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魔族への誘い  作者: 銅 ボンド(アカガネ ボンド)
ようこそ魔族領へ!
8/14

第008話 名前

その日、私はヒト型に擬態したダニの魔族の屋敷で一日を過ごした。

ダニの魔族の擬態はとても見事なもので、屋敷で見た主人の男とその番(つがい)である婦人もはじめはヒト型の魔族と勘違いしていた。


私は勇気をもって「ドクトル」と呼んでいたスマートなスーツ姿の男に聞いてみた。

「あの・・・この言葉、わかりますかいな?」


前世は東京生まれの東京育ち。

正しいのイントネーションでしゃべれているか怪しいが聞きかじった西部方言 でしゃべってみた。


ドクトル「!!! びっくりしたわ、あんたエルフ語しゃべれるんか?」

私「これエルフ語なん?ほかの種族の人は使わへんの?」

ドクトル「あんた先週生まれたって聞いたんやけど……まぁええわ。うち魔族は、また別の言葉をしゃべるんや。ヒューマンとギガントはエルフ語に近い言葉を話すんやけど、たまに通じへん時もあるんよ。」

私「ギガントってなに?」

ドクトル「ギガントは体のおっきなヒューマンみたいな種族なんや。身長は4メートルにもなるんよ。エルフと同じで長寿な種族で、腕力がとてつもないんやわ。」


なるほど ギガントは「巨人」のことか、まぁ確かに4メートルあればでかいわな。

この世界には魔族、エルフ、人間(ヒューマン)と巨人(ギガント)がいるらしいな。


ドクトル「エルフ語が話せるなら話は早いが、あんたも私も魔族や。魔族の言葉を覚えなはれ。」

「DOCTOR(ドクトル)(医者)」と自身を私に呼ばせたダニの魔族の男も同様に白い肌をした人型に擬態していた。

語学に疎(うと)いと嘆(なげ)いていたが以外にもゴブリンの脳は使いやすかった。

生まれたてだからだろうか?吸収するように物事を覚えていった。

何より通じる言葉が見つかったのは幸運だった。


まず屋敷には2人の魔族の夫婦が住んでおり子供たちはドクトルの教育を受けた後は追い出される。

この一族は1000匹ほどの子供たちがいるようだが全員成体となり各地で血を求めて放浪している。

現在は婦人の出産が落ち着いているのかしばらく増えていないみたいだ。

私はこのダニの魔族を「メストル」と呼ぶように教えられたが、授業が進むにつれそれは「お前の主人はこのダニ一族(いちぞく)である」と言うことを刷り込まれた。

「メストル」とは魔族の言語で『MASTER(メストル)(主人)』を意味していた。


それ以外の屋敷には獣、ネズミ型やウサギ型の獣人の魔族の使用人が5人ほど屋敷つまり、主人が住まう本館で住み込みで働き、別館である隣の3階建の建物にはダークエルフが9人住み込みで使用人として働いている。

そして最近私が生まれ別館はの住人は10人となった。


ダークエルフは彼ら独自の言語を操るがそれよりもポピュラーなエルフ語なるものがある。まぁ関西弁だったわけだ。これはこの大陸のはるか西の地の巨大な森林に住まうエルフたちが操る言語で彼らの武力と魔法は魔族と拮抗するほど強力だとか。和平交渉する上でエルフ語を操る必要性が高まりエルフ語を操る魔族が多くいるようだ。このダニの一族も例外に漏れずエルフ語をつたないながら理解し操る。そして幸いしてか私のダークエルフの両親もいくらかエルフ語を理解できるとあって言葉を交わし現在の主従関係(しゅじゅうかんけい)を築くに至るという訳だった。


私はこの時初めてドクトルを通して家族の名前を知るに至る。


このダニ一族の名はギガカリウスという。

爵位は男爵。この南に位置する大陸の魔族領の小さな農地を預かっているらしい。

主人はヴァノマイト・ギガカリウス。

その妻である婦人はダニエラ・ギガカリウス。

ドクトルは専属医らしく本名をオバディア・ギャリックという。

私の母ダークエルフの女の名はオフィメイ、その伴侶として暮らしている父役はエンザレン。


ふと気になったのでどのように血を吸うのか聞いてみると、ドクトルは口を開くとにゅるりと長い舌のような器官を出した。長さは優に3メートルはあるだろうか。舌の先端には小さな棘が見え、注射針のようになっていて獲物の皮膚を傷つけて血を啜(すす)るらしい。また唾液には麻酔効果があり痛みどころか触れられていることすら感じないとか。

