切っている、そんな眼差しを海人は思い出す。


(ありがとう、あんたのおかげで覚悟が決まった)


 懐かしき表情を記憶から引っ張り出してくれたライツに感謝しつつ、海人は震えのせいでうまく握れていなかった剣を握り直す。

 もう大丈夫だ。とりあえず触覚は戻ってきている。海人は自分の体を思い通りに動かせることを確認しつつ、視線を空から動かさないライツの体を見る。


 その紫の目に、ライツの体に流れる力が映る。

(こいつ、なんかしようとしてるな)

 その彼女の体を駆け巡る力の奔流(ほんりゅう)を、一度だけ見たことがある。


「なぁ。あんたが怖がっていた獣がいたろ。あいつに何しようとした?」

 この場所に海人がたどり着いた時。上空から、ライツの姿を初めて認識した。その時、彼女の体には同じような力が流れていなかったか。


 海人はちらりと上空を見た。

 生まれたばかりで体が安定していないのか、ドラゴンはまるで鳥のように高く組み上げた鉄骨で羽を休めている。重量はあって無いようなものだから、鉄骨が折れ曲がったりはしていない。


 あれだけの巨体だ。こちらの世界に実体化しているだけでも疲弊(ひへい)するのだろう。

(なんだ、じゃあ、まだゆっくり対策練れるじゃん)

 思いがけない弱点に気付いた海人は自分の心が軽くなるのを感じた。


「そんで、それ、あいつにも使おうとしてるだろ。いったい、どんなのだ?」


 サソリに向かってライツが術を構築していた時は、恐怖の打ち破り方に感嘆しすぎた海人が思わず声をかけて中断させてしまった。あの時、おそらくライツは自分で何とかするつもりだったのだろうと推測して海人は問う。


 ライツはその瞳に曇りなく、真っ直ぐに言い放った。


「あたしの全力で、全部まとめてぶっ飛ばしちゃう」


「おお、勇ましい」

 海人は素直に感動しているが、彼の中にいて同じ言葉を聞いた者は違う印象を抱いたらしい。


『なによ、その頭悪そうなイメージ。あの子の中にある力、全部使ったらどんなのになるのよ。誰よ、あんな物騒な思考法をあの子に教えたの……』


 シーリスはライツのあまりに単純な考え方が気に入らないらしい。

 どうでもいいが、自分の精神世界に入っている時に愚痴は止めてほしいと海人は思う。負の感情を、耳元にずっとぶつけられる方の気持ちになってくれと海人こそ愚痴りたい気分になってくる。


「それ、時間かかりそうだな」

 こうして話している間も、ライツは術の構築を続けている。それなのに、ライツに大きな変化はない。多少、翅(はね)の輝きが濃くなってきたが、それだけで外に具現化している力は見当たらない。


「うん、ちょっと慣れない。前は、すんなりできたんだけど」

 そこで初めてライツの目が少し曇る。


 前と違うとしたら、背中に彼の気配がないこと。それだけで、明確な想像をライツはしにくくなっている。


「ふーん」

 それでも術を組み立て続けるライツを見て、海人は確信を持った。少なくとも彼女は、上空のドラゴンを撃ち落とすにはその術しかないと思っている。そして、自分の術が全てを良い方向に持っていくことを信じている。

 どうやって倒すべきか、想像すらできていない海人とは大きな違いだ。


「じゃあ、本日は助演に徹(てっ)することにしますか」


 海人はニカッと笑って、ライツに背を向けた。


「あんたはそのまま準備を続けてくれ。タイミングは任せる。それまでは……俺が何とかするから」


 海人は前に走る。ライツとの距離をとるためだ。

 作戦は、ライツに倣(なら)って単純にいくことにした。感嘆な話だ。ライツが術を組み終わるまで、何とか自分へドラゴンの注意を引きつける。


(さて、まずは挨拶しないとな。あのデカブツ、俺のこと見てすらいないんだから)


 海人は十分ライツから距離をとったところで上を見上げた。もう、初見の時のような恐怖心は襲ってこない。

 それを上回る、ライツがどんな術を使うんだろうという期待感が彼を前向きに動かしていた。


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