6話
四人の馬に乗る騎士たちに俺たちが乗る馬車を護衛してもらいながら移動する。
馬車の中で、「クリエイトスケルトン」でイチロー君たちを作って疲れたらリシャさ……もういいか、母さんの膝枕で休むを繰り返して……。
「本当にまだいたね」
「そうね。まったく困ったものだわ」
「イチロー君、ジロー君、サブロー君、わからせてやりなさい」
金と女をよこせと馬車を襲ってきたヒャッハーの人たちをイチロー君たちがサクッとわからせて、その人たちに案内をお願いして盗賊のねぐらも潰す。
今回は使われなくなった坑道を改造したアジトだったけど、薄暗くてもイチロー君たちならなんの問題もないし、張ってある対人用の罠もイチロー君たちにはまるで意味がないので盗賊たちは簡単に蹂躙された。
木箱や樽を運び出すイチロー君たちを眺めていると、「まったくゴミは後片付けの方が大変ね」と母さんが呟き、オランさんが、「消毒も兼ねて、坑道ごど燃やされてはいかがですか?」なんて言ったような気が……うん、気のせい、気のせい。
「母さん、冒険者さんを増員する?」
「そうね、やたらと時間がかかるし、そうしようかしらね」
「うん」
仕方のないことなんだけど、こういうのは倒すより片付けの方が何倍も時間がかかるからね。
ついでに盗賊に捉えられていたお姉さんたちのケアもお願いしたいので、近くの街の冒険者ギルドに来ると定番なのか……。
「坊ちゃんが冒険者ギルドになんのようだ?」
「ずいぶんといい女……」
舌なめずりした冒険者が御者の格好をしている騎士のオランさんに殴られて吹っ飛んだ。
あれは舌を噛んだんじゃないか?
「てっ、てめぇ!」
仲間の冒険者が頬を引き攣らせながらイキると問答無用でオランさんに切り捨てられた。
いやいや、まじか……なんかもっとこうお話し合い的なのがあるよね?
でも、まあ、そうか。
「おい、なにしてる」
筋肉ダ……ガタイのいいおじさんがカウンターの裏から出てきて、母さんを見ると目を見開いた。
「ばっ、バカやろうどもラグズリーフェルト家のリシャ様じゃねぇか、死にたくなかったら全員その場でひざまづけぇぇぇぇぇぇ」
おおぉ、なんかこの反応は新鮮だね。
「リシャ様、なんの御用でございますか?」
「ひさしぶりね」
「ご無沙汰しております……」
うつむいたままのおじさんがガタガタと震えているけど、うちの優しい母さんに声をかけられて感動して……それはないね。
「うちの優しいギリスがあなたたちに代わってやんちゃしているゴミたちの掃除してくれているから、あなたたちに後片付けをお願いできるかしら?」
「ぼっ、坊ちゃまが自らですか?」
「そうよ、ギリスは天才ですからね」
母さんが言うともちろんオランさんが、「ギリス様は天才なんだよ」と追従する。
「それはもちろんそうなのでしょうが、最近少し厄介な奴らもおりまして……」
「大丈夫よ、私のギリスは天才なの」
「そうだ、ギリス様は天才だからお前たちのような愚物がギリス様の心配をするなど、おこがましいんだよ」
「それはちょっと言い過ぎなんじゃないかな……おじさんも俺のこと心配して言ってくれているんだし……」
「そうですね、申し訳ありません、ギリス様」
ハッとしたオランさんがすぐに頭を下げてくれるので、「オランさんが俺のことを思って言ってくれているのはわかってるから大丈夫だよ」とフォローしておく。
たまに母さんやオランさんの言葉が少しキツくなってしまうのは、俺に伯爵令息としての威厳という物がまるでないせいだもんね。
やっぱりきちんと統治するためには貴族って舐められたら負けみたいなところもあるし……。
だから少し涙目になった母さんが、「ギリスが優しすぎて素敵」とか言っているが、もうこういうのは気にしたら負けなんだと思う。
「私も同行してよろしいですか?」
おずおずとした様子で顔を上げたおじさんが母さんに聞くので、「いいわよ」と母さんが答える。
そんな感じで冒険者の人たちを追加で雇って盗賊狩りを続けたんだけど……三つ目のねぐらの旧砦みたいな場所はなかなかの規模で盗賊の数も多かったこともあってか、イチロー君たちの活躍を見ながら冒険者ギルドのおじさんが青ざめながら俺のことを見る。
「あのぉ、坊ちゃまは魔王様ですか?」
「あら、うちのかわいいギリスが魔王なわけないでしょ?」
「ですが、あんな強いスケルトンを大量に使役しているなんて」
「イチローちゃんたちはいい子よ」
「いい子……」
そのアジトにはけっこう強い盗賊たちもいたのでかなり長い時間、剣術や魔法などでイチロー君たちに抵抗していたんだけど、最終的には簡単にはやられず、恐怖も感じず、疲れもしないイチロー君たちにすり潰された。
それを見て抱き合いながら震えた冒険者さんたちが、「こんなの魔王じゃなきゃ、死神だよ」とか言い合っていたような気がするのだが、そんなわけ……一度死んで死神としてギリスのなか……いやいや、俺が死神なわけないよね?