ちなみにこのギガカリウス一族は病気や伝染病に非常に敏感でむやみに他人を襲うようなことをしないという。使用人はドクトルの診断を受けて病気を持たないと判断された者のみこの屋敷や別邸に住まうことを許されているらしい。


私はドクトルの舌をみて思わず瞼(まぶた)を半分閉じて恐怖に後ずさる。

瞼(まぶた)を半分閉じるのはゴブリンの本能で瞳孔の形が変わるのを隠すためだ。

ドクトルはその仕草をみてギチギチと笑うと、「生まれたてやのに、そこまでの魔族のマナーを身につけてるやなんて、大したもんやわ。」といった。どうやら魔族はその本性を隠すことが美徳らしい。

もちろん自己防衛や戦闘時はマナーもへったくれもないようだが・・・。

そう思えばRPGゲームの魔王や魔族のボスキャラに幾つか形態を用意しているのにも意味があったのかもしれないと勝手に想像してしまう。


そうしてさらに1週間、私は本館に通いドクトルに師事して言語を覚えたり話を聞いたりして学ぶことを許されていた。

その間に自分の目を通して見たものをスクリーンショットできることに気が付いた。

すごい!これで絶対記憶能力じゃん、脳内ネットやべぇ。


ドクトルが教えたり黒板に書き記したりしている内容をスクショして、夜ゴブリンの体が眠りについている間、意識はネットを彷徨いながらスクショをメモに書き起こしたり文法のルールやパターンをAIと一緒に学習していく、ビバ21世紀のネット環境!


そしてどうやらこの世界の肉体と私の意識は同化しているが、ゴブリンの脳そのものに負荷をかけている感じはしなかった。

まだまだこの体の謎は多い。


それからドクトルの授業を受けながら、実は母を含むダークエルフたちも血を提供しているという話を聞いた。母は妊娠していると発覚してからは私の出産に専念させるため一度も血をもらっていないらしい。

私は母の容態に気遣ってくれた事に対し礼を述べるとドクトルは主人(メストル)・ギガカリウス男爵の目的は私にあると説明してくれた。


ドクトル「自分はこの魔族領の大陸で「大召喚祭(グレート・サモン)」の時期に生まれた魔族や。

もしかしたら、うちらの領地にでっかい利益(えき)をもたらしてくれるんとちゃうかって、みんなで期待してるんよ。

心配せんでええ、もうじきうちらの領内にもシンダーヴェイル中央都市からお触れが届くはずやから。」


それからさらに2週間、平穏な日々が続いた。

母も父もダークエルフとして私を扱ってくれていて、父役エンザレンも私がゴブリンであることを忘れかけているのか敵意を向けてくることはなくなった。


ダークエルフ語は両親の会話で、

エルフ語は日本語なので母と主人(メストル)の会話にも使える。

そして魔族の共通語をドクトルに教えてもらう。


この体に、このチート能力があれば言語に困らないぞ! 

私はこの世界でもうまくやっていけそうな気がして胸をなでおろした。

夜ベッドに入ると母は優しく額にキスをしてくれる。

母は決まって「グー ナハー、マン プンツヒェン」と優しく声をかけて寝かしつけてくれる。

私は母にエルフ語で「どういう意味なん?」と聞いてみた。

母「これ「おやすみやす、うちのちっちゃい王子様」という意味なんよ。」と教えてくれた。

転生後も両親に愛され、私は幸せを噛みしめるのであった。


◆◇◆


1週間後。猛禽類の頭をした魔族が空から現れた。 

背中に生えた翼をはためかせ、本館の入り口に降り立つと魔法であろうか?その魔族は閃光弾のようなものを空に打ち上げる。

閃光弾のような魔法は屋敷の上空で大きな音を「パァン!!」と響かせて光と共に弾けた。


ギガカリウス一族と使用人はその合図に慌ただしく本館の入り口の前に全員で集まると、

猛禽類の頭をした魔族が丸めた羊皮紙(ようひし)を広げ声高々に何かを伝えた。

後からドクトルにゆっくり解説してもらった内容は次の通りだ。


(*魔族語*)[*我ら魔族皇帝トラウドリム・クラッセドラク陛下の名の下に魔暦9326年4月に召喚者トラックンによるグレートサモンが行われたのは先達の通りである!

