7話
朝からひともんちゃくあったけど、私も行くと泣いて嫌がる母さんのいさめて無事に学園に登校したのに……視線が痛いんだけど?
でもしかたないか……俺は悪役令息なんだし、悪役令息ってのは嫌われ者って相場が決まっているからね。
学園で起こる問題ごとはだいたい悪役令息が悪いんだし……。
うんうん、だから謂れのないことでひそひそと陰口を叩かれるのも、ジュースのつまみに卑怯者だとネタにされるのも、敵意剥き出しの目で睨まれるのも……ぜんぶ悪役令息のせいだね。
「魔法やスキルは無しという約束の決闘だったのに、スケルトンを三体も出したらしい」
「この前、手も足も出せずにボコボコにされたから怖かったんだろ?」
「なんでもそのご自慢のスケルトンで雑魚どもを討伐する代わりに娘を侍女に要求したんだって」
「まったくゲス野郎もあそこまで行くとすげぇな、尊敬するよ」
王女殿下もずいぶんとずるい手を使ったみたいだ。
でもそれぐらいのことなら平気な顔でできるぐらいじゃないと王族なんてやっていられないのかもしれないね。
貴族なんて比べものにならないほど身内同士で骨肉の争いとかをしているんだろうし……。
「ギリス様」
「っん?」
「大丈夫ですか?」
「えっと、なにが?」
「えっ?」
ノルゥの心配はわかるけど悪役令息なんてこんなものじゃないかな?
それに俺にはかわいいノルゥがいて、かわいくてきれいな母さんもいる。
プラマイで言えばかなりプラスだよね。
「俺にはノルゥと母さんがいるんだから、他の人たちになにを言われても別に気にならないよ」
「そう言っていただけるのは大変うれしいのですが、ギリス様はいずれ奥様をお迎えいただかなくてはなりませんので」
「まあ、そうなんだけどね」
ラグズリーフェルト伯爵家に見合った家柄のお嬢様を嫁にして家と家との繋がりや仲人をしてくれた家との繋がりの強化を計らなくてはならないんだよね。
「でも、しばらくはそういうのはちょっとアレかなって」
「……ギリス様」
ノルゥが顔をしかめた。
「えっと……なんか、ごめんね」
「いいえ、ギリス様のせいではありません。私の配慮が足りませんでした。すみません」
「いや、謝らなくていいよ。そこまで深刻な話でもないから」
教室に入るとあのゲームの主人公ことハルトが親の仇みたいな目で俺を見てくる。
今日も公爵令嬢のアリアンナと聖女のセイラ、それから俺の義弟のカインたちとは一緒みたいなんだけど……王女殿下は離れた場所で他の女の子たちと談笑している。
「あら、今日はお越しになられたのですわね、お好きなときにだけ学園にいらっしゃるなんてずいぶんといいご身分でいらっしゃること」
「えっと……ちょっと用事があったんだ」
「学生にとって学業よりも大事な用なんてあるのかしら?」
おっしゃる通り。
「そうなんだけどねぇ」
「それとこの前の決闘ですが、無効になりましたわ」
「っん?」
「あなたが不当な手段を用いたと判断されたのですわ」
「えっと……それってどっちのこと? ハルトが魔法やスキルを使って意識を失っている俺をボコボコにした方?」
アリアンナがギッと目を鋭くして俺を睨む。
怖いよ、それ。
俺もできれば穏便に学園生活を送りたいんだけどいちおう次期伯爵の伯爵令息ではあるからね。
一方的に公爵令嬢の言いなりになっているわけにもいかないもんね。
「あなたが不正にスケルトンたちを使用した方ですわ」
「それは王女殿下の意志のもとに判断されたって認識で大丈夫?」
ハルトたちから離れたところにいる王女殿下のことを見る。
「あの場には王女殿下もいらっしゃったし、決闘がどのように行われたのかよくご存知でいらっしゃるはずだもんね」
「私の意思ではありません」
「そうなんですか? では?」
「学園長の判断ですわ、やはり決闘は正々堂々と……」
「魔法使いでも素手で近接系の戦士と殴り合えってこと?」
首をかしげるとアリアンナが、「ぐっ」と声を漏らしてギッと歯を食いしばる。