「それにしても盗賊にしておくには勿体無いほど強い人たちがいたね。イチロー君たちの材質をもっと硬い素材とか、魔法に強い素材とかに変えた方がいいのかなぁ」
「ギリス?」
「どうかしたの、母さん?」
「戦争でも始めるの?」
「まっさかぁ」
「そうよね。王女たちがむかつくからって王国を潰してはダメよ」
「うん」
俺が素直にうなずくと冒険者さんたちが、「むかつくはむかつくんだぁ」と肩を落としながら掃除に向かっていって、それと入れ違うようにイチロー君たちが木箱や樽を抱えて運び出す。
そんな感じでルオディアン男爵領の盗賊のねぐらの掃除が粗方終わって王都に帰る。
これでノルゥが俺のあの義弟の侍女になる未来は消えたと思う。
前世のあのゲームではノルゥの家ルオディアン男爵家が盗賊被害で立ち行かなくなり、ラグズリーフェルト家が支援する代わりにノルゥがあの義弟の侍女となる。
そして、酷い目に遭うのだがそんな展開はクソなので元から潰させてもらった。
もちろん俺がいる限りラグズリーフェルト家としてあの義弟に侍女を付けることはない。
代わりにあのログでなし父親の実家の子爵家の騎士の娘さんとかが侍女になったりするのかもしれないが……かわいそうだとは思うけど、その子まで俺が助けることはできないと思う。
神とかじゃないから出来る範囲で出来るだけそういう展開を潰せればいい。
王都のラグズリーフェルトの屋敷に帰ると……我が家のできる家令ことルトガルさんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、リシャ様、ギリス様」
「変わりはないかしら?」
「はい、問題なく。ギリス様に侍女が付くことになりましたが」
っん?
「ノルゥ、挨拶を」
「はい」
ルトガルさんに紹介されて俺の前に来たノルゥはなぜかメイドみたいな格好をしている。
なぜ……こうなった?
朝目覚めるとそこは楽園だった……右に美女、左には美少女。
右はたわわ、左は……。
「うううん」
はい、すみません。
「でも貴賤はないと思うんだよ」
「ギリス様は一体なんのことについてお話をされているのですか?」
ノルゥのきれいな白いこめかみに青筋が浮いている。
「なっ、なんのことだろうね」
「詳しくお聞かせ願えますか? 今後の参考にいたしますので」
「えっと……」
「ギリス!」
頬を膨らませた母さんがなぜか……。
「いたたたたた」
つねる。
「なんで?」
「朝からデレデレしない」
いやいや、それは無理だと思うんだけど……。
この状況でデレデレしないやつの方がすごいと思うよ。
「ノルゥだけずるいと思うの」
「いやぁ」
「仕方ありませんよ。常にギリス様のお側に仕えて、あらゆる危険からお守りするのが侍女のとっけ……務めです」
「ノルゥ、あなた特権って言おうとしたわよね」
「なんのことですか? リシャ様」
「もう、ずるい、ずるい、ずるい」
ただ俺を起こしに来るってだけの話なんだけど……うちの母さんが恐ろしいほどにかわいい件。
地団駄踏んで駄々をこねているのがゴージャス美女だからね。
ちょっとぉ、どうなってんのさ、悪役令息ライフ……最高かよ。
「ギリス……」
「どうかしたの? 母さん」
「あなた分身とかできないの?」
「でっ……」
「でっ?」
「できぃ……ない!」
「なんでよ!」
出来るわけないよね?
