第六話
――リオネルが寝静まった頃、ヴィレリアはその寝顔を見て、微笑みを浮かべる。
(やっと、やっと手に入った。わたくしだけのペット)
そうしてリオネルの頬をゆるりと撫でると、ヴィレリアはベッドから降りる。
――向かう先は玉座の間である。
「お父様。ヴィレリアですわ。入ってもよろしくって?」
「ヴィレリアか。入れ」
そう魔王が言うと、扉がギギギと鈍い音を立てて開かれる。
玉座に座っていたのは、いつもと変わりのない魔王の姿。
「して、ヴィレリアよ。要件はなんだ?」
「......そんなの、お父様が一番よくわかっているのではなくて?」
「まさか、本当に実行する気か?」
「わたくしの思惑に......残念ながら、お父様は邪魔ですの」
ヴィレリアはそう言うと、聖力を集中させた。
「――≪聖女の結界・セイクリッドケージ≫」
「......これで、助けは来ません。」
「......ヴィレリアよ。どうしてこんなことをする?勇者を手に入れるのが目的だったはずであろう?」
「お父様言っていたではありませんか。『無欲な程退屈なことはない、欲を持て』と」
そう言うと、白銀に光る≪聖なる剣≫を出現させた。
これは聖女でなくては取り扱うことのできないものである。
ナイフのようなそれは、勇者の聖剣と同様、いや、それ以上の効果がある。
「――わたくし初めて殺すのはお父様って決めていましたの。だから、苦しまずに逝ってくださいまし?」
そう言うと、魔王の弱点である心の臓に埋め込まれた魔石まで剣を突き刺した。
「ぐっ......ぐあぁ......」
「......愛していましたわ。お父様♡」
すると魔王の姿はチリのように消え去り、魔石だけが取り残された。
「ずっと、ずーっと欲しかったのです。お父様の心の臓である魔石が」
ヴィレリアは魔力を使って、砕けた魔石を元通りにした。
そして、うっとりと眺めたかと思うと――魔石を飲み込んだ。
「ぐっ......これが......魔王の、魔力......なんて、甘美な苦しみ......」
しばらく、ヴィレリアは苦しみに喘いでいたが、笑みを崩すことはなかった。
(あぁ。これでやっと、一つになれますわね。お父様)
これで手に入れたいものを手にしたヴィレリアは満足気に微笑んだ。
――果たしてヴィレリアの目的とは何なのか。
「わたくしの目的に必要なものはもう全て手に入った。」
聖なる聖女の力。
対になる魔力。
その魔力を統べる魔王の魔石。
この三つさえそろえば、なることが出来る。
――≪唯一無二の神、コスモス≫に
すると、地面が激しく揺れ、ヴィレリアの足元には魔法陣が現れる。
(あぁ。これでなれるのですね......)
ヴィレリアの身体は白と黒の二色の光に包まれる。
揺れが収まったかと思ったら、ヴィレリアの長い金髪は白金に。
海のように美しかった青い目は真っ赤に染まり――
その背には美しい白と黒の翼が宿っていたのであった。
聖と魔。
相反する二つの力を宿した聖女は――
この世界に、新たな神へとして誕生したのであった。
......そして。
彼女が"神"になったことをまだ眠り続ける勇者リオネルは知る由もなかった。