「ハルトはそれでいいの?」
「えっ?」
「決闘は名誉とかをかけて行われるものなんだよね? 勝ったら君の言う通りに、だけど負けたらやっぱり今のは無しでは誰も君のことを信用しなくなると思うけど?」
ハルトはカインのことを見て顔をしかめてから俺のことを睨む。
「君がズルをしなければ良かっただけのことだよね?」
「そう、わかった、無効は受け入れるよ。だけど次からも決闘を申し込まれた際はスケルトンたちを使わせてもらうね。俺は魔法使いだから殴り合いの喧嘩は苦手なんだ」
ここでごねたところで学園の最終決定権は学園長にあるからね。
王族や公爵家ならその決定も覆せると思うけど、噛ませ犬の悪役令息如きでは無理。
「まさか君も始める前から俺が負けるとわかる方法の決闘を無理強いしたりはしないよね?」
「……」
「ではなぜ、私を賭けた決闘ではスケルトンを使用しなかったのですか?」
おおぉ、我らが元婚約者だね。
なんか影がずいぶんと薄くなっていたから気づかなかったよ。
「記憶がないからわからないけど、きっと托卵されたら困るからだよ」
「「なっ?!」」
「今のはちょっと品位にかける発言なのではなくて?」
「そうかなぁ、でもどこの家だって困るから受け入れないでしょ?」
首をかしげながら教室内を見回すと俺たちのことを見ていた他のクラスメイトたちもざわざわとし出した。
困るもんね。
貴族位は基本的に血で継承していくものなんだから、托卵なんて認めるわけにはいかないよ。
そんなことを認めてしまえば、自分たちの存在意義すらも揺れかねないもんね。
「そういうことを言っているのではありませんわ。クラスメイトへの発言としてどうかと言っているのです」
「じゃあ、なんて言えばよかったの?」
「それは……」
「君たちが愛し合っているのは知ってるけど、君たちの愛の結晶を我が家の子として育てるわけにはいかなかったんだよ。とか?」
また首をかしげると教室内のざわめきがより一層強くなった。
それでもハルトと元婚約者は黙っている。
まあ、ここでうかつな発言はしないよね。
「あなたはご自分がなにを言っているのかわかっているのですか?!」
「えっと、わかっているけど?」
「著しく彼女の名誉を……」
元婚約者の顔を見たアリアンナが目を見開いて言い淀んだ。
それから、ハルトのことを見る。
信じられないよね。
正しく公爵令嬢として矜持を持って生きてきたアリアンナには、令嬢としての価値がゼロになると言って等しい婚前交渉をするなんてありえないもんね。
「……バカなのですか?」
アリアンナの呟きで、教室内のざわめきが収まっていく。
誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。
「答えなさい、ハルト」
「俺たちは……そんなことをしていない」
ハルトがそう絞り出すと元婚約者は悲しそうな顔をハルトに一度向けてからうつむいた。
愛してくれていると信じていたんだもんね。
だけど自業自得だよ。
アリアンナはハルトではなく、そんな俺の元婚約者の態度を見て目をつぶった。
「大事なのは事実かどうかではなく……婚約者と婚約者の家にそう思われたこと……ということですわね」
「アリアンナさんも少し気をつけた方がいいと思うよ。俺たちはさすがに爵位の低いハルトをアリアンナさんが相手にするわけないってわかっているけど、アリアンナさんの婚姻相手となる他国の王族とかがそう思うかはわからないからね」
なにせあのゲームではハルトの家の爵位を伯爵位まで上がっていくと、最初から後ろ盾をしてくれていたアリアンナ公爵令嬢も攻略できるようにできていたからね。
もちろん正しい公爵令嬢であるアリアンナが婚前交渉なんて許すわけないから、最後に婚姻してエンディングでスチルをゲットってことらしいけど……。
アリアンナが目を開いて俺を見ながら、「ありえないことを、と言い切れないですわね」とつぶやいた。