もしかしたらそういう系の固有魔法とかもあるのかもしれないけど、俺が使えるのはクリエイトスケルトンという、「君に決めた、殺れ、イチロー君」とか、「ジロー先生、出番でゲスよ」とか、「さすがはサブローさんだ、少ないですがこちらを、さささっ」とかそんな感じの悪役令息らしい固有魔法だからね。
なんちゃら分身的な主人公とかが持ってそうな固有魔法は持ってないよ。
「なんとかしなさい、ギリス」
「いたたたたた、母さん、そんなに引っ張ったら」
「ノルゥが変わってくれればいいのよ」
「それは無理なのでは?」
「腕が抜けるぅぅぅ」
静かに入ってきた出来る家令ことルトガルさんが優しく母さんを引き離してくれて事なきを得た。
危うく俺の腕が俺の本体と泣き別れになるとこだったよ。
なんかルトガルさんが母さんに、「またギリス様に嫌われてしまいますよ、いいのですか?」とつぶやいていたけど……。
「この程度のことで母さんを嫌いになることはないと思うよ」
「ギリス」
「だけどちょっとだけお手柔らかにお願いできる?」
「……わかったわ」
口を尖らせているので、「ありがとう」とハグしておく。
今世の目標はあのクソゲーで酷い目にあっていた母さんとノルゥを幸せにすることだからね。
「ギリス」
「どうかしたの?」
「……大好きよ」
「俺もだよ、母さん」
だから母さんが胸を張ってふんふんと鼻を鳴らしながらノルゥに対してドヤ顔をしていたとしても、ルトガルさんが頭を抱えていたとしても、ノルゥがはぁとため息を吐いていたとしても、みんなを……大丈夫かなぁ。
「なっ、仲良くしてね」
「もちろんよ」
「もちろんです」
苦労をかけることになるかもしれないけど、がんはってね、ルトガルさん。
俺もがんばるからさ。
朝食をいただき、着替えてエントランスに降りて行くと、母さんとルトガルさんが……っん?
「なんで母さんが制服を着てるの?」
「似合うかしら?」
「うん……よく似合ってはいると思うけど?」
母さんは俺たちと同じ制服を着ている。
「私も……」
「「それはダメでしょう!」」
「なんでよ!」
「いやぁ、だって、母親同伴で学園になんて行ったら笑われるよ」
「笑いたい奴らには笑わせておけばいいのよ」
「「……」」
確かにそうか……どうせ今も笑われているんだし、変わらないんだからそれで母さんがうれしいのなら別に一緒でもいっか……って、待てぃ、絶対にダメでしょ?
「さすがに許可が降りないでしょ?」
「そうですね、ギリス様のおっしゃる通りかと」
「残念ながら前代未聞のことなので騒ぎになってしまうと思いますよ、リシャ様」
「ぐっ」
「諦めてください、リシャ様。やはり私と屋敷で待っていた方がよろしいかと」
「というか、制服なんてよくあったね」
「えっと……」
母さんがノルゥを見るとノルゥが、「あっ」と声を出した。
「もしかして、私の予備ですか?」
「なっ、なんのことかしら?」
マジか、確かに胸の辺りが……僕は思わず母さんの胸を見て、ノルゥ……。
「うううん」
なんか、ごめんね。
「脱いでください」
「いやよ」
「どうせ学園にはいけませんよ」
「……わかってるわよ」
だからノルゥが胸を張ってふんふんと鼻を鳴らしながら母さんに対してドヤ顔をしていたとしても、母さんが悔しそうな顔でギギギっと歯噛みをしていたとしても、ルトガルさんが……本当に大丈夫かなぁ。
「ギリス様」
「なに?」
「ルオディアン領にいた盗賊なのですが」
「うん」
「どうやらどこかの家の騎士が混ざっていたようです」
「えっ? つまりどこかの家がルオディアン男爵家を没落させようとしてたってこと?」
「確証はございませんが、おそらくは……」
マジか……没落させるために盗賊のフリをさせた騎士たちでルオディアン男爵家の領内を荒らしていたってこと?
「お気をつけを」
「俺も狙われるかもしれないってこと?」
「わかりません。ですがギリス様に潰されましたからね」
「おもしろくは思わないってことだよね」
「はい」
「わかったよ」
やっぱりイチロー君たちに使っている材質を鉄よりもっと硬い材質とか、魔法に強い材質に変えた方がいいかもね。
「申し訳ありません」
「っん?」
「私が……」
「なにを言ってるの? 悪いのはノルゥじゃないでしょ?」
「ですが、私がお願いしたりしなければ」
「あのさ、それでノルゥが酷い目に遭えばよかったの?」
「……」
残念ながら世の中には酷いことをする人たちがいて、その人たちは自分たちの利益や欲のために他者を踏みにじる、平気な顔で……だからきっとみんながみんな幸せになれるわけじゃないんだと思う。
「怒るよ」
「ギリス様?」
「俺は助けたいと思って、それができると思ったから助けたんだよ」
「ですが……そのためにギリス様が狙われることになったかもしれないんですよね?」
「今更でしょ?」
残念ながら俺は悪役令息だからね。
しかもうちの爵位を狙っているやつらもいるし、どんな思惑があるのか知らないけどそれを支援していると思われる人たちもいる。
「母さんと俺と幸せになってよ、ノルゥ」
「ギリス様……」
「それはプロポーズかしら?」
「母さん?」
「私の答えはイエスよ」
「リシャ様、いま茶化されるのはどうかと」
母さんがルトガルさんとまた言い合いを始めるとノルゥが小さくふふっと笑う。
「よろしくお願いします」
「えっと……それはプロ……」
「違います!」
ノルゥがプイッと横を向いたけど、その耳が赤くなっているから思わず笑いそうになった。
本当に悪役令息は……。