このドラゴンボーンクランの大陸において本年6月から9月にかけて生まれた魔物をシンダーヴェイル中央都市に集めトロッターの有無を確認する。

収集は10日後各領内に馬車を巡らせる故、新生児は漏れなく都市に集うように!これは皇令である!以上!*」


トラックンって何?と聞くとドクトルは「偉大な召喚者に贈られる称号なんや。」と教えられた。

それ地球の言葉だよね? 

異世界に死者を飛ばすトラックの当たり屋の輸送者”トラックくん”だよね? ホンマかいな? おっとエルフ語が出てしまった。


突っ込みたくなるが我慢して次の質問、トロッターって何や?

ドクトル「この世界に魂の召喚を行うと、夜空に星が増えると言われてるんや。魂は別の星から巡って現れると信じられてるさかい、『星を(スター)巡る者(トロッター)』と呼ばれてるんよ。」


私はここを離れなくてはならないのか?とドクトルに問うと、「せや」という返事が返ってきた。

ドクトルは「そのための教育でもあるんや。」と付け加えた。


冗談ではない!!!私の親はエルフだぞ!!!!

何歳か知らんが長寿種であることは疑いようがない!!!!

親が働き、私はのうのうとここで毎日ネット三昧の日々を送り100年ぐらいたったら、あの美しいままの母の胸で死ぬのだ!!!!!


私がそんな将来の願望を胸の内で描いていると本能が出たのかゴブリンの顔をしていたらしい。

この時ドクトルは私の手を初めて棒で打った。

ドクトルは「マナーを忘れたらあかん!」と私を叱ると

素直に「申し訳ご発(ざ)いまへん。、ドクトル」と半眼になると(瞼を半分閉じて)謝罪を口にした。 あれ?京風とかでも通じるのだろうか?よくわからん。

母は京風とごっちゃになってしゃべっている感じがした。

 

そうして私は教育と初めての体罰を終え両親の元に戻る。

両親にこの世界の年号を聞いてみるも、「よくわからない」と言われた。

流れで母さんはいくつなの?と聞いてみると、

母オフィメイは少し顔を赤らめて「62歳になるわ」と答えた。

私は地球の人間の尺度で「ババァじゃん」と思ってしまった。

どういう訳だか母は私の思考をそれとなく察知したらしく私のズボンをズリ下すとケツを叩かれた。

母「レディに対して失礼なことをお考えになった罰(ばつ)どすわ!」と全力の平手打ちをケツに10発食らった。

父役エンザレンがそっぽ向いて笑いをこらえて居たのを忘れない。

エンザレン!お前この野郎!スクショとったからな!助けてくれなかった事を未来永劫忘れないからな! 


私は泣きながら緑色の肌が真っ赤に腫れたケツを丸出しにして「堪忍や、母ちゃん、堪忍して」と

母の許しを別館で乞うている時、

ギガカリウス家の本館の屋敷の医務室で私の中央都市行きの準備が着々と進められていた。


ヴァノマイト・ギガカリウス(*魔族語*)「*‥‥うむでは準備はそのようにして進めていく、お前の見立てに間違いは無いだろうかドクトル?*」


ドクトル(*魔族語*)「*はい、ダークエルフの混血といえどあれは『ロード級』の知能を持つ器かと・・。ゴブリンの成長は早い。優秀な師と出会えたら後2,3年で頭角を現すと思われます。*」


ヴァノマイト・ギガカリウスは「ゴブリンロード・・・」とつぶやき、

ドクトルの部屋に開いたままの大きな魔族の図鑑をめくりゴブリンの押絵をなぞる。

そしてチョークを手に取り黒板に・・・


”ZRAAMUCS(ズラームクス)”


と名前を記した。

ここまで来て主人公の名前を決めていなかったなかったことに気づく。

奴隷や使用人はご主人様の所有物です。

名前もご主人様から頂きます。

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