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魔族への誘い  作者: 銅 ボンド(アカガネ ボンド)
ようこそ魔族領へ!
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第005話 誕生

痛い!

痛覚以外の感覚がない。ただただ痛い!死ぬほど痛い!

あれ?逆だ、生まれるんだ。生まれるほど痛い!


頭の上から爪先までビリビリとした痛覚が駆け巡る。

「足がつる」あの痛みが全身の筋肉に起こるような異常な痛覚。

同時に体全体がギュっと絞られ圧迫される。

ここから出ないとやばい!死ぬ!


すぽんと出てきて、こんにちわ、お母さん♪とかそんな生易しいものじゃない。


次は頭痛がひどくなる。これもまた違う味わい深い痛みだ。

西遊記の孫悟空が頭にはめている輪「緊箍児(きんこじ)」というアイテムがある。

三蔵法師が悟空に手を焼いた際に「緊箍呪(きんこじゅ)」という呪文を唱えると輪が縮まり、悟空の頭を強く締め付けて苦しめるものなんだけど、あれは反省しろ、生まれなおしてこいって意味なのか?

鉄の輪が頭を締め付けるとか怖い!痛い!ギブ!キブ!ナムサン!

私の今の痛みのイメージとしてはまさにそのような鉄の輪が頭を締め付けるような感覚だ。


徐々に頭の痛みが額から目のほうに降りてくる、どうなってんだ!痛い!やめて!もうライフは1よ!

すると鼻の周りから後頭部を締め付ける感覚が通り過ぎると「べしゃ」という音と共に、久しぶりに重力と空気を肌で感じた。

ぐぅ・・床が固い。

 

不思議と体が動くが鼻とのどが詰まって苦しい!

肺に空気を取りこみたいが吸い込めない。

吸えないなら吐くしかないと思いつつも、そもそも肺に空気が入っていない。

すると鳩尾(みぞおち)がキュッと引き締まり本能的に空っぽの胃袋から食道を通り気道をわずかな空気が駆け上がると喉を通してゲップが詰まっていた血栓や膜を口や鼻から押し出した。


そうしてこの世界の空気と共に血の香りを吸い込むと、

今度は初めて空気で膨らませた肺が熱い!痛い!

本能的に声が出る 「やあああ やあああ やああああ」


こうして私は生まれたベッドのシーツの上でただ一人産声を上げる。

次第に肺がねばつくこの世界の空気を取り込むことに慣れてくると私は呼吸を覚えた。

不思議と手と足の感覚があり割と体に力が入る。

体を自分で起こせるほどに。

目をパチパチと瞬きさせてあたりを見回すと私だけがベッドの上にいた。


そして壁際に番(つがい)と思わしき男女が驚いた顔で地べたに座り抱き合っているのを見つけた。

女の顔は若く10代のようにも見えるが体は成人しているようだ。

女は褐色の肌に黒いウェーブが掛かった背中まである髪をしていた。

女の頬にかかる黒い髪の隙間から尖った耳の先端が見えている。女は汗ばんで濡れたシーツのような寝巻のドレスを着ていた。彼女の足元には点々と濡れた血の跡が床を伝い私の腹から伸びている臍の尾が血の跡の方向に伸びていた。


女を抱える男は褐色の肌に金色の髪を短いポニーテールにしていた。

男は私を警戒するように睨みつけていた。

男のほうにも特徴的な尖った耳がついている。


私は女がおびえる姿と男が警戒する姿をみて何かがおかしいと察した。

敵意を向けられている。

私は身動ぎできずベッドの上で、その場に蹲(うずくま)るしかできなかった。

女は涙を流し男にすがりついて叫ぶ。


 ヴァス ゾル イッ ブロー トゥン!アー!アハ!

 ヴァス フュー アイーヌ グラウーザン カッ!

 ヴィー コンタィダ グェシェー! ヴァル ミン キント!


何を言っているのかわからない・・・でも何かしら否定的な表現であろう・・・。


男が女に何かを言い聞かせるように彼女にしゃべりかけている。


 ベルー ゲ ディ、エア イスト ノホ アイン バブ・・・

 シャウ マー アウフ ザイ ヒントグレンク、 

 ドルト イス ダスゼーベ スクラーヴェンツァイヒェン アインゲグラヴィールト

 ヴィー アゥフ ウゼェン ハルーベーダイン。


本当に何語なんだ?

私は賭けに出ることにした。

人間であれば確実に不気味なので殺傷処分されるだろう。

二人は明らかに人間離れしており自分の手足を見ても同様である、緑色の肌に手の指が異様長い。

そしてなぜか私の右腕に腕輪のようなものがついている。マジックアイテムだろうか?


喉を鳴らし、あー あーと声を出す。 

男女は驚きながらも抱き合ったままだ。


私は目を閉じてネットのメモを読む、ゆっくりと落ち着いて母体で聞いた優しい声を真似るように声を出してみた。

  グー アート グー ナハー ♪

  シュラー シュラー ホダー ズースー クアーベ ♪

  シュラー マン プンツヒェン シュラー アーイ ♪


恐る恐る目を開いて二人を見てみると、女が涙を流し口元を抑えながら私に這い寄ってきた。

彼女は私を睨むように目を離さずに見つめると意を決したように臍(へそ)の尾を引きちぎり結ぶ。

そして私をシーツで包むと部屋の隅おいてある水瓶(みずがめ)から桶に水を満たし始めた。


私はシーツに包れて動けない。

あれか・・・水に沈められるやつだ。


彼女は私を抱えて水を張った桶に布を入れる。

あれだ・・・濡れた布で窒息させる方か。


すると彼女は優しく私の顔を濡れた布で拭き清めた。

男が近づくと彼女は私をかばうように男に背を向けた。


二人はしばらく言い争ったが男が折れたのか男は部屋の掃除を始めた。

ひとまず今日は一命はとりとめられたようだ。

しかしこの体なかなか便利だ。

匂いや音で建物が石と木でできており家具の配置や人の動きが手に取るようにわかる。

ここは3階建ての建物で私たちは2階に居る。上の階には3人の気配がして1階には4人いる。

目を閉じていても見えるように気配が感じるのだ。


女は私を抱き上げて「マン プンツヒェン」と一言声に出し私を抱きしめた。


そして私は男のつぶやきを聞き逃さなかった。


「アィン ゴ(・)ブ(・)リ(・)ン(・) キート、 ヴァ…」


童話(子守歌)と言語のネタバラし。 

ダークエルフはドイツ語をベースにしています。

カタカタ読みは適当にいじっているところがありますので、本作の登場人物は実在する言語正しくしゃべっているわけではありません。


「Guten Abend, gute Nacht(こんばんは、おやすみ)」

「Schlafe, schlafe, holder süßer Knabe(お眠り、愛らしい坊や)」

「Schlafe, mein Prinzchen, schlaf ein(お眠り、私の小さな王子様)」

カタカナ読み:

グーテン アーベント グーテ ナヒ

シュラーフェ、シュラーフェ、ホルダー、ズーサー、クナーベ

シュラーフェ、マイン・プリンツヒェン、シュラーフ・アイン


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